16 / 51
16 大切なもの
しおりを挟む
「アラン、久しぶりだな」
「王子殿下、お久しぶりです」
それから少しして、アランが私たちのいる客間にやってきた。
幼い頃から長い時間を共にした友人を、殿下は笑顔で出迎えた。
こっちはそれどころでは無かったが。
(アランにはいつ言うべきかしら……)
いざ彼を目の前にすると、上手く言葉に出来る気がしなかった。
妊娠を伝えなければいけないのは分かっているが、どうしても躊躇ってしまう。
もたもたしているうちに、殿下が先にアランに話しかけた。
「ところでアラン、最近何だかお前らしくない行動ばかり取っているな」
「……私らしくないとは?」
アランは意味が分からないというように眉間にしわを寄せた。
どうやら自覚が無いようだ。
「愛人を囲ったと聞いた。以前の愛妻っぷりはどこへいったんだ」
「……」
「しかも愛人宅に入り浸って本邸へはあまり帰らないんだって?正妻であるアンジェに悪いとは思わないのか?まったく、お前もジョルジュ男爵令嬢もどうかしているぞ」
「……」
アランは黙り込んだまま、じっと殿下の話を聞いていた。
(私のためにそんな風に言ってくれているのかしら……)
公爵家の当主であるアランに意見出来る人はほとんどいない。
だからこんなことを言ってくれたのは殿下が初めてだった。
女癖が悪いと聞いていたが、本当は良い人なのかもしれない。
私の中で殿下の印象がかなり変わった瞬間だった。
「殿下……」
しかし、ブリアナに夢中になっているアランにその言葉が響くことは無かった。
「――私のことはどれだけ言ってもかまいません。だけど、彼女だけは侮辱しないでください」
「……何だと?」
アランの鋭い目が、殿下に向けられた。
彼は信じられないというような目で険しい顔のアランを見ていた。
当然、私も同じ気持ちだ。
(王族に対してなんてことを……)
いくら幼い頃からの仲とはいえ、無礼にもほどがある。
「お前、今自分が何を言っているか分かっているのか?」
「分かっています」
アランと殿下の言い争いが続く。
「では、頭がおかしくなったのか?」
「……私はただ大切なものを守ろうとしているだけです」
(大切なものを守る……)
その大切なものの中におそらく私は入っていない。
(もし、生まれた子までそのような扱いを受けたら……)
そんなことするはずがないと信じたいが、今の彼なら十分にありえることだった。
「用件がお済みなら私は失礼します」
「お、おい待て!そんなに急いでどこへ行くつもりだ!」
苛ついた様子で部屋を出ようとするアランを、殿下が引き止めた。
振り返った彼はキッパリと言い放った。
「――愛する者の待つ家です」
「……」
愛する者の待つ家とは、ブリアナのいる別邸のことだ。
「そこが私の帰るべき場所ですから」
それだけ言うと、彼はすぐに私から背を向けて歩き出した。
(ちょっと待って……!私まだ貴方に伝えてないことが……!)
去って行く彼の後ろ姿に手を伸ばそうとしたそのとき、突然グニャリと視界が歪んだ。
バランスを崩した私は、そのまま床に倒れ込んだ。
「……夫人?おい、しっかりしろ!!!」
慌てたような顔の殿下が視界に入った。
それを最後に、私は意識を手放した。
(アラン……行かないで……)
そう願ったところで、誰にも届かない。
「王子殿下、お久しぶりです」
それから少しして、アランが私たちのいる客間にやってきた。
幼い頃から長い時間を共にした友人を、殿下は笑顔で出迎えた。
こっちはそれどころでは無かったが。
(アランにはいつ言うべきかしら……)
いざ彼を目の前にすると、上手く言葉に出来る気がしなかった。
妊娠を伝えなければいけないのは分かっているが、どうしても躊躇ってしまう。
もたもたしているうちに、殿下が先にアランに話しかけた。
「ところでアラン、最近何だかお前らしくない行動ばかり取っているな」
「……私らしくないとは?」
アランは意味が分からないというように眉間にしわを寄せた。
どうやら自覚が無いようだ。
「愛人を囲ったと聞いた。以前の愛妻っぷりはどこへいったんだ」
「……」
「しかも愛人宅に入り浸って本邸へはあまり帰らないんだって?正妻であるアンジェに悪いとは思わないのか?まったく、お前もジョルジュ男爵令嬢もどうかしているぞ」
「……」
アランは黙り込んだまま、じっと殿下の話を聞いていた。
(私のためにそんな風に言ってくれているのかしら……)
公爵家の当主であるアランに意見出来る人はほとんどいない。
だからこんなことを言ってくれたのは殿下が初めてだった。
女癖が悪いと聞いていたが、本当は良い人なのかもしれない。
私の中で殿下の印象がかなり変わった瞬間だった。
「殿下……」
しかし、ブリアナに夢中になっているアランにその言葉が響くことは無かった。
「――私のことはどれだけ言ってもかまいません。だけど、彼女だけは侮辱しないでください」
「……何だと?」
アランの鋭い目が、殿下に向けられた。
彼は信じられないというような目で険しい顔のアランを見ていた。
当然、私も同じ気持ちだ。
(王族に対してなんてことを……)
いくら幼い頃からの仲とはいえ、無礼にもほどがある。
「お前、今自分が何を言っているか分かっているのか?」
「分かっています」
アランと殿下の言い争いが続く。
「では、頭がおかしくなったのか?」
「……私はただ大切なものを守ろうとしているだけです」
(大切なものを守る……)
その大切なものの中におそらく私は入っていない。
(もし、生まれた子までそのような扱いを受けたら……)
そんなことするはずがないと信じたいが、今の彼なら十分にありえることだった。
「用件がお済みなら私は失礼します」
「お、おい待て!そんなに急いでどこへ行くつもりだ!」
苛ついた様子で部屋を出ようとするアランを、殿下が引き止めた。
振り返った彼はキッパリと言い放った。
「――愛する者の待つ家です」
「……」
愛する者の待つ家とは、ブリアナのいる別邸のことだ。
「そこが私の帰るべき場所ですから」
それだけ言うと、彼はすぐに私から背を向けて歩き出した。
(ちょっと待って……!私まだ貴方に伝えてないことが……!)
去って行く彼の後ろ姿に手を伸ばそうとしたそのとき、突然グニャリと視界が歪んだ。
バランスを崩した私は、そのまま床に倒れ込んだ。
「……夫人?おい、しっかりしろ!!!」
慌てたような顔の殿下が視界に入った。
それを最後に、私は意識を手放した。
(アラン……行かないで……)
そう願ったところで、誰にも届かない。
1,884
あなたにおすすめの小説
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
八年間の恋を捨てて結婚します
abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。
無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。
そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。
彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。
八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。
なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。
正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。
「今度はそうやって気を引くつもりか!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる