愛する夫が目の前で別の女性と恋に落ちました。

ましゅぺちーの

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43 愛

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「で、殿下……!」
「アンジェ」


彼はよほど嬉しかったのか、私を抱き締める腕に力を込めた。
固い胸板が当たり、顔が真っ赤になる。


いくら終わった仲とはいえ私はアランの妻であり、こんなことをしてはいけない。
心の中では分かっているものの、何故か彼のことを拒めなかった。


殿下はしばらく私を抱き締めた後、ゆっくりと体を離した。


「アンジェ、君さえ良ければ……どうか私を選んでほしい」
「殿下……」
「私の思いは本気だ、こんなにも誰かを好きになったことは無い」


そう口にした殿下の目は真剣そのもので、私は何も言えなくなってしまった。
もしも私が独身なら、迷わず彼の思いを受け入れていただろう。


「…………殿下、私はアランの妻です」
「アンジェ……」
「このお腹にはアランの子がいます」
「……」


彼の真剣さは伝わった。
しかし、やはりその愛を受け入れるわけにはいかなかった。
彼は第一王子であり、いずれ高貴な女性を妻に娶らなければならない。
離婚歴のある、それも他の男との子を持つ女を王子妃として迎えるなど周囲が絶対に認めないはずだ。


「殿下には私よりもっと相応しい女性がいらっしゃいます」
「……」


ハッキリとそう言うと、彼はショックを受けたような顔でこちらを見つめた。
彼のそんな顔には胸が痛むが、後悔はしない。
これが正しいことだから。




***




「殿下、毒薬の準備は出来ましたか?」
「…………ああ」


エイベルがアンジェに想いを伝えた日の夜。
第二王子宮の一室にて、ブリアナとセシルは人目を避けて会っていた。


いつも通りのブリアナに対し、セシルは顔色が随分と悪かった。


「ブリアナ……本当にやるのか?」
「当然です、殿下は私が傷付いているところを見て胸が痛まないのですか?」
「いや、そんなことは無いが……」
「なら出来ますよね?」


ブリアナはセシルの手に毒の小瓶を握らせた。


「これをアンジェ・バインベルクの料理に盛るのです」
「ブリアナ……」


あまりにも変わり果ててしまったブリアナの姿にセシルは驚きを隠せなかった。
出会った当初はこのような人では無かったはずだ。
もっと穏やかで、清らかな心を持つ女性だった。


アランの愛人になったことで変わってしまったのだろうか。
それとも、これが隠れた本当の姿だったのか。


「バインベルク公爵夫人を流産させるつもりか?」
「流産だなんて、面白いことを言うんですね」


ブリアナの赤い唇が醜く歪んだ。


「――殺すのよ」


彼女が悪魔のような顔でそう言ったその瞬間、部屋の外からガタンッと音がした。


「誰だ!」


セシルは慌てて扉を開けて外を確認したが、結局誰も見つけられなかった。
狼狽えるセシルに対し、ブリアナは終始冷静だった。


「まぁいいわ、どうせ使用人の誰かでしょう。私たちがそんなことを計画しているなんて証拠は無いんだし、誰も止められやしない」
「ブリアナ……そんなことすればどうなるか分からないのか」
「――セシル殿下」


ブリアナは微笑みながら迷いの見えるセシルにゆっくりと近付いた。
そして耳元に唇を近付けて囁いた。


「――私を愛しているなら、出来ますよね?」





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