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王宮の舞踏会④
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フレッド殿下とララ様がいなくなり、会場は再びシンと静まり返った。
その最中で国王陛下が重い口を開いた。
「皆の者、愚息が騒ぎを起こしてすまなかった。今日は楽しんで行ってくれ」
実の息子が起こしたことに負い目を感じているのか、国王陛下は酷くやつれて見えた。それは王妃陛下に関しても同じだった。公の場ではいつも穏やかな笑みを携えている王妃陛下が今日はどこか悲しそうな顔をしていた。
(・・・フレッド殿下はお二人にとって唯一のお子だったもの。こうなるのは当然かしら)
フレッド殿下を大切に育ててきた二人の気持ちを考えると胸が痛くなった。
◇◆◇◆◇◆
そして、国王陛下のその言葉で舞踏会は無事に再開された。
会場に控えていた楽団は音楽を奏で始め、貴族たちはそれに合わせてダンスをしている。
(ララ様があんなことを言い出したときはどうなることかと思ったけど・・・無事に騒ぎが収まってよかった)
そんなことを考えていたそのとき、突然手を差し出された。
「―リリーシャ嬢、私と一曲踊ってくださいますか」
目の前でそう言ったのは私のパートナーであるレナルド殿下だった。彼は優しい笑みを浮かべながら私を見上げていた。
そんな彼に思わず笑いがこみ上げてくる。
「はい、喜んで」
私はクスッと笑いながらレナルド殿下の手を取った。手袋の上から彼の手の温もりが伝わってくる。
レナルド殿下はそのまま私をホールの中央へとエスコートした。
会場にいる貴族たちの視線が一斉に私たちに刺さった。しかし、何故だか悪意のあるものは感じなかった。それどころか、何故か皆が微笑ましそうに私たち二人を見ている。
(・・・嘘でしょう?)
正直驚いた。私は王太子から婚約破棄された女だ。とてもじゃないがレナルド殿下には相応しくない。当然貴族たちもそう思っていると考えていた。それなのに・・・
私が考えていることに気付いたのか、レナルド殿下が私の腰に腕を回しながら言った。
「どうやら皆私たちのことを祝福してくれているようだな」
「え、ええ・・・そうですわね・・・」
私はそのことを不思議に思いながらも音楽に合わせて彼と踊り始めた。
その最中、彼は驚くべきことを言い出した。
「ふぅ・・・久しぶりだな、こうやって誰かと踊るのは」
「え、もしかして殿下、舞踏会でどなたとも踊っていらっしゃらなかったんですか・・・?」
「ああ、そうだな」
「ええ!?」
私はそのことに驚きを隠せなかった。
彼はこの国でも令嬢たちから絶大な人気を誇っていた。となると、自国ではそれ以上なのだろう。
(彼と踊りたいと思っている令嬢はたくさんいるはずなのに・・・)
まさかその中の誰とも踊っていなかったというのか。私はそのことに驚いたのだ。
そんな私を見てレナルド殿下が恥ずかしそうに視線を逸らして言った。
「・・・踊らなかったというよりかは、踊りたくなかったんだ」
「・・・?」
それは一体どういう意味ですかと聞こうとしたそのとき、彼が私の疑問を読み取ったかのように付け加えた。
「―そのときから、既に私は君に夢中だったということだ」
「・・・ッ!」
その言葉に顔が赤くなる。こんな人目の多いところでそのようなことを言うのはやめてほしいものだ。
「からかわないでください」
「私は別にからかっているつもりはないんだが」
殿下はそう言ってクスリと笑った。
「―本当は、一生独身でいようと思っていたんだ」
「え・・・?」
「こんなにも誰かのことを好きになったのは初めてだった。リリーシャ嬢と出会った直後は、何をしていても集中できなくて毎日君のことで頭がいっぱいだった」
