虐げられた新妻は義理の家族への復讐を決意する

ましゅぺちーの

文字の大きさ
12 / 32

12 ダリル・ブリントン

しおりを挟む
ダリルが帰って来る日となり、夫人はとうとう部屋に引きこもるようになってしまった。
顔を真っ青にし、侍女に支えられながら部屋へ入って行ったきり彼女の姿を見ていない。


「アイツが今になって帰って来るとは……」
「いたところで公爵家の恥だからいっそ戦死してくれればよかったのに」


彼の帰還に不満を抱いているのは夫人だけでは無かったようで、義父とウィルベルトまでもがそう吐き捨てた。
これからもう一人の息子が帰ってくるとは思えないような殺伐とした雰囲気だ。


「……」


すぐ傍で聞いていて不快感を感じずにはいられなかった。


(どうしてそこまで彼を嫌っているのかしら……?)


義父にとっては愛する息子であり、ウィルベルトにとってはたった一人の弟だ。
いくら自分勝手に家を出て行ったとはいえ、そこまで言う必要は無いのではないだろうか。


優秀な兄だけを愛し、弟の方は冷遇する。
兄弟でここまで扱いに違いがあるのか。


(そんな家なら出て行きたくなるのも当然ね……)


じっと考え込んでいたそのとき、一人の使用人が声を上げた。


――「ダリルお坊ちゃまがお戻りです!」


その言葉と同時に、エントランスの扉から一人の男性が姿を現わした。
騎士のように引き締まった体に、思わず目を奪われてしまう。


(この方が……)


ウィルベルトや夫人と同じ金色の髪に、彼らとは似ても似つかない赤い瞳を持ち合わせた美しい青年だった。
兄であるウィルベルトとはあまり似ておらず、兄弟だと言われなければ気が付かないだろう。


(赤い瞳……綺麗……)


彼の姿を見るなり、義父が顔をしかめた。


「一体何故帰ってきた?ここへ来たところでお前の居場所など無い!」


怒声を上げる父親に対し、彼は平然と返した。


「そんなことは分かっています。しかし、誰が何と言おうと私は公爵家の一員ですから。幼い頃にしっかりとそう証明されたではありませんか」
「ぐぬぬ……私はお前を公爵家の人間だと認めていない!」
「父上が認めていなくとも、この身に流れる血は間違いなくブリントン公爵家のものですから」


ダリルはフッと笑いながら父親の横を通り過ぎると、後ろにいたウィルベルトの前で立ち止まった。


「……永遠に帰ってこなければ良かったものを」


弟の顔を見たウィルベルトはただそれだけポツリと呟いた。
そんな兄の態度を見てもダリルは表情を崩さなかった。
それどころか楽しそうに笑ってみせた。


「兄上、相変わらず冷たいですね」
「黙れ、お前のせいで母上がどれだけ辛い思いをしてきたか」
「勝手に産んでおいてそれは無いでしょう」
「お前……!」


ダリルはニヤリと口角を上げると、飛び掛かりそうなウィルベルトを無視して自室へと向かった。
彼が去った後、その姿を目にした使用人たちが怯えたように話し始めた。


「相変わらず気味が悪いわ……」
「戦場では女子供関係無く皆殺しにするらしいわよ……」


ウィルベルトとは違って屋敷内でのダリルの評判はあまり良くないらしい。
彼らの発言が事実かどうか定かではないが。


「それよりあの話、聞いた?」
「ダリルお坊ちゃまが幼い頃に奥様を剣で殺そうとしたらしいわ」
「まぁ、実の母親を手にかけようとしたということ?」
「何て恐ろしい男……」


「……」


そんな衝撃的な話を聞いても不思議と彼に対する恐怖心はあまり湧いてこなかった。
ただただあの赤い瞳が美しいと、そう感じた。


(義弟になるお方だし……挨拶はしておいた方がいいわよね?)


そう思った私は、慌てて彼の後を追った。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

王太子妃候補、のち……

ざっく
恋愛
王太子妃候補として三年間学んできたが、決定されるその日に、王太子本人からそのつもりはないと拒否されてしまう。王太子妃になれなければ、嫁き遅れとなってしまうシーラは言ったーーー。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!

佐藤 美奈
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。 「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」 冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。 さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。 優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。

「そんなの聞いてない!」と元婚約者はゴネています。

音爽(ネソウ)
恋愛
「レイルア、許してくれ!俺は愛のある結婚をしたいんだ!父の……陛下にも許可は頂いている」 「はぁ」 婚約者のアシジオは流行りの恋愛歌劇に憧れて、この良縁を蹴った。 本当の身分を知らないで……。

父の後妻に婚約者を盗られたようです。

和泉 凪紗
恋愛
 男爵令嬢のアルティナは跡取り娘。素敵な婚約者もいて結婚を待ち遠しく思っている。婚約者のユーシスは最近忙しいとあまり会いに来てくれなくなってしまった。たまに届く手紙を楽しみに待つ日々だ。  そんなある日、父親に弟か妹ができたと嬉しそうに告げられる。父親と後妻の間に子供ができたらしい。  お義母様、お腹の子はいったい誰の子ですか?

侯爵家に不要な者を追い出した後のこと

mios
恋愛
「さあ、侯爵家に関係のない方は出て行ってくださる?」 父の死後、すぐに私は後妻とその娘を追い出した。

【完】幼馴染と恋人は別だと言われました

迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」  大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。  毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。  幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。  そして、ある日突然、私は全てを奪われた。  幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?    サクッと終わる短編を目指しました。  内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m    

処理中です...