27 / 36
27 過去② ドロシー視点
しおりを挟む
(何か申し訳ないことしちゃったなぁ……)
今回のことはいくら何でも少しやりすぎた。
女の方は既に手遅れだったが、残された息子のことがどうも気にかかった。
処刑された女の息子……先代公爵の婚外子でもあるディアンはあの事件があってから大罪人の息子として別邸に幽閉されている。
気になった私は、一度彼に会いに行ってみることにした。
(ここが……あの人が閉じ込められている別邸ね……)
公爵家の本邸とは比べ物にならないくらい古びた家だった。
私は見張りの騎士を買収し、くすねた鍵でこっそり中に入った。
中は使用人もほとんどいないようで、掃除もされていないのか埃が舞っている。
幽霊屋敷と見間違えてしまうほどである。
(こんなところに閉じ込めるなんて正気……?)
しばらく進むと、ある一室から物音がした。
その部屋の扉をゆっくり開けて入る。
「失礼しまーす……あの……」
中にいたのはボロボロの服を着た青年だった。
髪の毛はボサボサで、目の下にはクマがある。
私が入ってきたことにも気付かず、うずくまっている。
「あ、あの……」
肩に手を置くと、彼がゆっくりと私を見た。
もうずっと何も食べていないようで、かなり痩せこけている。
食事すら与えられていないのだろうか。
私は公爵邸から持ってきた軽食を彼に渡した。
「これ、良かったらどうぞ」
「……!」
余程お腹を空かせていたのか、彼はがっつくように食べた。
「美味しい?」
「……ああ」
「良かった」
優しく微笑みかけると、彼は顔を赤くした。
それから私は、度々別邸へ行っては彼と交流と持つようになった。
彼がこのようになったのは私のせいだったから、どうしても放っておけなかったのだ。
そこから私たちが恋愛関係になるまでにそう時間はかからなかった。
彼は私にゾッコンだった。
深い絶望の中で救いの手を差し伸べた私は聖母のように見えたのだろう。
毎日のように愛していると囁き、君だけだと口にした。
――しかし、ディアンと恋人になったとしても、私はアース様との縁を切ることが出来ずにいた。
ディアンは私だけを心から愛してくれるが、アース様のように権力も金も無いから何も出来ない。
それでは物足りない。
そんな関係を数年に渡って続けているうちに、私はついに目的を達成することとなる。
(私……妊娠したわ……!)
私はついに公爵家の血を引く子を身籠ることに成功したのである。
ディアン様とは一線を越えていないからおそらくアース様との子だ。
(この子がいれば、私は一生裕福な暮らしが出来るわ……!)
しかし、ここでも予期せぬ事態が起きた。
私が妊娠を伝える前にアース様はこの世を去ってしまったのである。
母親である公爵夫人と共に馬車事故で亡くなってしまったのだという。
公爵位を継いでから五年、早すぎる死だった。
(ちょっと待って……なら、この子はどうなるの……?)
アース様に子供はいないし、先代公爵夫人には彼しか子はいなかった。
正統な血を持つ公爵家の人間はもういないのだ。
ということは……次の公爵は……
私は慌ててディアン様の元へと向かった。
そして薬を飲ませて眠らせ、あたかも一夜を過ごしたかのように偽装した。
ディアン様が公爵になると、私は身籠っていることを彼に伝えた。
私に盲目だったディアン様は妊娠の話を疑うことなくすぐに信じた。
そうして私は嘘に嘘を重ね、強固な地位と贅沢三昧の暮らしを手に入れたのである。
今回のことはいくら何でも少しやりすぎた。
女の方は既に手遅れだったが、残された息子のことがどうも気にかかった。
処刑された女の息子……先代公爵の婚外子でもあるディアンはあの事件があってから大罪人の息子として別邸に幽閉されている。
気になった私は、一度彼に会いに行ってみることにした。
(ここが……あの人が閉じ込められている別邸ね……)
公爵家の本邸とは比べ物にならないくらい古びた家だった。
私は見張りの騎士を買収し、くすねた鍵でこっそり中に入った。
中は使用人もほとんどいないようで、掃除もされていないのか埃が舞っている。
幽霊屋敷と見間違えてしまうほどである。
(こんなところに閉じ込めるなんて正気……?)
