愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの

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16 大切なもの

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「アラン、久しぶりだな」
「王子殿下、お久しぶりです」


それから少しして、アランが私たちのいる客間にやってきた。
幼い頃から長い時間を共にした友人を、殿下は笑顔で出迎えた。
こっちはそれどころでは無かったが。


(アランにはいつ言うべきかしら……)


いざ彼を目の前にすると、上手く言葉に出来る気がしなかった。
妊娠を伝えなければいけないのは分かっているが、どうしても躊躇ってしまう。


もたもたしているうちに、殿下が先にアランに話しかけた。


「ところでアラン、最近何だかお前らしくない行動ばかり取っているな」
「……私らしくないとは?」


アランは意味が分からないというように眉間にしわを寄せた。
どうやら自覚が無いようだ。


「愛人を囲ったと聞いた。以前の愛妻っぷりはどこへいったんだ」
「……」
「しかも愛人宅に入り浸って本邸へはあまり帰らないんだって?正妻であるアンジェに悪いとは思わないのか?まったく、お前もジョルジュ男爵令嬢もどうかしているぞ」
「……」


アランは黙り込んだまま、じっと殿下の話を聞いていた。


(私のためにそんな風に言ってくれているのかしら……)


公爵家の当主であるアランに意見出来る人はほとんどいない。
だからこんなことを言ってくれたのは殿下が初めてだった。


女癖が悪いと聞いていたが、本当は良い人なのかもしれない。
私の中で殿下の印象がかなり変わった瞬間だった。


「殿下……」


しかし、ブリアナに夢中になっているアランにその言葉が響くことは無かった。


「――私のことはどれだけ言ってもかまいません。だけど、彼女だけは侮辱しないでください」
「……何だと?」


アランの鋭い目が、殿下に向けられた。


彼は信じられないというような目で険しい顔のアランを見ていた。
当然、私も同じ気持ちだ。


(王族に対してなんてことを……)


いくら幼い頃からの仲とはいえ、無礼にもほどがある。


「お前、今自分が何を言っているか分かっているのか?」
「分かっています」


アランと殿下の言い争いが続く。


「では、頭がおかしくなったのか?」
「……私はただ大切なものを守ろうとしているだけです」


(大切なものを守る……)


その大切なものの中におそらく私は入っていない。


(もし、生まれた子までそのような扱いを受けたら……)


そんなことするはずがないと信じたいが、今の彼なら十分にありえることだった。


「用件がお済みなら私は失礼します」
「お、おい待て!そんなに急いでどこへ行くつもりだ!」


苛ついた様子で部屋を出ようとするアランを、殿下が引き止めた。
振り返った彼はキッパリと言い放った。


「――愛する者の待つ家です」
「……」


愛する者の待つ家とは、ブリアナのいる別邸のことだ。


「そこが私の帰るべき場所ですから」


それだけ言うと、彼はすぐに私から背を向けて歩き出した。


(ちょっと待って……!私まだ貴方に伝えてないことが……!)


去って行く彼の後ろ姿に手を伸ばそうとしたそのとき、突然グニャリと視界が歪んだ。
バランスを崩した私は、そのまま床に倒れ込んだ。


「……夫人?おい、しっかりしろ!!!」


慌てたような顔の殿下が視界に入った。
それを最後に、私は意識を手放した。


(アラン……行かないで……)


そう願ったところで、誰にも届かない。




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