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18 糾弾
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「雨が降りそうね……」
公爵邸にある自室で窓から外の景色を眺めていた私はポツリとそう呟いた。
「そうですね、奥様。今日は外出を控えた方がよろしいでしょう」
「ええ……」
その言葉を耳に入れた侍女が笑顔で私に返した。
(アルフ様も火事の原因を調べるって言っていたけれど……どれくらい進んでいるのかしら……)
近いうちに彼を訪ねよう。
私の実家でなら、ディアン様に何かを言われることも無いはずだ。
そう思い、アルフ様に手紙を書こうとしたそのとき、突然部屋の扉が物凄い勢いで開かれた。
「!?」
驚いて音のした方に目をやると、そこには公爵家の騎士たちがずらりと並んでいた。
「な、何ですか貴方たちは!」
部屋にいた侍女が騎士たちの前に立つと、彼らは腰の剣を抜いて彼女に突き付けた。
「ひ、ひぃっ!!!」
見ていられないと思った私は、すぐに間に入った。
「大丈夫よ、下がって」
「お、奥様……」
侍女を庇うようにして前に立った。
「一体何の用でここへ来たの?公爵夫人である私にこのような真似をするだなんてただでは済まないわよ!」
私は怒気を孕んだ声で騎士たちに叫んだ。
しかし彼らはそんな私を冷たい目で見つめている。
そして一人の騎士が一歩前に出ると、私の腕を強く掴んだ。
「うっ!!!」
明らかに異常事態だというのに、止めようとする者は誰もいない。
何の真似かと思い騎士を見ると、彼は淡々と告げた。
「シア・グクルス公爵夫人。貴方を放火の容疑で逮捕します」
「なッ……!?」
(放火の容疑ですって……!?)
まさか私がやったという証拠でも見つかったというのか。
それを聞いた侍女が声を上げた。
「奥様は放火なんてしておりません!火事が発生したとき、奥様は間違いなく公爵邸にいたのですから!」
「――実行犯は他にいる、そうだろう?」
奥から低い声が聞こえたかと思うと、一人の人物が足音を鳴らしてこちらへとやって来た。
「だ、旦那様……!」
鬼の形相をしたディアン様だった。
「お前、本当にやってくれたな」
「私は放火などしておりません!」
「お前がやったという証拠が見つかったんだ」
そう言ってディアン様は足元に紙をばらまいた。
事件発生前に私がディアン様たちの住む邸宅の位置を調べていたことや、私の筆跡で放火の依頼をしている手紙まで。
(邸宅の位置を調べたのは事実だけれど、それ以外は捏造よ……!)
「これをどう説明する気だ?」
「私は本当にやっていないのです、旦那様……!」
必死でそう訴えるが、彼は全く聞く耳を持たなかった。
「しらばっくれるのもいい加減にしろ!!!」
罪を認めない私に堪忍袋の緒が切れたのか、彼は声を荒らげた。
「おい、お前、その女を押さえていろ」
「……閣下?」
そう言うと、ディアン様はすぐ傍にいた騎士たちの腰にぶら下げていた剣を抜いた。
(え……?)
何をするのかと疑問に思っていると、彼は何と手に持った剣の先を私に向けたのだ。
「か、閣下!いくら何でもそれは……!」
「落ち着いてください、閣下!」
騎士たちが止めようとするが、ディアン様はそんな彼らを振り払って剣を思いきり私に振りかぶった。
(ちょ、ちょっと待って……!)
取り押さえられ、身動きの取れない私には逃げることさえ出来ない。
じっと鋭く光る剣先を見つめていた私に、猛烈な死の恐怖が襲ってきた。
ここで死ぬのだろうか。
もう二度と、愛する娘に会えないのか。
リアの、愛娘の笑顔が頭をよぎった。
自分が死ぬことより、リアに一生会えないことの方が辛かった。
アルフ様にも……。
(斬られる……!)
死を覚悟して目を瞑ったそのときだった――
「!?」
鈍い音が聞こえて目を開けると、目の前に巨大な魔法陣が広がっていた。
突如現れたその魔法陣はディアン様の振り下ろした剣をあっさりと防いでいる。
「な、何だ!?」
「……」
(助かったのかしら……?)
