愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの

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9 期待

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次の日の朝。
私はいつも通りアランと朝食を摂っていた。
――地獄のような空気の中で。


「……」
「……」


私たちの間に会話はほとんど無い。
彼はさっきから黙々と食事をするだけで、私の方を一度も見ようとはしない。


(ジョルジュ男爵令嬢の前ではあんなにも柔らかく笑っていたのに……)


ここで彼女の話題を出せば、無機質な彼の瞳も変わるだろうか。
そんな考えが一瞬頭をよぎるも、結局いつまで経っても彼女のことを問い質せずにいた。


私が昨日何をしていたのか、今日は何をして過ごすのか、そんなこと気にもならないのか。
無関心、とはまさにこういうことを言うのだろう。


彼のそんな姿を見るたびにとても辛い気持ちになる。
幸せだった日々はもう戻ってこないのか。


用意された食事が全く喉を通らなかった。
前はちょっとの異変にもすぐに気付いてくれた彼だったが、今回ばかりは私のことなど全く眼中にないようだ。


しばらくして、食事を終えた彼が口を開いた。


「……私はまだ仕事が残っているから戻るとしよう。君も部屋でゆっくり休むといい」
「……」


いつもなら私が食事を終えるまでここにいるのに。
彼は食べ終わるとすぐに立ち上がって、部屋を出て行こうと早足で歩き出した。
彼の背中が段々遠ざかっていく。


(アラン……待って……行かないで……!)


以前より彼が遠く感じられて、思わず手を伸ばした。


「――旦那様」
「……?」


今すぐにでもこの場から立ち去ろうとする彼を、私は引き留めた。
振り返ったアランの瞳が私を映した。


(相変わらず綺麗ね……)


彼と目が合うのは久しぶりだ。
アランがジョルジュ男爵令嬢と出会ってから私たちは普通の夫婦ではなくなっていたからだ。
彼は優しかった頃の面影も無いほど随分と変わってしまった。


――それでも、たった一つだけ変わらないことがある。


「――旦那様、愛しています。出会った頃から、ずっと」
「……」


彼の私への関心が消えようと、この愛が変わることは無かった。
私は初めて出会った頃からずっと彼のことを愛している。


こんなにもハッキリと愛していると伝えたのは初めてかもしれない。
彼が一瞬だけ驚いたように目を見張った。


「……ありがとう、そう言ってもらえて嬉しいよ」
「……」


彼はそれだけ返すと、何の未練もなく私から背を向けて今度こそ部屋を出て行った。


「……」


部屋に一人取り残された私は、そんな彼の後ろ姿をじっと眺めているだけだった。
何だか近頃は彼の背中ばかりを見ているような気がする。


――「私も愛している」
期待していたその一言は、とうとう聞くことが出来なかった。



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