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第三章 学校生活始めました
33.あべこべ魔術
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真琴の話を聞いた副校長のカナエは、難しそうに顎へ手をやったまま黙りこくっている。まあ確かに奇想天外と言うか、魔術の先生としては受け入れがたい内容なのだろう。
「いや、でも…… しかし、それでも……
―― わかりました、まずはやってみることにしましょう。
では準備はよろしいですか?」
「はい、いつでも大丈夫、のはず。
ダイジョブだよね? お兄ちゃん?」
「あ、ああ、特別なことをするわけじゃない、いつも通りでいいんだな?
うまく行かなくてもトンデモない事が起きるわけじゃないし、やってやる!」
僕は浄化装置に魔力を貯めるレイの円柱へと手をかざし、いつもやっているように手のひらへ魔力を集中されるイメージを持って集中した。真琴がやった時には腰くらいの高さの円柱が天井まで伸びていった。上がった分だけ魔力が溜まっていると言う事らしいので、今もほぼ最大値なのだろう。
数秒が経ち地鳴りのような振動を感じると、目の前の円柱が微妙に動いたように見えた。もしかしたら僅かでも魔力を送り込むことが出来ているのかもしれない、なんて考えるのは早計で、事前に真琴から聞かされていた推察が正しいとすれば、今起こっている現象は通常の逆《・》のはずだ。その証拠に円柱は徐々に下がっていた。
「まさか…… こんなことが起こるなんて……
いや、原理的にはわからなくもありません。
魔術には体内の魔力を使うものと大気中の魔素を直接使うものがありますからね。
しかし、魔力を吸収するなんて聞いたことがありません」
「そうなの、マコもおかしいなって思ったんだけど先生も知らないのかぁ。
授業で習ったのは、魔素を身体に取り込んで魔力にしてから使う、だよね?
でもお兄ちゃんの場合は魔力を取り込むことが出来てる。
今のところそれを外に向かって使う方法がわからないのが残念ポイントだね」
「結局残念魔人ってところは変わってないんだよなぁ。
でも魔術がうまく使えてない人の助けになれるかもしれない、そうなんだろ?」
「うん、マコが思うに、食材を料理するのが魔術だと思うの。
でもお兄ちゃんの場合は料理は出来なくて食べる方って感じかな。
あれ? なんかすごいダメな感じに聞こえちゃうね」
「大丈夫だ、ダメな感じなのは自分でも良くわかってるからな。
でもこれを何とかできればすごいことになるかもしれないぞ。
副校長、魔術がうまく使えない人ってどのくらいいるんですか?
今魔術基礎で足踏みしてる生徒だけで五人はいるんだから結構いそうですよね?」
「はい、感覚的には十人に一人くらいはいると思います。
そう言う人たちは今まで魔術に頼らず生活してきました。
ロミさんのように果物を採ったりするのもその一つです。
ただ浄化魔術くらい使えないと不便ではありますね」
十分の一くらいとは思ってるよりも大分多い印象だ。学校と言う限られた中だから五人もいる、のではなく、全体を見回してもそれなりにいるのだ。しかも今まで研究もされずに来ているため爺ちゃんの著書にも残されていないようだ。
だが待てよ? この現象はどこかで見た気がする。とは言え問題は見たことがあるかどうかではなく、吸い取って蓄えた魔力の使い道と言うか、使い方がわからないことだった。要はインプットに対するアウトプットが出来ない事が一番の問題なのだ。その真相を確かめるにはやはり爺ちゃんの書庫を漁るしかない。
副校長のカナエにはちゃんと学校へ来るようにと言われたが、真琴を放っておいて先の見えない授業に出る価値が僕には見いだせない。自分でもシスコン気味だと思うが、唯一の肉親が苦しんでいるときには寄り添ってあげたいのだ。
しかし、そんなことを考えながら家に帰りついた僕は、その考えが思い上がりだと言うことを思い知ることになった。
「お兄ちゃん? マコに気を使って家にいるのはもうやめてほしいの。
学校へ行けば魔術が使えるようになるなんてこと無さそうなのはわかってるよ?
