愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの

文字の大きさ
5 / 51

5 無関心

しおりを挟む
「旦那様、お待たせしてしまい申し訳ありません」
「……気にしないでくれ、私が早かっただけだ」


声をかけると、ようやく彼が私を視界に入れた。
しかし、以前のような優しい笑みはもう無かった。


どことなく気まずそうな顔。
軽蔑では無いが、愛情でも無い。
私に後ろめたいことでもあるのか。


(どうしてそんなにもソワソワしているの)


こんなの彼らしくない。
いつだって冷静沈着だったアランがこんな姿を見せるだなんて。


「……昨日はよく眠れたか?」
「はい」
「そうか、それは良かった」


いつもなら続く会話が、今日はすぐに途切れてしまう。
彼の様子がおかしいことに気付いているのは私だけではないようで、傍で見守っていた使用人たちも戸惑っている。


(しっかり向き合わないと。私は彼の妻なのだから)


彼の変化に戸惑ってばかりではダメだ。
ここはしっかり話し合うのが夫婦というものだろう。


そう考えた私は、柔らかい笑みを浮かべて彼に声をかけた。


「旦那様、今日時間があるのなら一緒にお茶をしたいのですが……」
「……」


フォークを持つ彼の手がピタリと止まった。
アランは視線を下に向けたまま口だけを動かした。


「すまない、今日は忙しくてなかなか時間を取れなさそうだ」
「……そうですか」


(……一体何があるというの?)


妻のためにたった十数分の時間すら取れないというのか。
普段ならしっかりと忙しい理由を言ってくれる彼が今日だけははぐらかした。


目の前に座る彼は、昨日からずっと私を目を合わせようとしない。


(私たち、こんな関係だったかしら……)


夫婦だとは思えないほどにどんよりとした空気での朝食だった。





***



「――ジョルジュ男爵家の令嬢がとても美しいという噂はお聞きしましたか?」
「……!」


アランとの朝食を終えたその日の午後、私は招待された侯爵夫人のお茶会に参加していた。


――ジョルジュ男爵家の令嬢。
その名前を聞いてドキリとした。
どうやら彼女は社交界で既に話題になっていたようだ。
あの美しさなら当然か。


「何人もの貴族男性が虜になって婚約を申し込んでいるそうです」
「まぁ、そんなにも美しいだなんて。一度見てみたいものですわ」


この人たちは彼女と接点が無い。
私が彼女に悩まされていることなど知らないだろう。


「そういえば、バインベルク公爵夫人は彼女を見たことがあるのですよね?」
「え……」


突然話を振られて困惑した。
近頃の悩みの種がまさに彼女であるせいか、上手く答えられない。
それでも何とか言葉を紡いだ。


「え、えぇ……それはもう……美しいお方でしたわ……」
「へぇ、バインベルク公爵夫人がそう言うのであれば間違いなさそうですわね」


夫人たちは彼女に興味津々のようだ。
私の異変になどまるで気付いていないのだろう。
当然だ、私たちは表面上は友人ということになっているが、小さな変化に気付くほど相手を気にかけたことなど無かったのだから。


「ところで、ジョルジュ男爵に娘なんていたかしら?」
「何でも愛人に産ませた子だそうです」
「婚外子ということかしら」
「だとしたら奥様とその間に生まれた長女は可哀相ね……」


「……」


会話の内容が頭に入って来ない。
あの日から様子がおかしいのは私も同じだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...