「殿下・・・」
まさか彼がそこまで私のことを想っていてくれたなんて。全く気付かなかった。
殿下はそのまま言葉を続けた。
「さっきも言ったが君と結婚することが出来ないのなら、私は一生独り身でいようと思っていた。もちろん、両親には猛反対されていたが」
「・・・もしかして、殿下がずっと”第二王子”という地位でいたのは・・・」
「ああ、君を諦めきれなかったからだ」
「・・・」
「父上と母上にはもう既に言ってある。君との結婚を認めてもらうことを条件に立太子することを持ちかけたんだ」
「・・・行動が早いですね」
「最愛の人を早く自分のものにしたいと思うのは別に普通のことだろう?」
殿下がフッと笑いながらそう言ったとき、ちょうど音楽が止んだ。
それに合わせて私たちも動きを止めた。それから私とレナルド殿下はそのまましばらくの間見つめ合っていた。私はというと、彼の美しい瞳に囚われたかのようにそこから一歩も動けなくなっていた。
「殿下・・・?」
私の言葉を聞いて彼は繋いでいた手をギュッと握った。
そして、彼はそのままホールの中央、私の目の前で跪いた。
周囲の貴族たちがレナルド殿下の突然の行動に目を瞠った。それは私も同じだった。
跪いた彼はゆっくりと口を開いた。
「―リリーシャ・オブライト公爵令嬢。私は初めて出会った頃からずっと貴方のことが好きでした。生涯貴方だけを愛し、幸せにすることをここに誓います。私と結婚してください」
「・・・!」
レナルド殿下の突然の愛の告白に会場にいる貴族たちが息を呑む音が聞こえた。
私ももちろん内心かなり驚いている。まさか彼がこのようなことをするとは思っていなかったから。
だけど私の答えはもう決まっている。それもずっと前から。
「はい、よろしくお願いいたします」
私がそう返事をした瞬間、令嬢たちがキャーと黄色い歓声を上げ、会場に盛大な拍手が鳴り響いた。
「おめでとうございます、レナルド殿下、リリーシャ嬢!」
「末永くお幸せに!」
貴族たちの祝福の言葉を聞いた私たちはお互いを見つめ合って、照れくさそうに微笑んだ。
その最中で国王陛下が重い口を開いた。
「皆の者、愚息が騒ぎを起こしてすまなかった。今日は楽しんで行ってくれ」
実の息子が起こしたことに負い目を感じているのか、国王陛下は酷くやつれて見えた。それは王妃陛下に関しても同じだった。公の場ではいつも穏やかな笑みを携えている王妃陛下が今日はどこか悲しそうな顔をしていた。
(・・・フレッド殿下はお二人にとって唯一のお子だったもの。こうなるのは当然かしら)
フレッド殿下を大切に育ててきた二人の気持ちを考えると胸が痛くなった。
◇◆◇◆◇◆
そして、国王陛下のその言葉で舞踏会は無事に再開された。
会場に控えていた楽団は音楽を奏で始め、貴族たちはそれに合わせてダンスをしている。
(ララ様があんなことを言い出したときはどうなることかと思ったけど・・・無事に騒ぎが収まってよかった)
そんなことを考えていたそのとき、突然手を差し出された。
「―リリーシャ嬢、私と一曲踊ってくださいますか」
目の前でそう言ったのは私のパートナーであるレナルド殿下だった。彼は優しい笑みを浮かべながら私を見上げていた。
そんな彼に思わず笑いがこみ上げてくる。
「はい、喜んで」
私はクスッと笑いながらレナルド殿下の手を取った。手袋の上から彼の手の温もりが伝わってくる。
レナルド殿下はそのまま私をホールの中央へとエスコートした。
会場にいる貴族たちの視線が一斉に私たちに刺さった。しかし、何故だか悪意のあるものは感じなかった。それどころか、何故か皆が微笑ましそうに私たち二人を見ている。
(・・・嘘でしょう?)