でもそれなら最初みたいにマーケットへ行くとか、ロミちゃんと山へ入ってみるとかさ。
今のお兄ちゃんはただのひきこもりだよ!」
この言葉にはグサッときた。確かに真琴の心配をしているのは事実だ。しかし僕が家にこもっていてもなんの解決にもならないし、自分自身のためになるわけでもない。結局のところ、自分が魔術の習得に手こずっているのを真琴のせいにして現実から逃げているだけなのだ。
「マコがさ、お爺ちゃんの集めた本の中になにかヒントがないか調べてみる。
だからお兄ちゃんは自分のために時間を使って欲しいんだ。
あの、それでね…… 薔薇の苗木がもっとほしいなってね、えへっ」
「そうだな、なにか稼げるものを考えていっぱい買ってやるさ。
ラーメンのことも放ったままだし、明日はマイさんのところにでも言ってみるか。
空き瓶が売れるかも試してみるのも悪くない。
なんなら一緒に行くか?」
「うーん、誰か知ってる人に会うと気まずいからやめとく。
マイちゃんは気にしてないって言ってくれたけど本心はわからないし。
やっぱり副校長先生はマコの扱い、明らかに困ってたもんね」
「凄い力を持ってるからって祭り上げられるよりはまだマシだよ。
僕は村長がなにか言いだすんじゃないかって心配で仕方ないんだ」
「ふふ、お兄ちゃんが凄い力を持ってたら言いだしてたかもね。
今でもきっと領主になって欲しいって思ってるよ?」
「ホントそういうの勘弁してほしいよ。
なんか無力でダメな跡取りってマンガとかに出てきそうなダメキャラだもんなぁ。
でも魔術に関しては真琴に期待して気長に待ってるよ」
とは言っても僕は僕で調べたいこともあるのであとで書庫へ行ってみるつもりだった。その前に地下倉庫から売れそうなものを見繕い、ビールの空き瓶と店で使っていた器をいくつか用意した。
その中にはもちろん、あの伝統的な謎のぐるぐるが書いてあるラーメン丼もあり、爺ちゃんが作ってくれたラーメンを真琴と二人で分けて食べていた幼い頃を思い出していた。
「いや、でも…… しかし、それでも……
―― わかりました、まずはやってみることにしましょう。
では準備はよろしいですか?」
「はい、いつでも大丈夫、のはず。
ダイジョブだよね? お兄ちゃん?」
「あ、ああ、特別なことをするわけじゃない、いつも通りでいいんだな?
うまく行かなくてもトンデモない事が起きるわけじゃないし、やってやる!」
僕は浄化装置に魔力を貯めるレイの円柱へと手をかざし、いつもやっているように手のひらへ魔力を集中されるイメージを持って集中した。真琴がやった時には腰くらいの高さの円柱が天井まで伸びていった。上がった分だけ魔力が溜まっていると言う事らしいので、今もほぼ最大値なのだろう。
数秒が経ち地鳴りのような振動を感じると、目の前の円柱が微妙に動いたように見えた。もしかしたら僅かでも魔力を送り込むことが出来ているのかもしれない、なんて考えるのは早計で、事前に真琴から聞かされていた推察が正しいとすれば、今起こっている現象は通常の逆《・》のはずだ。その証拠に円柱は徐々に下がっていた。
「まさか…… こんなことが起こるなんて……
いや、原理的にはわからなくもありません。
魔術には体内の魔力を使うものと大気中の魔素を直接使うものがありますからね。
しかし、魔力を吸収するなんて聞いたことがありません」
「そうなの、マコもおかしいなって思ったんだけど先生も知らないのかぁ。
授業で習ったのは、魔素を身体に取り込んで魔力にしてから使う、だよね?
