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44 毒
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それから数日後。
「夫人、セシル殿下が夫人とお茶をしたいとおっしゃっています」
「……セシル殿下が?」
「ええ、先日の非礼を詫びたいのと、義姉となる人に挨拶しておきたいそうです」
「義姉だなんて……私は殿下と結婚するわけでは……」
王宮では何故か私と殿下が結婚するのではないかという噂が広まっていた。
もちろんそんなつもりは無いし、あの告白を受けた日から殿下には会っていない。
彼に会うと気持ちが揺らいでしまいそうだったからだ。
渋る私に、焦った侍女が付け加えた。
「公爵夫人、セシル殿下は王族です。王族の誘いを断るのはいくら公爵夫人とはいえ不敬かと……」
「それもそうね……」
本当ならそれほど行きたくはなかったが、断ると後々面倒なことになりそうだ。
着替えを済ませた私は、嫌々ながらも第二王子宮へと向かった。
私自身セシル殿下とはほとんど関わったことが無く、第二王子宮へ行くのも初めてだった。
理由は婚約者であるアランがエイベル殿下と親しくしていたからだ。
腹違いの兄弟である二人の仲が良くないのは周知の事実だった。
第二王子宮の侍女に部屋まで案内された私は、扉を開けて中に入った。
「お待たせしました、セシル殿下…………って、アラン?どうしてここに?」
「よく来たな、公爵夫人」
驚くことに、部屋にはアランもいた。
(アランがどうしてセシル殿下の部屋に……)
困惑している私に、殿下が説明した。
「君の夫のバインベルク公爵がどうしても参加したい、君に会いたいって言って聞かなかったんだ。だから特別に参加させることにしたよ。あぁ、でも君が嫌だと言うのなら……」
「いえ、私は平気です」
「そうか、なら良かった」
そう言うと、アランが安心したような顔をした。
そんな彼の隣に座り、殿下と向き合った。
「夫人、先日は失礼なことを言って悪かったな。決して本心では無かったんだ」
「……ええ、分かっておりますわ」
今さらこの人が何を言ったところで信じられるわけがない。
このお茶会だって、彼の腹の中を探るために参加したのだから。
別居中の夫まで来るとは想定していなかったけれど。
「……」
私とセシル殿下が話している間、ただ黙ってこちらを見つめるアランは随分と顔色が悪かった。
(……何かしら?)
あんなことを言ってきた後だし、私に対する未練でもあるのだろう。
そう思って気にしないことにした。
しばらく他愛のない話をしていると、突然殿下が話題を変えた。
「そうだ、バインベルク公爵夫人。今日は君の好きなお茶を用意したんだ」
「まぁ、お気遣いありがとうございます」
傍に控えていた侍女が私のティーカップにお茶を注いだ。
(良い香りがする……)
その香りに誘われてカップに口を近付けると、突然アランが大声を上げた。
「ダメだ、アンジェ!!!」
「………………アラン?」
彼は私の手からカップを奪い取ると、切ない瞳で私を見つめた。
「アンジェ………たくさん傷付けて悪かった……どうか幸せになってくれ」
「ちょっと、何するつもり!?」
「公爵!」
アランはそう言うと、ティーカップのお茶を飲み干した。
「グッ……!」
そして突然うめき声を上げたかと思うと、血を吐いて床に倒れ込んだ。
「………………………え?」
「夫人、セシル殿下が夫人とお茶をしたいとおっしゃっています」
「……セシル殿下が?」
「ええ、先日の非礼を詫びたいのと、義姉となる人に挨拶しておきたいそうです」
「義姉だなんて……私は殿下と結婚するわけでは……」
王宮では何故か私と殿下が結婚するのではないかという噂が広まっていた。
もちろんそんなつもりは無いし、あの告白を受けた日から殿下には会っていない。
彼に会うと気持ちが揺らいでしまいそうだったからだ。
渋る私に、焦った侍女が付け加えた。
「公爵夫人、セシル殿下は王族です。王族の誘いを断るのはいくら公爵夫人とはいえ不敬かと……」
「それもそうね……」
本当ならそれほど行きたくはなかったが、断ると後々面倒なことになりそうだ。
着替えを済ませた私は、嫌々ながらも第二王子宮へと向かった。
私自身セシル殿下とはほとんど関わったことが無く、第二王子宮へ行くのも初めてだった。
理由は婚約者であるアランがエイベル殿下と親しくしていたからだ。
腹違いの兄弟である二人の仲が良くないのは周知の事実だった。
第二王子宮の侍女に部屋まで案内された私は、扉を開けて中に入った。
「お待たせしました、セシル殿下…………って、アラン?どうしてここに?」
「よく来たな、公爵夫人」
驚くことに、部屋にはアランもいた。
(アランがどうしてセシル殿下の部屋に……)
困惑している私に、殿下が説明した。
「君の夫のバインベルク公爵がどうしても参加したい、君に会いたいって言って聞かなかったんだ。だから特別に参加させることにしたよ。あぁ、でも君が嫌だと言うのなら……」
「いえ、私は平気です」
「そうか、なら良かった」
そう言うと、アランが安心したような顔をした。
そんな彼の隣に座り、殿下と向き合った。
「夫人、先日は失礼なことを言って悪かったな。決して本心では無かったんだ」
「……ええ、分かっておりますわ」
今さらこの人が何を言ったところで信じられるわけがない。
このお茶会だって、彼の腹の中を探るために参加したのだから。
別居中の夫まで来るとは想定していなかったけれど。
「……」
私とセシル殿下が話している間、ただ黙ってこちらを見つめるアランは随分と顔色が悪かった。
(……何かしら?)
あんなことを言ってきた後だし、私に対する未練でもあるのだろう。
そう思って気にしないことにした。
しばらく他愛のない話をしていると、突然殿下が話題を変えた。
「そうだ、バインベルク公爵夫人。今日は君の好きなお茶を用意したんだ」
「まぁ、お気遣いありがとうございます」
傍に控えていた侍女が私のティーカップにお茶を注いだ。
(良い香りがする……)
その香りに誘われてカップに口を近付けると、突然アランが大声を上げた。
「ダメだ、アンジェ!!!」
「………………アラン?」
彼は私の手からカップを奪い取ると、切ない瞳で私を見つめた。
「アンジェ………たくさん傷付けて悪かった……どうか幸せになってくれ」
「ちょっと、何するつもり!?」
「公爵!」
アランはそう言うと、ティーカップのお茶を飲み干した。
「グッ……!」
そして突然うめき声を上げたかと思うと、血を吐いて床に倒れ込んだ。
「………………………え?」
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