正直驚いた。私は王太子から婚約破棄された女だ。とてもじゃないがレナルド殿下には相応しくない。当然貴族たちもそう思っていると考えていた。それなのに・・・
私が考えていることに気付いたのか、レナルド殿下が私の腰に腕を回しながら言った。
「どうやら皆私たちのことを祝福してくれているようだな」
「え、ええ・・・そうですわね・・・」
私はそのことを不思議に思いながらも音楽に合わせて彼と踊り始めた。
その最中、彼は驚くべきことを言い出した。
「ふぅ・・・久しぶりだな、こうやって誰かと踊るのは」
「え、もしかして殿下、舞踏会でどなたとも踊っていらっしゃらなかったんですか・・・?」
「ああ、そうだな」
「ええ!?」
私はそのことに驚きを隠せなかった。
彼はこの国でも令嬢たちから絶大な人気を誇っていた。となると、自国ではそれ以上なのだろう。
(彼と踊りたいと思っている令嬢はたくさんいるはずなのに・・・)
まさかその中の誰とも踊っていなかったというのか。私はそのことに驚いたのだ。
そんな私を見てレナルド殿下が恥ずかしそうに視線を逸らして言った。
「・・・踊らなかったというよりかは、踊りたくなかったんだ」
「・・・?」
それは一体どういう意味ですかと聞こうとしたそのとき、彼が私の疑問を読み取ったかのように付け加えた。
「―そのときから、既に私は君に夢中だったということだ」
「・・・ッ!」
その言葉に顔が赤くなる。こんな人目の多いところでそのようなことを言うのはやめてほしいものだ。
「からかわないでください」
「私は別にからかっているつもりはないんだが」
殿下はそう言ってクスリと笑った。
「―本当は、一生独身でいようと思っていたんだ」
「え・・・?」
「こんなにも誰かのことを好きになったのは初めてだった。リリーシャ嬢と出会った直後は、何をしていても集中できなくて毎日君のことで頭がいっぱいだった」
「殿下・・・」
まさか彼がそこまで私のことを想っていてくれたなんて。全く気付かなかった。
殿下はそのまま言葉を続けた。
「さっきも言ったが君と結婚することが出来ないのなら、私は一生独り身でいようと思っていた。もちろん、両親には猛反対されていたが」
「・・・もしかして、殿下がずっと”第二王子”という地位でいたのは・・・」
「ああ、君を諦めきれなかったからだ」
「・・・」
「父上と母上にはもう既に言ってある。君との結婚を認めてもらうことを条件に立太子することを持ちかけたんだ」
「・・・行動が早いですね」
「最愛の人を早く自分のものにしたいと思うのは別に普通のことだろう?」
殿下がフッと笑いながらそう言ったとき、ちょうど音楽が止んだ。
それに合わせて私たちも動きを止めた。それから私とレナルド殿下はそのまましばらくの間見つめ合っていた。私はというと、彼の美しい瞳に囚われたかのようにそこから一歩も動けなくなっていた。
「殿下・・・?」
私の言葉を聞いて彼は繋いでいた手をギュッと握った。
そして、彼はそのままホールの中央、私の目の前で跪いた。
周囲の貴族たちがレナルド殿下の突然の行動に目を瞠った。それは私も同じだった。
跪いた彼はゆっくりと口を開いた。
「―リリーシャ・オブライト公爵令嬢。私は初めて出会った頃からずっと貴方のことが好きでした。生涯貴方だけを愛し、幸せにすることをここに誓います。私と結婚してください」
「・・・!」
レナルド殿下の突然の愛の告白に会場にいる貴族たちが息を呑む音が聞こえた。
私ももちろん内心かなり驚いている。まさか彼がこのようなことをするとは思っていなかったから。
だけど私の答えはもう決まっている。それもずっと前から。
「はい、よろしくお願いいたします」
私がそう返事をした瞬間、令嬢たちがキャーと黄色い歓声を上げ、会場に盛大な拍手が鳴り響いた。
「おめでとうございます、レナルド殿下、リリーシャ嬢!」
「末永くお幸せに!」
貴族たちの祝福の言葉を聞いた私たちはお互いを見つめ合って、照れくさそうに微笑んだ。
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