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28話 皇宮への招待
しおりを挟む意識を取り戻し、侯爵邸で療養していたソウタは、数日間の安静でだいぶ回復していた。
読書をしたり、庭を散策したりと、久しぶりに穏やかな時間を過ごしていた。
その日、ソウタが庭で寛いでいると、見慣れた二つの人影が侯爵邸を訪れた。
レオ・ロウと、その相棒であるユノ・セリウスだった。
「ソウタ殿、元気そうで良かった」
レオ・ロウは、ソウタの姿を見るなり、安堵したように言った。
「あの騒動の際、君が全力でシールドを張ってくれたおかげで、協議会場では死人が一人も出なかった。本当に感謝する」
レオ・ロウの言葉に、ソウタは胸を撫で下ろした。
自分の行動が、多くの命を救ったことを知り、安堵の気持ちが込み上げてきた。
「レオ兄さん!来てくれたんですね」
ソウタは、レオ・ロウとの再会を喜び、親しみを込めて呼びかけた。
ユノ・セリウスは、にこやかにソウタに近づいた。
「ソウタ様。私はユノ・セリウスと申します。以前、テーマパークや学校で何度かお会いしましたが、きちんと名乗る機会がありませんでしたね」
ユノ・セリウスの柔らかな物腰に、ソウタも好感を抱いた。
ソウタは、騒動の後の状況をまだ詳しく知らなかったため、二人に尋ねた。
「オリオンとライエルは、どうしたんですか?」
ソウタの問いに、レオ・ロウは言いにくそうに口を開いた。
「オリオン殿は……逮捕されてしまった」
ソウタは、その言葉に息を呑んだ。
オリオンが捕まった。
ユノ・セリウスが、静かに付け加えた。
「彼自身は、レイエス家の裏切り行為について何も知らず、加担もしていませんでした」
「しかし、彼の家族、特に当主が今回の黒幕の一人であることが判明し、深く繋がっていたため……オリオン殿も、罪を免れることはできないだろう、と」
ユノ・セリウスの言葉に、ソウタは顔を伏せた。
(オリオンを助けたくて、あんなに頑張ったのに……結局、こんな結果になるなんて……)
ソウタは、オリオンの状況に、深く落ち込んだ。
自分の努力が、報われなかったことへの無力感が、ソウタの心を覆った。
レオ・ロウは、ソウタの様子を見て、ライエルについての話題を切り出した。
「ライエル殿も拘束されたが……協議会が崩壊した後、魔物から逃げ惑う貴族派の者たちを押し退け、たった一人で一般市民たちを守っていた。彼は、まさに貴族の鏡と呼ぶにふさわしい行動をした」
レオ・ロウの言葉に、ソウタは驚いた。
傲慢なライエルが、そんな行動を取るとは。
しかし、その話を聞いて、ソウタの心には、ある感情が芽生えた。
(へえ……嫌な奴が元婚約者じゃなくて、本当に良かった……!)
ソウタは、ライエルが悪人ではない事に心底安堵した。
彼の高潔な行動は、ソウタの目にはまぶしく映った。
そして、ソウタは、一番聞きたかったが、どうにも聞きにくかったルースのことについて、レオ・ロウに質問した。
「ルース……皇太子殿下は、元気ですか?」
ソウタの口から、無意識に「ルース」という呼び方が漏れ出た後、慌てて「皇太子殿下」と言い直した。
もう、以前のように親しく彼を呼ぶことはできないのだと、ソウタは痛感し、複雑な気持ちになった。
レオ・ロウは、ソウタの表情の変化に気づきながらも、穏やかに答えた。
「皇太子殿下はご壮健だ。現在は、失われた記憶を把握しながら、今回の魔物騒動を引き起こした貴族派の残党への対処を進めておられる」
その言葉に、ソウタは再び安堵した。
ルースが無事で、そしてしっかりと皇太子としての職務をこなしている。
そして、レオ・ロウは、ソウタに告げた。
「そして、皇太子殿下が、ソウタ殿にお会いしたいと仰っている。もしよければ、今から同行してもらえるか?」
レオ・ロウの言葉に、ソウタの心臓が、ドクリと鳴った。
(ルースが……僕に会いたがっている?)
