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17 二人きり
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ダリルの自室はウィルベルトや義理の両親たちの部屋から最も遠く離れた公爵邸の隅にある。
公爵家の人間が暮らすとは思えない場所だ。
「ダリル様、リーゼです」
呼びかけても返事は無い。
しかし絶対に中にいるはずだ。
おそらくいないフリをしているのだろう。
そう確信した私は、強硬手段に出ることにした。
「開けないなら勝手に入りますよ」
そのままドアノブに手を掛けようとすると、ようやく扉が開いた。
中から姿を現したのは軽装姿のダリルだった。
(やっと出てくれた!)
彼は不機嫌そうだったが、それでも嬉しかった。
「……昨日ここへは二度と来るなと言わなかったか?」
「はい、言われました」
「なら何故……」
怪訝そうにこちらを見つめるダリルに、私はハッキリと理由を伝えた。
「これ以上あの場所にいたくなかったからです、ダリル様なら私の気持ちが理解出来るでしょう?」
「……」
「あそこは息が詰まって死にそうなんですよ」
「……」
それを聞いた彼はじっと黙り込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「……それでここへ来たのか」
「はい」
頷くと、彼の表情が少しだけ柔らかくなった。
私の気持ちが理解出来るのだろう。
私よりもずっと長くここにいるからこそ、彼らの異常性をよく分かっているはずだ。
だから包み隠すことなく自分の本心を打ち明けた。
彼ならきっと分かってくれると信じて。
(これで少しは打ち解けたら良いのだけれど)
「では、用は済みましたのでそろそろ戻りますね」
「……待て」
振り向くと、ダリルの赤い瞳と目が合った。
「あそこにいたくないんだろう、なら会が終わるまで俺の部屋で過ごしていけばいい」
「え……?」
戻りたくないという気持ちを察したのか、彼が視線を逸らしながら言った。
彼らと一緒にいたくないというのは事実だが、流石に夫以外の男の人と二人きりで密室にいることは出来ない。
断ろうとすると、彼が先に口を開いた。
「俺の部屋には元々誰も寄り付かないから安心しろ」
「で、ですが……」
「俺は女に困ったことは無い。いちいち兄嫁に手出したりなんてしないから不安になるな」
「そ、そんなこと思ってません!」
慌てて否定すると、ダリルがフッと笑った。
(……晩餐会が終わるまでなら誰も来ないだろうし良いかな)
あの人たちは私がいなくなったところで気にも留めないだろうし。
きっと今頃家族三人で和気あいあいと食事をしているはずだ。
そう考えた私は、晩餐会が終わるまで彼の部屋で過ごすことにした。
ダリルの部屋に足を踏み入れた私は、その光景に驚きを隠せなかった。
(ここが……公爵家の次男の部屋……?)
まるで使用人が暮らしているかのような広さだ。
もしかすると私の部屋よりも小さいかもしれない。
「数年ぶりに帰って来たからな。ここしか空いている部屋が無かった」
「なるほど……」
部屋に入った私たちはソファに向かい合って座った。
正面に座るダリルはテーブルの上に食事を置いたままで、いつまで経っても食べようとはしない。
「あの……食べないんですか……?」
「……あぁ」
遠慮がちに尋ねると、彼は素っ気なく返事をした。
せっかく美味しそうな料理があるのにまるで手を付けないだなんて。
(これじゃあ食材がもったいないわ)
食欲がないんだろうか。
「それなら私が代わりにもらいます!」
「お、おい、待て!」
スプーンを手に取り、スープを口に運んだ私は思わず顔をしかめた。
「しょっぱい!!!」
見た目は完璧なのに、味が明らかに異様だった。
これは料理人のミスではない、どう考えてもわざととしか思えない。
「おい、大丈夫か?」
「は、はい……」
彼が呆れたような顔で私を見た。
「誰かが俺への嫌がらせでやったんだ」
「私何もやってません……」
「そんなことは分かってる、使用人の誰かかあの人たちか……候補が多すぎて誰か分からないな」
(嫌がらせだなんて……)
だから彼は食事に手を付けなかったんだ。
味が変えられていることを知っていたから。
口元を押さえてうずくまっていた私に、彼が水を差し出した。
「ほら」
「あ、ありがとうございます……」
(結構優しいのね……)
公爵家の人間が暮らすとは思えない場所だ。
「ダリル様、リーゼです」
呼びかけても返事は無い。
しかし絶対に中にいるはずだ。
おそらくいないフリをしているのだろう。
そう確信した私は、強硬手段に出ることにした。
「開けないなら勝手に入りますよ」
そのままドアノブに手を掛けようとすると、ようやく扉が開いた。
中から姿を現したのは軽装姿のダリルだった。
(やっと出てくれた!)
