お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの

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5 後悔

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「ううっ……ううっ……」


私が手紙を読み終えた後も、フランチェスカの侍女であるリリアンは未だに泣き続けている。


そのすぐ横にはフランチェスカの遺体。
傷一つ無く綺麗だ。


(本当に毒を飲んだのか……)


ただ眠っているだけだと思いたかった。
これは悪い夢なのだと。
もしそうならば早く覚めてほしい。


しかしこれは夢ではない。
現実だ。


フランチェスカが亡くなったという事実は私にとっては残酷なものだった。


悲しい、苦しい、辛い。
そんな感情で心が満たされた。


「あ、ああ……」


私は無意識に声を出しながら顔を手で覆った。


その声で私がいることに気付いたのか、先ほどまで泣いていた侍女が私の方を見た。


「国王陛下……!」


その瞳には憎悪が宿っている。
当然だろう、フランチェスカを殺したのは私のようなものなのだから。


「……」


彼女の視線は一介の侍女が国王に向けるものではなかったが、今の私にはそんなもの気にならなかった。
自分はそれだけのことをしてきたのだから。


そしてその侍女が私をじっと見つめて口を開いた。


「……陛下、何故ここにいらっしゃったのですか?」


その声は震えている。
私に対する怒りを必死で抑えているのだろう。


(……そういえばこの侍女はいつもフランチェスカの傍にいたな。王妃になってからもずっと)


リリアンというこの侍女はいつもフランチェスカの隣にいたからよく知っている。
私を良く思っていないことは確かだ。
実際、彼女の目からは私に対する殺意が感じ取れた。


こんな目を向けられるのは生まれて初めてだが、今は怒りすら感じない。
当然の報いだ。


私は少し間を空けてから口を開いた。


「私はただ……妻の様子を見に……」


その言葉を聞いた侍女が馬鹿にするように言った。


「妻ですって……?陛下は今までこの部屋に訪れたことすらなかったではありませんか!」
「……!」


侍女が発した言葉が私に重くのしかかった。
たしかに私はフランチェスカの部屋に訪れたことはない。
夜はフレイアの部屋か自室で寝ていたから。


フランチェスカは私を愛していないから私が来なくても平気だろうと思っていた。
それなのに……


「……すまなかった」


私は、ただ謝ることしか出来なかった。


今さら謝罪の言葉を口にしてもどうにもならないことは分かっている。
そして私が本当に謝るべきはこの侍女では無くフランチェスカだ。


「それは何に対する謝罪ですか?」


侍女の怒りは収まらなかった。
いや、むしろ今の一言で余計にヒートアップしているような気もする。


「フランチェスカ様がいながら不貞をしたことですか?初夜を放置したことですか?結婚してから五年もの間一度も会いに来なかったことですか!?」
「……」


今思えばフランチェスカには随分とひどいことをしてきた。
何故彼女が生きている間にそのことに気づけなかったのか。
白い結婚なんて、たとえ夫を愛していないとしても妻にとっては残酷なものだろう。


「フランチェスカ様は陛下を心から愛しておりました!それも初めて出会った頃からずっと!それなのに陛下はポッと出の平民の女と浮気して!フランチェスカ様がどれだけ悲しんだことか……!それでもフランチェスカ様は陛下の幸せを願っておいででした。婚約破棄になっても陛下が幸せならそれでいいのだとよく仰っていました……」


そこまで言って侍女は再び涙を流す。


(な、なんだと……?)


フランチェスカはそこまで私のことを想っていてくれたのか。
私はずっと彼女を冷遇していたというのに。
そんな男をずっと想い続けていたのか。


そう思うと何故だか胸が温かくなった。
それと同時にまた涙がこぼれそうになった。


(私は……こんな時に何を……)


少しだけ穏やかな表情になった私に、侍女が眉をひそめて言った。


「……陛下は、フランチェスカ様が王宮で侍女たちになんて言われていたかご存知ですか?」


(侍女に何て言われていたか……?王妃の悪口を言う侍女などいるのか……?)


まさか、そんなはずはない。
嫌な予感がした。


聞きたくない。
何も言わないでくれ。
そう願う自分がいた。


「……いいや」


私は俯いて首を横に振った。


「寵愛を受けられない惨めな王妃、ですって」
「……」


知らなかった。
フランチェスカがそんなことを言われていただなんて。
彼女がそう言われていたのは間違いなく私のせいだ。
私が彼女を冷遇していたから。


フランチェスカにとって王宮での生活は窮屈なものだったのだろう。
夫から冷遇され、侍女たちから陰口を叩かれる日々。


私は酷い後悔に苛まれた。
もっと早くそのことに気付くべきだった。
私が少しでも彼女を気にかけていれば、こうはならなかったかもしれない。
しかし、今さら後悔しても遅い。


「……一生後悔してください、陛下」


そんな私の様子を見た侍女は冷たく吐き捨てた後、私から目を背けた。


「……」


私はというと、侍女の不敬を咎める気にもなれなかった。


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