ソウタの心は、期待と、そして、彼が記憶を失っていることへの複雑な感情で揺れ動いた。
それでも、ソウタは、レオ・ロウ達と共に、皇宮へと向かう準備を始めた。
――
ソウタは、レオ・ロウとユノ・セリウスと共に、皇宮へと繋がるテレポート場所まで歩いていた。
皇宮に呼び出されるなど、まさか思ってもみなかったソウタは、ひどく緊張していた。
(大丈夫だ、大丈夫……もうルースは記憶もないんだ。まさか、殺されることはない……よね?)
ソウタは、心の中で何度も自分に言い聞かせた。
彼の目的は、皇太子に殺されないこと。
そのためにルースの好感度を上げたはずなのに、記憶がないとなると、どうなるか予測不能だった。
歩いていると、隣を歩くユノ・セリウスが、ソウタの表情を見て、にこやかに話しかけてきた。
「ソウタ様、もしかして緊張していらっしゃいますか?」
ソウタは、正直に答えた。
「はい……皇宮に行くのは初めてだから…少し緊張してます」
ユノ・セリウスは、ソウタの肩をポンと叩き、安心させるように微笑んだ。
「大丈夫ですよ。リラックスしてください。
事前に、あなたがどれだけ皇太子殿下を愛し、尽くしていらっしゃったかは、もう報告済みですから」
ユノ・セリウスの言葉に、ソウタはギョッとした。
「え!? 一体、どんな情報を報告したんですか!?」
ソウタは、ユノ・セリウスの言葉が持つ意味を理解し、狼狽した。
もし、ルースへの好感度を上げるためにとった行動が、「愛している」と誤解されて伝わっているのだとしたら、話は全く変わってくる。
ユノ・セリウスは、ソウタの反応を面白がるように、悪戯っぽく微笑んだ。
「報告書は膨大ですから、今ここで全てを見せることはできませんが……特別に、こちらの写真だけならお見せできますよ」
そう言いながら、ユノ・セリウスは懐から二枚の写真をソウタに手渡した。
その写真を見た瞬間、ソウタの目が飛び出るほど驚いた。
一枚目の写真には、テーマパークで、ソウタがルースの肩を親しげに抱き寄せて笑っている様子が写っていた。
二人とも、心から楽しんでいるような、幸せそうな表情を浮かべている。
そして、二枚目の写真には、トーナメント会場で、ソウタがルースに美しい短剣を差し出している様子だった。
その写真は、まるでプロポーズの瞬間を切り取ったかのように、神秘的な光に包まれていた。
「な……な、なんでこんな写真があるんですか!?!?」
ソウタは、顔を真っ赤にして狼狽した。
彼の生存戦略のために取った行動が、こんなにも完璧な「証拠」として残されていることに、背筋が凍るような恐怖を覚えた。
記憶のないルースに、こんな写真を見られたら、一体どうなってしまうのか。
ユノ・セリウスは、ソウタの混乱ぶりを見て、さらに楽しそうに微笑んだ。
「ふふ、私たちは有能ですからね。殿下が覚えていらっしゃらない間の出来事を、頑張って探してきました」
そんな二人のやり取りを見ていたレオ・ロウが、優しく、そして呆れたように言った。
「おいおい、ユノ。あまりソウタ殿をいじめるな。彼は、ただでさえ緊張しているんだから」
レオ・ロウの声は、確かにソウタを気遣っているが、その表情には、どこか笑いをこらえているような色が見て取れた。
しかし、ソウタにとっては、笑い事ではなかった。
これらの写真が、ルースに渡っているのだとしたら。
彼が「自分はソウタに愛されている」と誤解しているのだとしたら。
ソウタは、もしかしたら殺されるかもしれない……という、新たな恐怖で体が震え始めた。
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