彼は不機嫌そうだったが、それでも嬉しかった。
「……昨日ここへは二度と来るなと言わなかったか?」
「はい、言われました」
「なら何故……」
怪訝そうにこちらを見つめるダリルに、私はハッキリと理由を伝えた。
「これ以上あの場所にいたくなかったからです、ダリル様なら私の気持ちが理解出来るでしょう?」
「……」
「あそこは息が詰まって死にそうなんですよ」
「……」
それを聞いた彼はじっと黙り込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
「……それでここへ来たのか」
「はい」
頷くと、彼の表情が少しだけ柔らかくなった。
私の気持ちが理解出来るのだろう。
私よりもずっと長くここにいるからこそ、彼らの異常性をよく分かっているはずだ。
だから包み隠すことなく自分の本心を打ち明けた。
彼ならきっと分かってくれると信じて。
(これで少しは打ち解けたら良いのだけれど)
「では、用は済みましたのでそろそろ戻りますね」
「……待て」
振り向くと、ダリルの赤い瞳と目が合った。
「あそこにいたくないんだろう、なら会が終わるまで俺の部屋で過ごしていけばいい」
「え……?」
戻りたくないという気持ちを察したのか、彼が視線を逸らしながら言った。
彼らと一緒にいたくないというのは事実だが、流石に夫以外の男の人と二人きりで密室にいることは出来ない。
断ろうとすると、彼が先に口を開いた。
「俺の部屋には元々誰も寄り付かないから安心しろ」
「で、ですが……」
「俺は女に困ったことは無い。いちいち兄嫁に手出したりなんてしないから不安になるな」
「そ、そんなこと思ってません!」
慌てて否定すると、ダリルがフッと笑った。
(……晩餐会が終わるまでなら誰も来ないだろうし良いかな)
あの人たちは私がいなくなったところで気にも留めないだろうし。
きっと今頃家族三人で和気あいあいと食事をしているはずだ。
そう考えた私は、晩餐会が終わるまで彼の部屋で過ごすことにした。
ダリルの部屋に足を踏み入れた私は、その光景に驚きを隠せなかった。
(ここが……公爵家の次男の部屋……?)
まるで使用人が暮らしているかのような広さだ。
もしかすると私の部屋よりも小さいかもしれない。
「数年ぶりに帰って来たからな。ここしか空いている部屋が無かった」
「なるほど……」
部屋に入った私たちはソファに向かい合って座った。
正面に座るダリルはテーブルの上に食事を置いたままで、いつまで経っても食べようとはしない。
「あの……食べないんですか……?」
「……あぁ」
遠慮がちに尋ねると、彼は素っ気なく返事をした。
せっかく美味しそうな料理があるのにまるで手を付けないだなんて。
(これじゃあ食材がもったいないわ)
食欲がないんだろうか。
「それなら私が代わりにもらいます!」
「お、おい、待て!」
スプーンを手に取り、スープを口に運んだ私は思わず顔をしかめた。
「しょっぱい!!!」
見た目は完璧なのに、味が明らかに異様だった。
これは料理人のミスではない、どう考えてもわざととしか思えない。
「おい、大丈夫か?」
「は、はい……」
彼が呆れたような顔で私を見た。
「誰かが俺への嫌がらせでやったんだ」
「私何もやってません……」
「そんなことは分かってる、使用人の誰かかあの人たちか……候補が多すぎて誰か分からないな」
(嫌がらせだなんて……)
だから彼は食事に手を付けなかったんだ。
味が変えられていることを知っていたから。
口元を押さえてうずくまっていた私に、彼が水を差し出した。
「ほら」
「あ、ありがとうございます……」
(結構優しいのね……)
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