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11話 最強のサポーター
しおりを挟む帝国軍事学校、実技テスト。
ソウタとライエルは、くじ引きによって不本意なペアを組まされたまま、実技テストを開始した。
演習場には、多数の模擬敵機が配置されており、サポーターとアタッカーの連携が試される。
「ライエル、君は右からだ。僕は左から援護する」
ソウタは、冷静に指示を出した。彼の頭の中には、完璧な戦術シミュレーションが描かれている。
しかし、ライエルはソウタの指示を無視した。プライドの高い彼は、ソウタの指図を受けるのが我慢ならなかったのだ。ライエルは、ソウタの言葉も聞かず、単独で前方へと突進していく。
「おい、ライエル! 勝手に突っ走るな!」
ソウタは、思わず声を荒げた。
(ったく、何なんだよあいつ! 勝手に動くなよ!)
ソウタの心の中で、イライラが募る。
かつてのソウタなら、ライエルの後を追って、媚びへつらっていたのだろう。
(それにしても、元の身体のソウタは、コイツのどこが好きだったんだ? こんな傲慢で言うこと聞かない奴、面倒くさいにもほどがあるだろ!)
ソウタは、内心で愚痴をこぼした。
彼の転生前の世界では、ライエルは確かに人気キャラクターだったが、実際に接してみると、その傲慢さが鼻についた。
そんな中、先行してしまったライエルが、突如として周囲に現れた多数の敵機に囲まれた。模擬弾の雨が、ライエルに降り注ぐ。
「くそっ、何なんだこの数は!」
ライエルは、焦りと苛立ちで顔を歪めた。
彼はアタッカーとしては優秀だったが、この数ではさすがに倒しきれない。
避けきれずに模擬弾が体に当たり、痛みに顔を歪める。彼のシールドは、あっという間に削られていく。
このままでは、絶体絶命だ。
ソウタは、ライエルの窮地を瞬時に察知した。
彼の顔から、イライラは消え、冷静なプロのサポーターの顔になっていた。
(まずい! ここでライエルがやられたら、テストは失敗。僕の成績にも響く!)
ソウタは、ライエルを見捨てるという選択肢は、一瞬たりとも頭に浮かばなかった。
彼の足が、ライエルの方へと走り出す。
ソウタは、ライエルの背後に回り込み、彼を守るようにして、自身のサポーター用シールドを精密に展開した。
敵の攻撃は、全てソウタのシールドで受け止められる。
「ライエル、動くな! 援護する!」
ソウタの声は、冷静だが、その指示には絶対的な確信が込められていた。
そして、ソウタは、懐に隠し持っていた、小型のアタッカー用武器を取り出した。
それは、貴族派に対抗するため、そして自身の身を守るために、密かに練習していたものだった。
ソウタは、シールドを展開したまま、もう片方の手で、小型武器を構える。
その動きは、無駄がなく、そして素早かった。
彼の涼やかな瞳は、敵機を正確に捉える。
シュン、シュン、シュン!
ソウタが放つ模擬弾は、次々と敵機の弱点を射抜き、正確に機能停止させていく。
まるで舞うような、華麗な動きだった。
その正確性とスピードは、彼が「サポーター」であるという事実を忘れさせるほどだった。
数秒後、ライエルを囲んでいた敵機は、全て機能停止していた。
演習場には、静寂が訪れる。
ライエルは、ソウタのその姿に、息を呑んだ。
目の前で繰り広げられた、サポーターでありながらアタッカー顔負けの戦闘能力。
その冷静な判断力と、圧倒的な実力に、ライエルは完全に心を奪われていた。
彼の心臓は、激しく脈打っている。
(ソウタ……こいつ……!)
ライエルの瞳は、ソウタを捉え、はっきりと見惚れているという感情が浮かんでいた。
かつての「ダメな若旦那」という評価は、この瞬間、完全に覆された。
彼は、ソウタの秘められた才能と、ピンチに際して見せた圧倒的な存在感に、抗えない魅力を感じていた。
ソウタは、肩で息をしながら、ライエルの怪我を確認した。
「大丈夫か? 足、怪我してるな……」
ライエルの足からは、模擬弾の色素が滲み出していた。
ソウタは、ライエルの前に背を向け、少しだけ腰をかがめた。
「ほら、僕が背負ってあげる。医務室に戻ろう」
ライエルは、ソウタの突然の行動に、顔を赤くした。
「なっ……ソウタ! 貴様……!」
「いいから、早く乗れよ。いつまでここで寝てるつもりだ?」
ソウタが促すと、ライエルは、戸惑いながらも、ソウタの背中に体を預けた。
ライエルは、ソウタの首に腕を回しながら、顔を赤らめて呟いた。
「すまない……そして、ありがとう……ソウタ……」
ライエルの口から、素直な感謝の言葉が出たのは、おそらく生まれて初めてのことだろう。
ソウタは、ライエルの言葉に、わずかに微笑んだ。
「いいけど……今度からはちゃんと僕の言うことを聞いてよ」
ソウタの声には、いつものマイペースさが戻っていた。
彼の言葉は、ライエルへの「仲直りの合図」であり、同時に、今後の「言うことを聞け」という警告でもあった。
ライエルは、ソウタの背中で、はっとした。
そして、彼の顔に、照れくさそうに、しかし嬉しそうな笑みが浮かんだ。
「ああ……分かった……」
こうして、ソウタとライエルは、険悪だった関係を乗り越え、ある種の「和解」を果たした。
ソウタは、ライエルを背負って、医務室へと向かっていた。
演習場から医務室までの道のりには、多くの生徒たちがいた。
ソウタがライエルを背負っている姿は、多くの生徒の目に留まった。
「おい、見たかよ! あのソウタ様が、ライエル様を背負ってるぞ!」
「またソウタ様は貴族派と仲良くなるのか……?」
「ってことは、やっぱりあの噂は嘘だったのか?」
ソウタとライエルが仲直りしたという噂は、瞬く間に軍事学校中に広がり、ソウタが今度はライエルと仲良くなった(貴族派とまた組んだ)という憶測を生んだ。
その光景を、遠くからルースが見ていた。
彼の顔は、明らかに不機嫌な表情だった。
ルースの瞳は、ソウタの背中にいるライエルを睨みつけている。
ソウタは、ライエルを背負って、まるで何事もなかったかのように歩いている。
(ソウタ様……! 私に片思いしているんじゃないんですか!? なのに、なんであんな奴を背負っているんですか!?)
ルースの心の中には、再び、説明のつかない不快感と、ソウタへの嫉妬が渦巻いていた。
ソウタが身を呈してライエルを助けたことは知っている。
しかし、その行為が、また別の「誤解」を生み、ルースの心をかき乱すことになったのだった。
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