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14 家族
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その日の晩餐。
普段通り、席に着いた私はある違和感を覚えた。
”彼”の姿が無いのだ。
(家族全員での晩餐会なのにどうしていないんだろう……)
そのことが妙に気にかかった私は、目の前に座る義理の両親たちに尋ねた。
「あの……ダリル様はいらっしゃらないのですか?」
「「「……」」」
私の声に反応した全員の顔が強張った。
ダリルの名を出すだけでここまで空気が変わるだなんて異常だ。
長い沈黙の後、最初に口を開いたのは義父だった。
「……アイツはきっと来ないだろう」
何故来ないのか、理由は言わなかった。
それがまるで当たり前のことであるかのような口ぶりだった。
彼が家族たちとの仲が良くないことは薄々感じていたけれど、夕食の席にまで来ないだなんて。
「どうせいつものように部屋で食べるはずだわ。待っていても仕方が無いし、先に食べてしまいましょう」
義母はうんざりしたような口調でフォークを手に取ったかと思いきや、突然何かを思い出したかのようにその手を止めた。
「……そうだわ、良いことを思い付いた」
「……?」
ニヤリと口元に笑みを浮かべてこちらを見る義母に首を傾げていると、彼女はとんでもないことを言い出した。
――「貴方があの子の部屋まで食事を持って行けばいいわ」
「え……私がですか……?」
「それは良い提案ですね!」
彼女の背後に控えていた侍女が嬉しそうな声を上げた。
「使用人たちがあの子のことを気味悪がって近付きたがらないのよ。でもよそから来た貴方なら出来るでしょう?」
「……」
助けを求めて義父と夫の方を見ると、何も反応することなく黙々と食事を続けていた。
完全にスルーされているようだ。
(使用人がやるようなことを、どうして公爵夫人の私が……)
そうは思ったものの、ちょうど晩餐の席に居心地の悪さを感じていた私は提案を受け入れることにした。
***
「あのお坊ちゃまの食事を運ばされるだなんて……新婚早々哀れね」
「当然のことだわ。旦那様とオーレリア様を引き裂いた女なんだから」
食事を持って廊下を出ると、いつものように使用人たちの陰口が耳に入った。
こんな屈辱は今まで社交界でいくらでも受けてきた。
今さら傷ついたりはしない。
通りすがりの使用人たちが私を嘲笑しているのが伝わってくるが、気にすることなくダリルの部屋までの道を歩いた。
少し歩いて見えた彼の自室は私と同じように公爵邸の隅に位置していた。
(こんな場所に公爵家の次男を住まわせるだなんて……)
――「ダリル様、リーゼです」
呼びかけても何の反応も無い。
部屋にいないのだろうか。
「お食事をお持ちしました、いらっしゃらないのでしょうか?」
返事は無いが、中から微かに足音が聞こえる。
しばらくすると、扉が開いて驚いた顔のダリルが姿を現わした。
「何故お前がここに……?」
「大奥様からダリル様の食事を運ぶようにと……」
「……」
それを聞いた彼の眉がピクリと動いた。
「そうか……遠路はるばる嫁いできた若い令嬢にこのような仕打ちをするだなんて……本当昔から何も変わってないんだな」
「……ダリル様?」
ポツリとそう呟いた彼の顔はどこか悲しそうだった。
(どうしてそんな顔を……)
そして、私の手から食事を強引に受け取った。
「持って来てくれたことは感謝する。だが二度とここへは来ない方が良い。次母上に言われたら適当に理由を付けて断れ。それがお前のためでもある」
「えっ……!?」
それだけ言うと、すぐに扉が閉まり始めた。
ダリルの言葉の意味が分からなかった私は、まだ隙間から見える彼に慌てて尋ねた。
「ま、待ってください……!どうしてそのようなことを……!」
引き留めようとした私に、ダリルは冷たく言い放った。
「――それはよそから来たお前が知ることでは無い」
