愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの

文字の大きさ
4 / 51

4 異変

しおりを挟む
あの後のことはあまりよく覚えてない。
パーティー会場から本邸へ帰る間、彼は一度も私の方を見ることなく、ただ何かをじっと考え込んでいるようだった。


「旦那様は……いらっしゃらないのかしら……」
「お忙しいようで、今日は自室でお休みになられるとのことです」
「そう……」


パーティーでのアランの姿が永遠に頭から離れなかった。
いつも優しい言葉をかけてくれるはずの彼がどこか上の空で、常に誰かを探しているかのように辺りをキョロキョロ見回していた。
公衆の面前でそんなことをするだなんて、彼らしくない。


(それより、どうしてこんなにも不安なんだろう……)


アランと出会ってから二十年以上経つが、彼のそのような姿はこれまで一度も見たことが無かった。
特に、私にはたったの一度も向けてくれたことの無いあの目が気にかかった。


私の勘が当たっているのなら、あれはたしかに――


そこまで考えてハッとなった。


(私ったら何を考えているの……彼がそんなことするはずがないわ……)


心の中では必死にそう言い聞かせるが、不安感はいつまで経っても拭えなかった。


(ひとまず、今日はもう寝ましょう……)


考えても仕方の無いことだと思い、ベッドに入って横になった。






***





翌日の朝。
何故かいつもより体が重かった。


複雑な思いを抱いたまま寝たからだろうか。
あまり疲れが取れなかったようだ。


「奥様、おはようございます……」
「ええ、おはよう……」


疲れ切った顔の私に、侍女が遠慮がちに声をかけた。


(侍女にまで同情されてしまうだなんて……)


こんな惨めな思いをしたのは初めてだ。
ここへ来てからというもの、優しい夫と親切な使用人たちに囲まれて幸せを感じたことしかなかったから。


自分や周囲がどれだけ変わろうと、いつものように朝はやってくる。
眩しすぎるほど差し込む日の光も、見慣れた部屋も、幸せの絶頂だった昨日のままだ。


着替えをしていると、侍女が言いづらそうに口を開いた。


「奥様、今日旦那様はこちらへはいらっしゃらないようです……」
「そう……」


何となく予想がついていた。
いつもならとっくに部屋へ来ているはずの彼がいつまで経っても訪れなかったから。


(こんなこと……今までにあったかな……)


彼を愛する気持ちに変わりはない。
だからこそ、不安でたまらなかった。


「……今日は一人で行くわ」
「はい、奥様」


仕方の無いことだと諦め、私は一人で部屋を出た。
いつも歩いているはずの廊下がとても広く感じるのは隣に彼がいないからだろう。
この時間帯に一人で歩くことなどほとんど無いからか、何だか違和感を感じる。


「……」


扉の前まで来ると、妙な緊張感が私を襲った。
彼に会えるとなるといつも胸がときめいて仕方がないのに、今日は何故だか気まずかった。


「旦那様、アンジェです」
「……ああ」


扉を開けて中に入った。


「……」


部屋の中ではアランが先に席に着いていた。
視線を少し下に向け、何かを考え込んでいるようにじっとしている。


(……もしかして、今も彼女のことを考えているの?)


彼の瞳に昨日から私は映っていない。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...