でもお兄ちゃんの場合は魔力を取り込むことが出来てる。
今のところそれを外に向かって使う方法がわからないのが残念ポイントだね」
「結局残念魔人ってところは変わってないんだよなぁ。
でも魔術がうまく使えてない人の助けになれるかもしれない、そうなんだろ?」
「うん、マコが思うに、食材を料理するのが魔術だと思うの。
でもお兄ちゃんの場合は料理は出来なくて食べる方って感じかな。
あれ? なんかすごいダメな感じに聞こえちゃうね」
「大丈夫だ、ダメな感じなのは自分でも良くわかってるからな。
でもこれを何とかできればすごいことになるかもしれないぞ。
副校長、魔術がうまく使えない人ってどのくらいいるんですか?
今魔術基礎で足踏みしてる生徒だけで五人はいるんだから結構いそうですよね?」
「はい、感覚的には十人に一人くらいはいると思います。
そう言う人たちは今まで魔術に頼らず生活してきました。
ロミさんのように果物を採ったりするのもその一つです。
ただ浄化魔術くらい使えないと不便ではありますね」
十分の一くらいとは思ってるよりも大分多い印象だ。学校と言う限られた中だから五人もいる、のではなく、全体を見回してもそれなりにいるのだ。しかも今まで研究もされずに来ているため爺ちゃんの著書にも残されていないようだ。
だが待てよ? この現象はどこかで見た気がする。とは言え問題は見たことがあるかどうかではなく、吸い取って蓄えた魔力の使い道と言うか、使い方がわからないことだった。要はインプットに対するアウトプットが出来ない事が一番の問題なのだ。その真相を確かめるにはやはり爺ちゃんの書庫を漁るしかない。
副校長のカナエにはちゃんと学校へ来るようにと言われたが、真琴を放っておいて先の見えない授業に出る価値が僕には見いだせない。自分でもシスコン気味だと思うが、唯一の肉親が苦しんでいるときには寄り添ってあげたいのだ。
しかし、そんなことを考えながら家に帰りついた僕は、その考えが思い上がりだと言うことを思い知ることになった。
「お兄ちゃん? マコに気を使って家にいるのはもうやめてほしいの。
学校へ行けば魔術が使えるようになるなんてこと無さそうなのはわかってるよ?
でもそれなら最初みたいにマーケットへ行くとか、ロミちゃんと山へ入ってみるとかさ。
今のお兄ちゃんはただのひきこもりだよ!」
この言葉にはグサッときた。確かに真琴の心配をしているのは事実だ。しかし僕が家にこもっていてもなんの解決にもならないし、自分自身のためになるわけでもない。結局のところ、自分が魔術の習得に手こずっているのを真琴のせいにして現実から逃げているだけなのだ。
「マコがさ、お爺ちゃんの集めた本の中になにかヒントがないか調べてみる。
だからお兄ちゃんは自分のために時間を使って欲しいんだ。
あの、それでね…… 薔薇の苗木がもっとほしいなってね、えへっ」
「そうだな、なにか稼げるものを考えていっぱい買ってやるさ。
ラーメンのことも放ったままだし、明日はマイさんのところにでも言ってみるか。
空き瓶が売れるかも試してみるのも悪くない。
なんなら一緒に行くか?」
「うーん、誰か知ってる人に会うと気まずいからやめとく。
マイちゃんは気にしてないって言ってくれたけど本心はわからないし。
やっぱり副校長先生はマコの扱い、明らかに困ってたもんね」
「凄い力を持ってるからって祭り上げられるよりはまだマシだよ。
僕は村長がなにか言いだすんじゃないかって心配で仕方ないんだ」
「ふふ、お兄ちゃんが凄い力を持ってたら言いだしてたかもね。
今でもきっと領主になって欲しいって思ってるよ?」
「ホントそういうの勘弁してほしいよ。
なんか無力でダメな跡取りってマンガとかに出てきそうなダメキャラだもんなぁ。
でも魔術に関しては真琴に期待して気長に待ってるよ」
とは言っても僕は僕で調べたいこともあるのであとで書庫へ行ってみるつもりだった。その前に地下倉庫から売れそうなものを見繕い、ビールの空き瓶と店で使っていた器をいくつか用意した。
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