そう口にしたのを最後に、彼は完全に扉を閉めてしまった。
普段通り、席に着いた私はある違和感を覚えた。
”彼”の姿が無いのだ。
(家族全員での晩餐会なのにどうしていないんだろう……)
そのことが妙に気にかかった私は、目の前に座る義理の両親たちに尋ねた。
「あの……ダリル様はいらっしゃらないのですか?」
「「「……」」」
私の声に反応した全員の顔が強張った。
ダリルの名を出すだけでここまで空気が変わるだなんて異常だ。
長い沈黙の後、最初に口を開いたのは義父だった。
「……アイツはきっと来ないだろう」
何故来ないのか、理由は言わなかった。
それがまるで当たり前のことであるかのような口ぶりだった。
彼が家族たちとの仲が良くないことは薄々感じていたけれど、夕食の席にまで来ないだなんて。
「どうせいつものように部屋で食べるはずだわ。待っていても仕方が無いし、先に食べてしまいましょう」
義母はうんざりしたような口調でフォークを手に取ったかと思いきや、突然何かを思い出したかのようにその手を止めた。
「……そうだわ、良いことを思い付いた」
「……?」
ニヤリと口元に笑みを浮かべてこちらを見る義母に首を傾げていると、彼女はとんでもないことを言い出した。
――「貴方があの子の部屋まで食事を持って行けばいいわ」
「え……私がですか……?」
「それは良い提案ですね!」
彼女の背後に控えていた侍女が嬉しそうな声を上げた。
「使用人たちがあの子のことを気味悪がって近付きたがらないのよ。でもよそから来た貴方なら出来るでしょう?」
「……」
助けを求めて義父と夫の方を見ると、何も反応することなく黙々と食事を続けていた。
完全にスルーされているようだ。
(使用人がやるようなことを、どうして公爵夫人の私が……)
そうは思ったものの、ちょうど晩餐の席に居心地の悪さを感じていた私は提案を受け入れることにした。
***
「あのお坊ちゃまの食事を運ばされるだなんて……新婚早々哀れね」
「当然のことだわ。旦那様とオーレリア様を引き裂いた女なんだから」
食事を持って廊下を出ると、いつものように使用人たちの陰口が耳に入った。
こんな屈辱は今まで社交界でいくらでも受けてきた。
今さら傷ついたりはしない。
通りすがりの使用人たちが私を嘲笑しているのが伝わってくるが、気にすることなくダリルの部屋までの道を歩いた。
少し歩いて見えた彼の自室は私と同じように公爵邸の隅に位置していた。
(こんな場所に公爵家の次男を住まわせるだなんて……)
――「ダリル様、リーゼです」
呼びかけても何の反応も無い。
部屋にいないのだろうか。
「お食事をお持ちしました、いらっしゃらないのでしょうか?」
返事は無いが、中から微かに足音が聞こえる。
しばらくすると、扉が開いて驚いた顔のダリルが姿を現わした。
「何故お前がここに……?」
「大奥様からダリル様の食事を運ぶようにと……」
「……」
それを聞いた彼の眉がピクリと動いた。
「そうか……遠路はるばる嫁いできた若い令嬢にこのような仕打ちをするだなんて……本当昔から何も変わってないんだな」
「……ダリル様?」
ポツリとそう呟いた彼の顔はどこか悲しそうだった。
(どうしてそんな顔を……)
そして、私の手から食事を強引に受け取った。
「持って来てくれたことは感謝する。だが二度とここへは来ない方が良い。次母上に言われたら適当に理由を付けて断れ。それがお前のためでもある」
「えっ……!?」
それだけ言うと、すぐに扉が閉まり始めた。
ダリルの言葉の意味が分からなかった私は、まだ隙間から見える彼に慌てて尋ねた。
「ま、待ってください……!どうしてそのようなことを……!」
引き留めようとした私に、ダリルは冷たく言い放った。
「――それはよそから来たお前が知ることでは無い」
そう口にしたのを最後に、彼は完全に扉を閉めてしまった。
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