お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの

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31 侍女リリアン

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それから数時間後。
私は普段通り部屋で執務をしていた。


(……このペースなら今日中に終わりそうだな)


自ら毒を飲んだあの日から既に二週間近く経っている。
毒のせいで重かった体ももう治り、今では普通に仕事が出来るまでに回復した。
いや、むしろ毒を飲む前よりも体の調子は良い。


終わらなかった執務が次々と片付いていく。
これが私の本当の能力だったのだと思うと何だか嬉しくなった。


「……少し休憩にするか」


私は後ろに控えていたアレクにそう言った。


「そうですね。では、侍女にお茶を持って来てもらいましょうか」
「ああ、頼む」


休憩を開始してから数分後。


「陛下、お茶をお持ちしました」


執務室の扉の外から侍女の声がした。


「入れ」


私のその声で扉が開いた。


――ガチャリ


「失礼します」
「………………何故、君が」


お茶を乗せたトレーを持って部屋に入ってきたのは、フランチェスカの侍女であるリリアンだった。
彼女は私の問いには答えず、真っ直ぐこちらに歩いてきて私の机の上にお茶を置いた。


「それでは失礼します」


そのままリリアンは一礼してすぐに部屋を出て行こうとした。


「ま、待ってくれ……!」


気付けば私は彼女を引き止めていた。


「…………何でしょうか」


リリアンは私の声に立ち止まってこちらをじっと見つめた。


「君は……私を……憎んでいるか……?」


彼女の真っ直ぐな視線を受けた私の口から出たのはそんな言葉だった。
何故こんなことを聞いたのか自分でも分からない。


(…………何を聞いているんだ、私は)


しかし、リリアンは私の問いにも表情を変えなかった。


「私が陛下を憎んでいるか、ですか?」


私の言葉に彼女は口角を上げた。


「そりゃあもう、殺したいほど憎いですよ」
「……」
「もしフランチェスカ様が陛下の死を願っていたのなら、殺していたかもしれませんね」


リリアンはそう言ってニッコリと笑った。


「……」


(………………随分素直なんだな)


本来なら不敬罪で投獄されていてもおかしくはない。
少なくとも侍女が一国の王に対して言う言葉ではないだろう。
そう思うと自然と笑いがこみ上げてきた。


「は、ははっ……」


不思議だった。
何故か彼女の答えに安心している自分がいた。


「……何故笑うのですか?」


リリアンは突然笑い出した私を冷たい目で見つめた。


「いや、何でもない。それでいいんだ。これからもずっと私のことを憎み続けてくれてかまわない」
「……」


私の言葉にリリアンは怪訝そうな顔をした。
しかし私はそんなこと気にもせず彼女に話しかけた。


「そういえば、君は幼い頃からフランチェスカと一緒にいるんだったな」
「……そうですが、それが何か?」
「よければ……聞かせてくれないか、彼女の話を」


私の言葉に、リリアンは一瞬だけ目を丸くした。


「何故今になってそのようなことを……」


そして訝しげに私を見た。


(……まぁ、そうなるだろうな)


私は執務室にある机の近くで立ち尽くしている彼女を見上げた。


「……フランチェスカはまだ私の心の中で生きているから。彼女を忘れてしまわないように誰かと語り合いたいんだ。君が一番適任だと思ったのだが……」
「……!」


私のその言葉に、リリアンの瞳が大きく揺れた。







◇◆◇◆◇◆





「――ということがあったんですよ」
「な、何だと!?そうだったのか!?」


私とリリアンは、執務室のソファに向かい合うようにして座っていた。
私たちが話しているのはもちろんフランチェスカに関することだ。


もう二時間は話し込んでいる。
リリアンは私の知らないフランチェスカの姿を知っていて、彼女の話はとても興味深いものだった。


「昔のフランチェスカ様がお転婆だったのは陛下もご存知でしょう?」
「ああ、知っている。もちろん知っていたが……」
「あの頃のフランチェスカ様は本当に可愛かったですからね。まぁ大人になったフランチェスカ様が可愛くないというわけではありませんが」
「そりゃあそうだ」


私は当然だというようにうんうんと頷いた。
執務のことなどすっかり忘れて盛り上がっている私にアレクが不満そうな顔で話しかけた。


「ちょっと陛下、何時間休憩してるんですか。まだ執務は終わっていないのですよ」
「アレクか!執務は後回しでいい。お前も座れ」
「え、ええっ!?」


私の発言にアレクはあたふたした。


「お前もフランチェスカのことはよく知っているだろう?」
「………そりゃそうですよ。フランチェスカ様とは陛下と同じくらい長い付き合いですからね」


アレクはそう言うと、私の隣に座った。


「それでは遠慮なく。まずは私とフランチェスカ様の出会いから……」


そうしてアレクはフランチェスカとの出会いを語り始めた。
フランチェスカとのことを話しているときのアレクは頬を赤く染めていてとても嬉しそうだった。


(……何か癪に障るな)


私はそんなアレクの様子を見て不快感を覚えた。


「………………おい、まさかお前フランチェスカに横恋慕してるわけじゃないだろうな?」


私が低い声で言うとアレクは慌てて疑惑を否定した。


「へ?ち、違いますよ!たしかにフランチェスカ様が私の婚約者ならよかったのになーと思ったことはありますが決して陛下から奪おうとしたことなど……」
「……」
「あ」


私の顔が険しくなったのに気付いたのだろう。
アレクは青い顔になって固まった。


「ご、誤解です……陛下……」
「やっぱりお前はダメだ。仕事してろ」
「えっ!ひ、ひどくないですかそれ!」


結局アレクは泣きべそをかいて仕事に戻っていった。


「……」


そんな私とアレクの様子を侍女のリリアンはじっと見つめていた。
私の気のせいか、その顔は普段より少しだけ穏やかに見えた。


(…………それにしても)


これがよくある嫉妬というやつだろうか。
惚れ薬を盛られていたときですら感じたことのない、生まれて初めて抱く感情だった。


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