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5 無関心
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「旦那様、お待たせしてしまい申し訳ありません」
「……気にしないでくれ、私が早かっただけだ」
声をかけると、ようやく彼が私を視界に入れた。
しかし、以前のような優しい笑みはもう無かった。
どことなく気まずそうな顔。
軽蔑では無いが、愛情でも無い。
私に後ろめたいことでもあるのか。
(どうしてそんなにもソワソワしているの)
こんなの彼らしくない。
いつだって冷静沈着だったアランがこんな姿を見せるだなんて。
「……昨日はよく眠れたか?」
「はい」
「そうか、それは良かった」
いつもなら続く会話が、今日はすぐに途切れてしまう。
彼の様子がおかしいことに気付いているのは私だけではないようで、傍で見守っていた使用人たちも戸惑っている。
(しっかり向き合わないと。私は彼の妻なのだから)
彼の変化に戸惑ってばかりではダメだ。
ここはしっかり話し合うのが夫婦というものだろう。
そう考えた私は、柔らかい笑みを浮かべて彼に声をかけた。
「旦那様、今日時間があるのなら一緒にお茶をしたいのですが……」
「……」
フォークを持つ彼の手がピタリと止まった。
アランは視線を下に向けたまま口だけを動かした。
「すまない、今日は忙しくてなかなか時間を取れなさそうだ」
「……そうですか」
(……一体何があるというの?)
妻のためにたった十数分の時間すら取れないというのか。
普段ならしっかりと忙しい理由を言ってくれる彼が今日だけははぐらかした。
目の前に座る彼は、昨日からずっと私を目を合わせようとしない。
(私たち、こんな関係だったかしら……)
夫婦だとは思えないほどにどんよりとした空気での朝食だった。
***
「――ジョルジュ男爵家の令嬢がとても美しいという噂はお聞きしましたか?」
「……!」
アランとの朝食を終えたその日の午後、私は招待された侯爵夫人のお茶会に参加していた。
――ジョルジュ男爵家の令嬢。
その名前を聞いてドキリとした。
どうやら彼女は社交界で既に話題になっていたようだ。
あの美しさなら当然か。
「何人もの貴族男性が虜になって婚約を申し込んでいるそうです」
「まぁ、そんなにも美しいだなんて。一度見てみたいものですわ」
この人たちは彼女と接点が無い。
私が彼女に悩まされていることなど知らないだろう。
「そういえば、バインベルク公爵夫人は彼女を見たことがあるのですよね?」
「え……」
突然話を振られて困惑した。
近頃の悩みの種がまさに彼女であるせいか、上手く答えられない。
それでも何とか言葉を紡いだ。
「え、えぇ……それはもう……美しいお方でしたわ……」
「へぇ、バインベルク公爵夫人がそう言うのであれば間違いなさそうですわね」
夫人たちは彼女に興味津々のようだ。
私の異変になどまるで気付いていないのだろう。
当然だ、私たちは表面上は友人ということになっているが、小さな変化に気付くほど相手を気にかけたことなど無かったのだから。
「ところで、ジョルジュ男爵に娘なんていたかしら?」
「何でも愛人に産ませた子だそうです」
「婚外子ということかしら」
「だとしたら奥様とその間に生まれた長女は可哀相ね……」
「……」
会話の内容が頭に入って来ない。
あの日から様子がおかしいのは私も同じだった。
「……気にしないでくれ、私が早かっただけだ」
声をかけると、ようやく彼が私を視界に入れた。
しかし、以前のような優しい笑みはもう無かった。
どことなく気まずそうな顔。
軽蔑では無いが、愛情でも無い。
私に後ろめたいことでもあるのか。
(どうしてそんなにもソワソワしているの)
こんなの彼らしくない。
いつだって冷静沈着だったアランがこんな姿を見せるだなんて。
「……昨日はよく眠れたか?」
「はい」
「そうか、それは良かった」
いつもなら続く会話が、今日はすぐに途切れてしまう。
彼の様子がおかしいことに気付いているのは私だけではないようで、傍で見守っていた使用人たちも戸惑っている。
(しっかり向き合わないと。私は彼の妻なのだから)
彼の変化に戸惑ってばかりではダメだ。
ここはしっかり話し合うのが夫婦というものだろう。
そう考えた私は、柔らかい笑みを浮かべて彼に声をかけた。
「旦那様、今日時間があるのなら一緒にお茶をしたいのですが……」
「……」
フォークを持つ彼の手がピタリと止まった。
アランは視線を下に向けたまま口だけを動かした。
「すまない、今日は忙しくてなかなか時間を取れなさそうだ」
「……そうですか」
(……一体何があるというの?)
妻のためにたった十数分の時間すら取れないというのか。
普段ならしっかりと忙しい理由を言ってくれる彼が今日だけははぐらかした。
目の前に座る彼は、昨日からずっと私を目を合わせようとしない。
(私たち、こんな関係だったかしら……)
夫婦だとは思えないほどにどんよりとした空気での朝食だった。
***
「――ジョルジュ男爵家の令嬢がとても美しいという噂はお聞きしましたか?」
「……!」
アランとの朝食を終えたその日の午後、私は招待された侯爵夫人のお茶会に参加していた。
――ジョルジュ男爵家の令嬢。
その名前を聞いてドキリとした。
どうやら彼女は社交界で既に話題になっていたようだ。
あの美しさなら当然か。
「何人もの貴族男性が虜になって婚約を申し込んでいるそうです」
「まぁ、そんなにも美しいだなんて。一度見てみたいものですわ」
この人たちは彼女と接点が無い。
私が彼女に悩まされていることなど知らないだろう。
「そういえば、バインベルク公爵夫人は彼女を見たことがあるのですよね?」
「え……」
突然話を振られて困惑した。
近頃の悩みの種がまさに彼女であるせいか、上手く答えられない。
それでも何とか言葉を紡いだ。
「え、えぇ……それはもう……美しいお方でしたわ……」
「へぇ、バインベルク公爵夫人がそう言うのであれば間違いなさそうですわね」
夫人たちは彼女に興味津々のようだ。
私の異変になどまるで気付いていないのだろう。
当然だ、私たちは表面上は友人ということになっているが、小さな変化に気付くほど相手を気にかけたことなど無かったのだから。
「ところで、ジョルジュ男爵に娘なんていたかしら?」
「何でも愛人に産ませた子だそうです」
「婚外子ということかしら」
「だとしたら奥様とその間に生まれた長女は可哀相ね……」
「……」
会話の内容が頭に入って来ない。
あの日から様子がおかしいのは私も同じだった。
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