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16 気になる彼
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翌日の朝。
まだ誰も起きていない早朝に部屋を出た私は、たまたま鍛錬から戻る途中のダリルとすれ違った。
「あ、お、おはようございます……」
「……」
昨日のことがあったから少しだけ気まずい。
しかし素通りは礼儀に反するため、遠慮がちに挨拶をした。
すると、彼は私をじっと見つめた後ゆっくりと口を開いた。
「おはよう」
「……!」
それだけ言うとすぐに自室へ戻って行った。
「……今、おはようって」
ここに来てから初めて挨拶を返してもらった。
そのことが嬉しくて、つい口元に笑みが浮かぶ。
(嫌われたわけではないのかな……)
冷たいことを言いながらも、夫や使用人たちのように私を無視したりはしない。
今の私にとってはそれだけでも嬉しかった。
(もっと親しくなれないかな……)
そんなことを考えながら去って行く彼の後ろ姿をじっと見つめた。
***
しばらくして、朝食の時間になった。
今日もいつものように義理の家族たちと食事を摂る。
和気あいあいと会話に花を咲かせているのは私を除く三人だけ。
もしかすると、ダリルはこの状況が嫌でここへ来ないのかもしれない。
最初は疑問に思っていたけれど、今では痛いほどに彼の気持ちが理解出来る。
(もし、彼が本当にお義父様の子供ではないのだとしたら……)
当然、彼らと仲良くすることなど出来るはずが無い。
そういうところはよそ者の私と少し似ているようにも感じる。
「あの子の分の食事はもう運んだの?」
「いえ、それが……新人が怖がってしまって部屋に行きたがらなくて……」
「まったく、困ったわね……」
義母が頭を悩ませている姿を見て、自然と口が開いた。
「私……代わりに行ってきます」
その瞬間、全員の視線がこちらへ集中した。
信じられないものを見るかのような目で見つめられる。
「あら……わざわざ汚れ役を引き受けてくれるだなんて何て出来た嫁なのかしら」
義母が嫌味ったらしく笑った。
「自ら進んでアイツのところへ行きたがるとは……馬鹿なのか」
義父が理解出来ないというような顔で私を見た。
ウィルベルトも同じような反応だったが、このままここに居続けるよりかはずっとマシだ。
渋る義父を説得したのは義母だった。
「まぁまぁ旦那様。せっかくそう言ってくれてるんだから行かせましょうよ」
「……それもそうだな」
「……ありがとうございます」
食事を乗せたトレーを持った私は、義理の家族たちに挨拶をして静かに部屋を出た。
***
リーゼが去った後、ウィルベルトが口を開いた。
「……母上、あの女に行かせて良かったのですか?」
「何を言っているのウィルベルト。誰もが嫌がる仕事をわざわざ引き受けてくれたのよ。それに貴方だって彼女のことを嫌っていたじゃない」
「……」
ウィルベルトはリーゼを憎んでいる。
愛するオーレリアと別れなければならなかったのも全てリーゼのせいだと本気で思っているからだ。
最愛の女性と離れる原因になった女になど触れたくなくて、初夜すら放置した。
そのうえ昔から折り合いの悪かった弟が今になって帰って来てウィルベルトの機嫌は最悪だった。
ダリルとリーゼがいなければ彼がオーレリアを失うことも無く、三人は幸せな家族でいられたからだ。
「私はあの子に会えないわ」
「……」
母親はそう言いながら体を震わせた。
「顔も見たくないの……あの血のような赤い瞳を見ると……」
「母上」
顔色を悪くした母にウィルベルトが近付いた。
「アイツのことなら大丈夫です、私が何とかしますから。もうすぐ家族だけで暮らせる日が来ますからね」
ウィルベルトはそう言いながら介抱するように母親の背中を優しく撫でた。
まだ誰も起きていない早朝に部屋を出た私は、たまたま鍛錬から戻る途中のダリルとすれ違った。
「あ、お、おはようございます……」
「……」
昨日のことがあったから少しだけ気まずい。
しかし素通りは礼儀に反するため、遠慮がちに挨拶をした。
すると、彼は私をじっと見つめた後ゆっくりと口を開いた。
「おはよう」
「……!」
それだけ言うとすぐに自室へ戻って行った。
「……今、おはようって」
ここに来てから初めて挨拶を返してもらった。
そのことが嬉しくて、つい口元に笑みが浮かぶ。
(嫌われたわけではないのかな……)
冷たいことを言いながらも、夫や使用人たちのように私を無視したりはしない。
今の私にとってはそれだけでも嬉しかった。
(もっと親しくなれないかな……)
そんなことを考えながら去って行く彼の後ろ姿をじっと見つめた。
***
しばらくして、朝食の時間になった。
今日もいつものように義理の家族たちと食事を摂る。
和気あいあいと会話に花を咲かせているのは私を除く三人だけ。
もしかすると、ダリルはこの状況が嫌でここへ来ないのかもしれない。
最初は疑問に思っていたけれど、今では痛いほどに彼の気持ちが理解出来る。
(もし、彼が本当にお義父様の子供ではないのだとしたら……)
当然、彼らと仲良くすることなど出来るはずが無い。
そういうところはよそ者の私と少し似ているようにも感じる。
「あの子の分の食事はもう運んだの?」
「いえ、それが……新人が怖がってしまって部屋に行きたがらなくて……」
「まったく、困ったわね……」
義母が頭を悩ませている姿を見て、自然と口が開いた。
「私……代わりに行ってきます」
その瞬間、全員の視線がこちらへ集中した。
信じられないものを見るかのような目で見つめられる。
「あら……わざわざ汚れ役を引き受けてくれるだなんて何て出来た嫁なのかしら」
義母が嫌味ったらしく笑った。
「自ら進んでアイツのところへ行きたがるとは……馬鹿なのか」
義父が理解出来ないというような顔で私を見た。
ウィルベルトも同じような反応だったが、このままここに居続けるよりかはずっとマシだ。
渋る義父を説得したのは義母だった。
「まぁまぁ旦那様。せっかくそう言ってくれてるんだから行かせましょうよ」
「……それもそうだな」
「……ありがとうございます」
食事を乗せたトレーを持った私は、義理の家族たちに挨拶をして静かに部屋を出た。
***
リーゼが去った後、ウィルベルトが口を開いた。
「……母上、あの女に行かせて良かったのですか?」
「何を言っているのウィルベルト。誰もが嫌がる仕事をわざわざ引き受けてくれたのよ。それに貴方だって彼女のことを嫌っていたじゃない」
「……」
ウィルベルトはリーゼを憎んでいる。
愛するオーレリアと別れなければならなかったのも全てリーゼのせいだと本気で思っているからだ。
最愛の女性と離れる原因になった女になど触れたくなくて、初夜すら放置した。
そのうえ昔から折り合いの悪かった弟が今になって帰って来てウィルベルトの機嫌は最悪だった。
ダリルとリーゼがいなければ彼がオーレリアを失うことも無く、三人は幸せな家族でいられたからだ。
「私はあの子に会えないわ」
「……」
母親はそう言いながら体を震わせた。
「顔も見たくないの……あの血のような赤い瞳を見ると……」
「母上」
顔色を悪くした母にウィルベルトが近付いた。
「アイツのことなら大丈夫です、私が何とかしますから。もうすぐ家族だけで暮らせる日が来ますからね」
ウィルベルトはそう言いながら介抱するように母親の背中を優しく撫でた。
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