それからすぐ、ディアン様がやって来た方向から再び足音が聞こえた。
「――これはこれは。一体何をしているのですか?公爵閣下」
「お、お前は一体……!?」
「アルフ様……!」
公爵邸にある自室で窓から外の景色を眺めていた私はポツリとそう呟いた。
「そうですね、奥様。今日は外出を控えた方がよろしいでしょう」
「ええ……」
その言葉を耳に入れた侍女が笑顔で私に返した。
(アルフ様も火事の原因を調べるって言っていたけれど……どれくらい進んでいるのかしら……)
近いうちに彼を訪ねよう。
私の実家でなら、ディアン様に何かを言われることも無いはずだ。
そう思い、アルフ様に手紙を書こうとしたそのとき、突然部屋の扉が物凄い勢いで開かれた。
「!?」
驚いて音のした方に目をやると、そこには公爵家の騎士たちがずらりと並んでいた。
「な、何ですか貴方たちは!」
部屋にいた侍女が騎士たちの前に立つと、彼らは腰の剣を抜いて彼女に突き付けた。
「ひ、ひぃっ!!!」
見ていられないと思った私は、すぐに間に入った。
「大丈夫よ、下がって」
「お、奥様……」
侍女を庇うようにして前に立った。
「一体何の用でここへ来たの?公爵夫人である私にこのような真似をするだなんてただでは済まないわよ!」
私は怒気を孕んだ声で騎士たちに叫んだ。
しかし彼らはそんな私を冷たい目で見つめている。
そして一人の騎士が一歩前に出ると、私の腕を強く掴んだ。
「うっ!!!」
明らかに異常事態だというのに、止めようとする者は誰もいない。
何の真似かと思い騎士を見ると、彼は淡々と告げた。
「シア・グクルス公爵夫人。貴方を放火の容疑で逮捕します」
「なッ……!?」
(放火の容疑ですって……!?)
まさか私がやったという証拠でも見つかったというのか。
それを聞いた侍女が声を上げた。
「奥様は放火なんてしておりません!火事が発生したとき、奥様は間違いなく公爵邸にいたのですから!」
「――実行犯は他にいる、そうだろう?」
奥から低い声が聞こえたかと思うと、一人の人物が足音を鳴らしてこちらへとやって来た。
「だ、旦那様……!」
鬼の形相をしたディアン様だった。
「お前、本当にやってくれたな」
「私は放火などしておりません!」
「お前がやったという証拠が見つかったんだ」
そう言ってディアン様は足元に紙をばらまいた。
事件発生前に私がディアン様たちの住む邸宅の位置を調べていたことや、私の筆跡で放火の依頼をしている手紙まで。
(邸宅の位置を調べたのは事実だけれど、それ以外は捏造よ……!)
「これをどう説明する気だ?」
「私は本当にやっていないのです、旦那様……!」
必死でそう訴えるが、彼は全く聞く耳を持たなかった。
「しらばっくれるのもいい加減にしろ!!!」
罪を認めない私に堪忍袋の緒が切れたのか、彼は声を荒らげた。
「おい、お前、その女を押さえていろ」
「……閣下?」
そう言うと、ディアン様はすぐ傍にいた騎士たちの腰にぶら下げていた剣を抜いた。
(え……?)
何をするのかと疑問に思っていると、彼は何と手に持った剣の先を私に向けたのだ。
「か、閣下!いくら何でもそれは……!」
「落ち着いてください、閣下!」
騎士たちが止めようとするが、ディアン様はそんな彼らを振り払って剣を思いきり私に振りかぶった。
(ちょ、ちょっと待って……!)
取り押さえられ、身動きの取れない私には逃げることさえ出来ない。
じっと鋭く光る剣先を見つめていた私に、猛烈な死の恐怖が襲ってきた。
ここで死ぬのだろうか。
もう二度と、愛する娘に会えないのか。
リアの、愛娘の笑顔が頭をよぎった。
自分が死ぬことより、リアに一生会えないことの方が辛かった。
アルフ様にも……。
(斬られる……!)
死を覚悟して目を瞑ったそのときだった――
「!?」
鈍い音が聞こえて目を開けると、目の前に巨大な魔法陣が広がっていた。
突如現れたその魔法陣はディアン様の振り下ろした剣をあっさりと防いでいる。
「な、何だ!?」
「……」
(助かったのかしら……?)
それからすぐ、ディアン様がやって来た方向から再び足音が聞こえた。
「――これはこれは。一体何をしているのですか?公爵閣下」
「お、お前は一体……!?」
「アルフ様……!」
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