【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ

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31話 友との再会

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 帝国皇宮、皇太子の執務室。

 皇太子となったルースは、今日から補佐官となったソウタに会えるというだけで、内心ご機嫌だった。
 
執務室にソウタが入ってくるたび、無意識に口元が緩むのを抑えられない。

 しかし、ソウタはルースの期待とは裏腹に、与えられた仕事を黙々とこなすだけで、必要以上に近寄ってこなかった。
 
報告は簡潔に、連絡は最小限に。ソウタは、ルースとの間に、明確な距離を保っているようだった。

(ソウタは……やはり、私への想いを抑えようと必死なんだろう……)

 ルースは、数日間はそう思っていた。
 記憶を失う前の自分をソウタは深く愛していたのだから、皇太子となった自分への感情を無理に抑えているのだと、都合よく解釈していたのだ。

 だが、その考えは、次の日、打ち砕かれることになる。

「皇太子殿下。ソウタ様は本日、侯爵邸に用事があるとのことで、お休みを頂戴しております」

 ユノ・セリウスが、いつものように冷静に報告した。

 ルースは、その報告を聞いて、不満げな表情を浮かべた。
 
ソウタは、自分が想像していたよりも、ずっとあっさりと、自分と距離を取ろうとしているように見えた。
 
彼は、思った以上に、自分への「愛」を見せてくれない。

(本当にソウタは、私が好きなのか……?)

 ルースの心の中に、疑念が生まれた。
 ユノ・セリウスが渡した資料には、ソウタが自分に「ベタ惚れ」だと書かれていたはずだ。
 しかし、目の前のソウタの行動は、その報告とあまりにもかけ離れている。

 ルースは、ユノ・セリウスに鋭い視線を向けた。

「ユノ・セリウス。この学校生活の情報元は誰だ? ソウタが私を愛しているという噂のことだ」

 ルースの問いに、ユノ・セリウスは、一瞬たじろいだ。
 彼の顔に、言いづらそうな表情が浮かぶ。
 
しかし、皇太子からの直接の問いに、嘘をつくことはできない。

 ユノ・セリウスは、深々と頭を下げ、覚悟を決めたように言った。

「……恐れながら申し上げます、皇太子殿下。あの噂は……殿下ご本人が、学校中に流された噂です」

 ルースの瞳が、大きく見開かれた。
 彼が、自分自身で?

 ユノ・セリウスは、さらに続けた。

「そして、殿下とソウタ殿が仲睦まじく寄り添う写真についても……軍事学校の殿下の部屋から発見されました」

 ユノ・セリウスの言葉は、ルースの頭の中で、全てのピースを繋ぎ合わせた。
 
そうか。あの甘い写真も、ソウタへの執着のあまり、自分で用意したものだったのか。

 皇太子ルースは、その事実を聞き、全身から血の気が引くのを感じた。

(……気絶したい……!)

 ルースは、あまりの恥ずかしさと衝撃に、玉座に深く沈み込み、ぎゅっと目を瞑った。
 
自分が、記憶がない間に、どれほどソウタに執着していたのか……その事実が、ルースを打ちのめしたのだった。


「ぐっ……」

 しばらくしても、ルースは気絶することはできなかった。
 
しかし、ユノ・セリウスから突きつけられた事実は、彼のプライドを深く傷つけ、混乱させた。
 
自分が、記憶を失う前に、自らソウタに「愛されている」という噂を流し、証拠写真まで用意していたなどと、認められるはずがない。

 ルースは、頭を抱えながら、懸命に言い訳を探した。

「いいや……! あの証拠写真でも、ソウタは確かに私と寄り添って、笑っていた。それに、目を覚ました時に私が握りしめていた美しい短剣も、ソウタが私に渡したというのは紛れもない事実だ……!」

 彼は、あくまで自身の都合の良い部分だけを信じようとした。

「きっと、平民だった頃の私は、誰かに陥れられていたか……あるいは、何か深い事情があって、そういった噂を流したに違いない……!」

 ルースは、そう言い聞かせるように、自分とユノ・セリウスに言い放った。

 ユノ・セリウスは、内心で呆れながらも、顔には一切出すことなく、平然と答えた。

「……はい。左様でございますね、殿下」

 ―――

 一方、ソウタは、侯爵邸で休日を満喫していた。
 皇宮での仕事は、思いのほか楽だった。

(補佐官とか言うから、どんな激務をさせられるかと思ったけど、簡単な仕事が多くて良かったな。あれなら、僕じゃなくてもいいと思うんだけど……)

 ソウタは、そんなことを考えながら、ゆったりと本を読んでいた。
 平和な休日に、心は穏やかだ。

 すると、部屋のドアが控えめにノックされた。
 ソウタが「どうした?」と問うと、執事の声が聞こえた。

「ソウタ様、オリオン様がお見えです。応接間でお待ちでございます」

 ソウタは、その言葉に、パッと顔を輝かせた。
 親友との久しぶりの再会に、胸が高鳴る。

 急いで応接間へ向かうと、そこには少しやつれた様子のオリオンが立っていた。

「オリオン! 大丈夫だったか!?」

 ソウタが駆け寄ると、オリオンは、少しだけ頬を緩めた。

「ああ、ソウタ君。心配をかけてすまなかった。家の問題も、だいぶ落ち着いてきたんだ。それで、明日から君の同僚として、一緒に働けることになったから、伝えに来たんだ」

 その言葉に、ソウタは心から喜んだ。

「そっか!それは良かった!オリオンも大変だったね……無理はしないで。明日からまた、よろしくね!」

 ソウタは、オリオンを労るように、優しい笑顔で答えた。

 オリオンは、そのソウタの笑顔を見つめながら、心の底から湧き上がる感謝の念を込めて言った。

「ソウタ君……助けてくれて、本当にありがとう……」

 ソウタは、オリオンの言葉に、少しだけ表情を曇らせた。

「大したことはしていないよ。むしろ、もっと早くレイエス家のことに気がついて、君を助けてあげたかった……」

 ソウタは、あの時、もっと早く行動できていればと、今でも悔やんでいた。

 オリオンは、そんなソウタの言葉を遮るように、真剣な眼差しで言った。

「そんなことはない。君が助けてくれなかったら、僕の家は取り潰されていただろう。全ては僕が無能だったせいだ。爵位降格だけで済んだのは、ソウタ君のおかげだ」

 オリオンの言葉には、強い自責の念と、ソウタへの深い感謝が込められていた。

 そして、オリオンは、ソウタへの特別な感情をひた隠しながら、静かに誓うように言った。

「この恩は忘れない。一生かけて、必ず君に返す」

 ソウタは、そんなオリオンの言葉に、微笑んだ。

「相変わらず律儀だな、オリオン。友達なんだから、助けるのは当然だろう?」

 ソウタは、オリオンの肩を優しく叩き、二人は顔を見合わせて、そっと微笑み合った。
 彼らの間には、変わらない確かな友情が流れていた。


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