でろでろに甘やかして、俺なしではいられなくしたい

アキナヌカ

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09転生

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 それからのことはぼんやりとしか覚えていない、ただ僕は生きる気力を失って食事をしなくなった。当然だが僕はやせ細り弱っていった、ティアラ様とカルム様がお見舞いに来てくれたりしたが、僕は何の反応も返せなかった。ライ様だけがのえる、ばいばい、またねとお別れの言葉を言っていた。僕はばいばいはともかく、またねはできるかどうか分からなかった、それくらい僕はやせ細りか弱くなっていった。カーレント陛下は国中の医者や神官を呼んだが、僕を治せる者は一人もいなかった。そうして、僕はカーレント陛下の腕の中で息を引き取った。息を引き取る前にカーレント陛下の絶叫を耳にした。

「…………そのはずだったんだけどなぁ」

 僕はとても小さな僕の手を見ていた、僕は三歳児くらいの男の子に転生していた。髪も白く瞳は赤く僕の顔は転生前とそっくりだった、それもそのはずなぜなら僕は僕とリュゼの子として転生していた。ぼくはリュゼのような薄茶色の髪と瞳にならなかったことを残念に思っていた、リュゼはてっきり毒薬で死んだと思っていたが、毒の効き目が悪かったのか生き返ったのだ。野原に投げ捨てられた遺体が息を吹き返したのだ、僕はその時はまだ生まれてなかったから本当のところは分からなかった。でもリュゼがそう教えてくれたのだ、リュゼは偉大な王妃さまに救われたと言っていた。

「母さんは、王妃様に救われたの?」
「そうよ、その王妃さまは男の方で私に貴方を授けてくれた。生きる希望をくれたわ」

「王妃さまはどうなったの?」
「あの方は天の国に旅立たれたわ、貴方を残して今も空から見守っているわ」

 人にいつ魂が授かるのかは分からない、少なくとも腹に子ができた瞬間じゃなさそうだ。そうだったら僕がリュゼの子どもとして生まれるはずがなかった。そうしてリュゼはもうすぐ別の男性を結婚するそうだった。今度の夫になる男性は誠実な人で僕も会ったがリュゼを幸せにしてくれそうだった。僕としては変な気分だった、愛したはずのリュゼが他の男性のものになるのに、僕は少しも悲しくなくて喜びだけがそこにあった。そうして僕たちは首都に住んでいた、カーレント陛下は僕の死後、しばらくは何も手につかなかったそうだが、今でもこの首都をこの国を治めていた。

「お元気そうで何よりです」

 僕は首都に住んでいたから風の噂にカーレント陛下が元気でいることを知った。僕が王妃として盛大に葬られたことも聞いた。自分の遺体の話を聞くなんて僕は本当に変な気分だった。僕が転生したことを証明することは精々僕の頭の中の知識くらいだった。そして転生した僕は今度こそ護衛騎士を目指そうと思っていた。ただし首都ではカーレント陛下に会ってしまうから、母さんがリュゼがお嫁に行く先の地方都市でそうなろうと思っていた。そうして僕と母さんは新しい父さんと地方都市に旅だった。それから毎日、僕は体を鍛えて十五歳になったら騎士団に入った。地方都市でそこを統治する貴族につかえていた、貴族なのに平民を見下すことがない公平な人物が主人だった。

「ジンファ様、書類が溜まっていますよ。早く処理してください」
「おやまた側近たちに言われて私を呼びにきたのかい、ノエル」

「そうですよ、ジンファ様。早く執務室にお戻りください」
「分かった、分かった、ノエルには負けるよ」

 ジンファ様は真っ黒な髪に紫色の瞳をした方だった、公平で曲がったことを許さないところがあった。そこを他の貴族に嫌われていた、だから才能があるのに今は地方都市にいるのだった。昔の僕が王妃であったころにはカーレント陛下に仕えていた側近の一人だった。僕はジンファ様に聞いた。

「ジンファ様はカーレント陛下の側近に戻りたいとは思わないのですか?」
「地方にいてもあの方をお支えすることはできる、別に側近に戻れなくても構わないよ」

「ジンファ様はご立派な方です」
「時々、仕事をサボってしまうけれどね」

「それもこの都市の城内を見回るからでしょう、あんまり仕事ばかりしてると疲れますよ」
「ノエル、お前は護衛騎士を辞めて私の側近になりなさい、その才能が勿体ないよ」

「僕には勿体ないお話です」
「それとその長い髪を切ったらどうだい、せっかくのノエルの綺麗な顔が見えないよ」

 僕は前世とそっくりな顔で生まれてきてしまった、もしカーレント陛下に会ったらどんな反応をするか分からなかった。だから僕は髪を伸ばして顔を隠していた、ジンファ様も前の王妃さまにそっくりだねと言っていた。僕はいっそ顔と名前を取り替えたいと思った、リュゼは僕にノエルと名付けた、父親の名前をそのままつけたのだ。でもここは地方都市だから安心だと僕は思っていた。そうしたらやっぱりジンファ様の有能さは捨てておけなかったようだ、ジンファ様は首都に戻ることになった。当然だが僕もついていくことになりそうだった、僕はジンファ様にお仕えできなくなるのは残念だったが首都行きは断ろうと思った。そうして翌日、ジンファ様に別れを告げにいったらカーレント陛下がいた。

