43 / 51
43 愛
しおりを挟む
「で、殿下……!」
「アンジェ」
彼はよほど嬉しかったのか、私を抱き締める腕に力を込めた。
固い胸板が当たり、顔が真っ赤になる。
いくら終わった仲とはいえ私はアランの妻であり、こんなことをしてはいけない。
心の中では分かっているものの、何故か彼のことを拒めなかった。
殿下はしばらく私を抱き締めた後、ゆっくりと体を離した。
「アンジェ、君さえ良ければ……どうか私を選んでほしい」
「殿下……」
「私の思いは本気だ、こんなにも誰かを好きになったことは無い」
そう口にした殿下の目は真剣そのもので、私は何も言えなくなってしまった。
もしも私が独身なら、迷わず彼の思いを受け入れていただろう。
「…………殿下、私はアランの妻です」
「アンジェ……」
「このお腹にはアランの子がいます」
「……」
彼の真剣さは伝わった。
しかし、やはりその愛を受け入れるわけにはいかなかった。
彼は第一王子であり、いずれ高貴な女性を妻に娶らなければならない。
離婚歴のある、それも他の男との子を持つ女を王子妃として迎えるなど周囲が絶対に認めないはずだ。
「殿下には私よりもっと相応しい女性がいらっしゃいます」
「……」
ハッキリとそう言うと、彼はショックを受けたような顔でこちらを見つめた。
彼のそんな顔には胸が痛むが、後悔はしない。
これが正しいことだから。
***
「殿下、毒薬の準備は出来ましたか?」
「…………ああ」
エイベルがアンジェに想いを伝えた日の夜。
第二王子宮の一室にて、ブリアナとセシルは人目を避けて会っていた。
いつも通りのブリアナに対し、セシルは顔色が随分と悪かった。
「ブリアナ……本当にやるのか?」
「当然です、殿下は私が傷付いているところを見て胸が痛まないのですか?」
「いや、そんなことは無いが……」
「なら出来ますよね?」
ブリアナはセシルの手に毒の小瓶を握らせた。
「これをアンジェ・バインベルクの料理に盛るのです」
「ブリアナ……」
あまりにも変わり果ててしまったブリアナの姿にセシルは驚きを隠せなかった。
出会った当初はこのような人では無かったはずだ。
もっと穏やかで、清らかな心を持つ女性だった。
アランの愛人になったことで変わってしまったのだろうか。
それとも、これが隠れた本当の姿だったのか。
「バインベルク公爵夫人を流産させるつもりか?」
「流産だなんて、面白いことを言うんですね」
ブリアナの赤い唇が醜く歪んだ。
「――殺すのよ」
彼女が悪魔のような顔でそう言ったその瞬間、部屋の外からガタンッと音がした。
「誰だ!」
セシルは慌てて扉を開けて外を確認したが、結局誰も見つけられなかった。
狼狽えるセシルに対し、ブリアナは終始冷静だった。
「まぁいいわ、どうせ使用人の誰かでしょう。私たちがそんなことを計画しているなんて証拠は無いんだし、誰も止められやしない」
「ブリアナ……そんなことすればどうなるか分からないのか」
「――セシル殿下」
ブリアナは微笑みながら迷いの見えるセシルにゆっくりと近付いた。
そして耳元に唇を近付けて囁いた。
「――私を愛しているなら、出来ますよね?」
「アンジェ」
彼はよほど嬉しかったのか、私を抱き締める腕に力を込めた。
固い胸板が当たり、顔が真っ赤になる。
いくら終わった仲とはいえ私はアランの妻であり、こんなことをしてはいけない。
心の中では分かっているものの、何故か彼のことを拒めなかった。
殿下はしばらく私を抱き締めた後、ゆっくりと体を離した。
「アンジェ、君さえ良ければ……どうか私を選んでほしい」
「殿下……」
「私の思いは本気だ、こんなにも誰かを好きになったことは無い」
そう口にした殿下の目は真剣そのもので、私は何も言えなくなってしまった。
もしも私が独身なら、迷わず彼の思いを受け入れていただろう。
「…………殿下、私はアランの妻です」
「アンジェ……」
「このお腹にはアランの子がいます」
「……」
彼の真剣さは伝わった。
しかし、やはりその愛を受け入れるわけにはいかなかった。
彼は第一王子であり、いずれ高貴な女性を妻に娶らなければならない。
離婚歴のある、それも他の男との子を持つ女を王子妃として迎えるなど周囲が絶対に認めないはずだ。
「殿下には私よりもっと相応しい女性がいらっしゃいます」
「……」
ハッキリとそう言うと、彼はショックを受けたような顔でこちらを見つめた。
彼のそんな顔には胸が痛むが、後悔はしない。
これが正しいことだから。
***
「殿下、毒薬の準備は出来ましたか?」
「…………ああ」
エイベルがアンジェに想いを伝えた日の夜。
第二王子宮の一室にて、ブリアナとセシルは人目を避けて会っていた。
いつも通りのブリアナに対し、セシルは顔色が随分と悪かった。
「ブリアナ……本当にやるのか?」
「当然です、殿下は私が傷付いているところを見て胸が痛まないのですか?」
「いや、そんなことは無いが……」
「なら出来ますよね?」
ブリアナはセシルの手に毒の小瓶を握らせた。
「これをアンジェ・バインベルクの料理に盛るのです」
「ブリアナ……」
あまりにも変わり果ててしまったブリアナの姿にセシルは驚きを隠せなかった。
出会った当初はこのような人では無かったはずだ。
もっと穏やかで、清らかな心を持つ女性だった。
アランの愛人になったことで変わってしまったのだろうか。
それとも、これが隠れた本当の姿だったのか。
「バインベルク公爵夫人を流産させるつもりか?」
「流産だなんて、面白いことを言うんですね」
ブリアナの赤い唇が醜く歪んだ。
「――殺すのよ」
彼女が悪魔のような顔でそう言ったその瞬間、部屋の外からガタンッと音がした。
「誰だ!」
セシルは慌てて扉を開けて外を確認したが、結局誰も見つけられなかった。
狼狽えるセシルに対し、ブリアナは終始冷静だった。
「まぁいいわ、どうせ使用人の誰かでしょう。私たちがそんなことを計画しているなんて証拠は無いんだし、誰も止められやしない」
「ブリアナ……そんなことすればどうなるか分からないのか」
「――セシル殿下」
ブリアナは微笑みながら迷いの見えるセシルにゆっくりと近付いた。
そして耳元に唇を近付けて囁いた。
「――私を愛しているなら、出来ますよね?」
2,195
あなたにおすすめの小説
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる