陛下、あなたが寵愛しているその女はどうやら敵国のスパイのようです。

ましゅぺちーの

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王の怒り

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それから、私が陛下に呼び出されるまでにそう時間はかからなかった。


私は王宮の廊下を歩きながら考える。


(・・・まぁ、予想はしていたけれど)


まさかこんなにも早く呼び出されるとは思わなかった。もしかすると陛下は面倒事は先に終わらせたいタイプなのかもしれない。いつも私に無関心だったあの人が私を呼び付けるだなんて。


(陛下は相当王弟殿下のことが気に入らないみたいね)


何故陛下がそれほど王弟殿下を嫌うのかは分からないが、完全に八つ当たりである。だって殿下は陛下に何もしていないのだから。


私はそんなことを考えながらも陛下の執務室までの道のりを歩いた。


きっと王弟殿下と二人きりで会っていたことを咎められるだろう。そう考えると気が重くなったが、国王からの呼び出しを無視するわけにもいかない。幼い頃からの仲とはいえ、そこまで無礼な態度を取ることの出来る相手ではなかったから。


(本当は行きたくないけれど、こればっかりは仕方がないわね)


そして、しばらく歩いてようやく陛下の執務室へと到着した。


侍従に通されて中に入ると、そこには私の予想通り不機嫌そうなウィルフレッド陛下がいた。


(やっぱりね・・・)


私は心の中でハァとため息をついた。


「―お呼びでしょうか、陛下」


「・・・」


私がそう言っても陛下は黙ったままだ。どうやら彼は私が想像していた以上に怒っているらしい。


(・・・私のことを愛してもいないくせに、男と会っていたことがそんなに不満なの?)


自分は平然とたくさんの女を囲っているくせして。


長い間黙り込んでいた彼だが、しばらくしてようやく苦々しい顔で口を開いた。


「何故私がお前を呼んだのか理解してるな?」


「・・・」


久しぶりに聞く陛下の鋭い声。少し前の私なら冷たい彼に困惑し、オロオロしていたはずだ。


しかし、今の私は違う。今の私には―


(お父様とお母様とお兄様、そして・・・・・・・・・・・・王弟殿下もいるわ)


そう、心強い味方がたくさんいるのだ。


だから陛下一人に嫌われようとも痛くも痒くもない。私はもう一人ではないから。


私は至って冷静に陛下の問いに答えた。


「いいえ、全く身に覚えがありませんわ」


「しらばっくれる気か!?」


私の返答に陛下は激昂した。


(王弟殿下のことを考えたら、ここで認めるのは良くないわ)


陛下が何のことを言っているのか本当は分かりきっていたが、私はあえて知らないフリをした。


「一体何のお話でしょうか」


そんな私にしびれを切らしたのか、彼が苛ついた様子で話し始めた。


「アルバートと二人きりで会っていたそうだな」


「二人きりで会っていただなんて・・・誤解ですわ」


「誤解だと?」


信じられないのか、陛下が怪訝な目で私を見た。


「はい、その言い方だとまるで私と王弟殿下が逢瀬をしていたようではありませんか」


「違うのか」


「違いますわ、王弟殿下とは偶然お会いして話していただけです」


「ハァ・・・くだらない言い訳をするな」


「言い訳などしていません、私は事実を言っているまでです」


「・・・」


ハッキリとそう言った私に陛下が驚いたような顔をした。


「・・・?何ですか?」


「・・・お前は、いつからそんなにハッキリと物を言う女になった?」


「・・・・・・はい?」


陛下のその発言に怒りがこみ上げてくる。


(・・・何が言いたいの?)


今までの私はもっと気の弱い女だったと言っているのだろうか。


私の冷たい態度に困惑したのか、陛下が焦ったように付け加えた。


「と、とにかくもう二度とこんなことをするな」


「・・・気を付けますわ」


「話はこれで終わりだ。出て行け」


その言葉で私は陛下の執務室を後にした。


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