「国王陛下がいらっしゃるとは知らずご無礼致しました、失礼致します」

 そう言って礼をし僕はジンファ様の執務室から逃げた、逃げて逃げて都市の端にある公園まで来てしまった。そうして誰も追ってきていないことを確認するとホッとした。

「ああ、びっくりした。でもカーレント陛下がお元気そうで良かった」

 そして僕はジンファ様の護衛騎士を辞める機会を失ってしまい、首都まで一緒に行くことになった。僕は不安で不安で仕方がなかった、何度も護衛騎士を辞めようとしたのだが、ジンファ様にのらりくらりと話をそらされてしまった。ジンファ様からすれば側近候補に辞められたくないということだった。僕はなるべくカーレント陛下に近づかないようにしていた、時々城内ですれ違うことがあったが何も言われることはなかった。僕はそれでてっきりカーレント陛下に新しい好きな人ができているのかと思った。だからお城の侍女に聞いてみたが、カーレント陛下はまだ亡くなった王妃様を愛していて離宮の近くにその墓があるが護衛を置いて、カーレント陛下以外を近づけさせないという話だった。

「なんだ、新しく好きな人でも作ってくれてればいいのに」

 もちろん僕はそのお墓には近づかなかった、きっと骨になっているだろうが前世の屍なんて見たくなかった。でもある日ジンファ様がそのお墓を見つけて近づいてしまい護衛に捕まった、カーレント陛下はジンファ様を処刑すると言った。ジンファ様は言い訳も許されずに牢の中に捕らえられた。僕はジンファ様ほどの人格者がたかが墓に入ったくらいで殺されることに納得がいかなかった。だから牢に会いにいってお望みならお助けしますと囁いた。

「誰にでもね、触れられたくないことがある。私はうっかり主君のそれに触れてしまった、処刑されるのは当然のことだよ」
「ジンファ様」

「さあ、もうお帰り。護衛騎士も辞めて両親の元に帰った方がいい」
「はい」

 僕ははいと言ったけれどやっぱり納得がいかなかった、ジンファ様は墓を荒らしたわけじゃない、ただそこに近づいただけそれだけだった。僕はカーレント陛下を説得しようと思った、どうにかしてカーレント陛下に会おうとした。でも僕のような位の低い護衛騎士はカーレント陛下に話しかけることも許されなかった。だんだん僕は怒りがわいてきた、本当に怒っていたから馬鹿な行動に出た。髪を切って離宮に忍び込み、昔の僕が好んできていた衣服を身に着けた。そうして墓に忍び込んでカーレント陛下を待った。

「なんですか、カーレント陛下。たかだか僕の墓に近づかれたくらいで側近を処刑なんて!! いつから貴方はそんな馬鹿になったんです!!」
「………………ノエル?」

「はい、忌々しいことに貴方のノエルですよ。結局、離婚はできなかったですからね!! それより貴方は反省しなさい!!」
「―――――ノエル!!」

 カーレント陛下は僕に抱きついてきた、全く昔と変わっていなかった。彼は僕を抱きしめて泣いた、そうしてこんな馬鹿なことを言いだした。

「ようやく俺は死ねたのか、ようやくノエル。お前のいるところへこれたのか?」
「残念ながら貴方は死んでしませんよ、僕が生まれ変わったんです」

「それではこれは現実なのか、俺はまたお前を抱きしめているのか?」
「そうですよ、そろそろ放して貰えませんかね」

「嫌だ、嫌だ、もうお前がいない人生は嫌だ。お前を心から愛している」
「あー、そうですか。でも僕は貴方を敬愛していますが、愛してはいませんからね」

 僕がそう言ったらカーレント陛下は笑った、心の底から嬉しそうに笑った。そうして僕の頬にキスをした、僕を抱きしめたまま離れなかった。

「それでこそ俺のノエルだ、今度は間違えない。お前の愛する者まで愛してみせる」
「それって僕が好きな女性を作ったら共有するってことですか!?」

「処刑するよりいいだろう、お前も幸せだし俺もそれで幸せだ」
「全くいい加減に僕以外を愛してください!!」

「俺は今度こそお前をでろでろに甘やかして、俺なしではいられなくしたい」

 カーレント陛下はそう言ってまた幸せそうに笑った、それに対して僕は抱きしめられたままこう言った。

「やれるもんなら、そうしてください。ただし、前世の記憶がありますからね。そう簡単にはいきませんよ」

 こうしてまた僕とカーレント陛下の恋愛は始まった、僕が一方的に愛されているから恋愛と言っていいのかどうかわからないが、とにかくカーレント陛下にとっては新しい恋が始まったのだ。彼は僕を抱きしめたままでまたこう言った。

「お前を本当にでろでろに甘やかして、俺なしではいられなくしたい」
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