しばらく進むと、ある一室から物音がした。
その部屋の扉をゆっくり開けて入る。
「失礼しまーす……あの……」
中にいたのはボロボロの服を着た青年だった。
髪の毛はボサボサで、目の下にはクマがある。
私が入ってきたことにも気付かず、うずくまっている。
「あ、あの……」
肩に手を置くと、彼がゆっくりと私を見た。
もうずっと何も食べていないようで、かなり痩せこけている。
食事すら与えられていないのだろうか。
私は公爵邸から持ってきた軽食を彼に渡した。
「これ、良かったらどうぞ」
「……!」
余程お腹を空かせていたのか、彼はがっつくように食べた。
「美味しい?」
「……ああ」
「良かった」
優しく微笑みかけると、彼は顔を赤くした。
それから私は、度々別邸へ行っては彼と交流と持つようになった。
彼がこのようになったのは私のせいだったから、どうしても放っておけなかったのだ。
そこから私たちが恋愛関係になるまでにそう時間はかからなかった。
彼は私にゾッコンだった。
深い絶望の中で救いの手を差し伸べた私は聖母のように見えたのだろう。
毎日のように愛していると囁き、君だけだと口にした。
――しかし、ディアンと恋人になったとしても、私はアース様との縁を切ることが出来ずにいた。
ディアンは私だけを心から愛してくれるが、アース様のように権力も金も無いから何も出来ない。
それでは物足りない。
そんな関係を数年に渡って続けているうちに、私はついに目的を達成することとなる。
(私……妊娠したわ……!)
私はついに公爵家の血を引く子を身籠ることに成功したのである。
ディアン様とは一線を越えていないからおそらくアース様との子だ。
(この子がいれば、私は一生裕福な暮らしが出来るわ……!)
しかし、ここでも予期せぬ事態が起きた。
私が妊娠を伝える前にアース様はこの世を去ってしまったのである。
母親である公爵夫人と共に馬車事故で亡くなってしまったのだという。
公爵位を継いでから五年、早すぎる死だった。
(ちょっと待って……なら、この子はどうなるの……?)
アース様に子供はいないし、先代公爵夫人には彼しか子はいなかった。
正統な血を持つ公爵家の人間はもういないのだ。
ということは……次の公爵は……
私は慌ててディアン様の元へと向かった。
そして薬を飲ませて眠らせ、あたかも一夜を過ごしたかのように偽装した。
ディアン様が公爵になると、私は身籠っていることを彼に伝えた。
私に盲目だったディアン様は妊娠の話を疑うことなくすぐに信じた。
そうして私は嘘に嘘を重ね、強固な地位と贅沢三昧の暮らしを手に入れたのである。
2,138
あなたにおすすめの小説
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
【完結】恋が終わる、その隙に
七瀬菜々
恋愛
秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。
伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。
愛しい彼の、弟の妻としてーーー。
次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛
Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。
全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
あなたの思い通りにはならない
木蓮
恋愛
自分を憎む婚約者との婚約解消を望んでいるシンシアは、婚約者が彼が理想とする女性像を形にしたような男爵令嬢と惹かれあっていることを知り2人の仲を応援する。
しかし、男爵令嬢を愛しながらもシンシアに執着する身勝手な婚約者に我慢の限界をむかえ、彼を切り捨てることにした。
*後半のざまあ部分に匂わせ程度に薬物を使って人を陥れる描写があります。苦手な方はご注意ください。
幼馴染を溺愛する婚約者を懇切丁寧に説得してみた。
ましろ
恋愛
この度、婚約が決まりました。
100%政略。一度もお会いしたことはございませんが、社交界ではチラホラと噂有りの難物でございます。
曰く、幼馴染を溺愛しているとか。
それならばそのお二人で結婚したらいいのに、とは思いますが、決まったものは仕方がありません。
さて、どうしましょうか?
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる