お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの

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33 レスタリア公爵令息

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「……」
「陛下、どうかしましたか?」


休憩中、ずっと考え込んでいた私にアレクが話しかけた。


「……いや、何でもない」


私はそれだけ言って椅子から立ち上がった。


「どこか行かれるのですか?」
「少し気分転換に……外へ行ってくる」


アレクは突然そんなことを言い出した私を止めなかった。
本当に仕方のない人ですねとでも言いたそうに眉を下げている。


(……ありがとう、アレク)


心の中でアレクに感謝の意を伝え、私はそのまま執務室から出た。





◇◆◇◆◇◆




部屋を出た私は王宮の廊下を歩いていた。
たまには息抜きも必要だ。
執務はまだ残っていたが少しくらいならいいだろう。


私はそう思いながら王宮の廊下を歩き続ける。
行きたい場所など特に無かったが、足が勝手にある場所に向かっていた。



――王宮の庭園だ。


(………今日はよく晴れているからきっと綺麗なんだろうな)


前に庭園に行ったときは夜だったから周りがあまりよく見えなかった。
しかし、今はどうだろうか。


庭園の管理を命じていたのはフランチェスカだったが、庭師は今でもあの庭園の管理をしてくれている。
きっとたくさんの花が美しく咲き誇っているのだろう。


(………私とフランチェスカの好きなあの花もたくさんあるんだろうな)


そう考えるだけで胸が高鳴った。
足取りも自然と軽くなる。


気付けば私は早足で庭園へと向かっていた。





(やっと着いた……!)


しばらく歩いて、ようやく王宮の庭園に到着した。


「…………!」


庭園を見た私は、言葉を失った。


(………なんて、綺麗なんだ)


そのときの私の目の前に広がったのはいたるところに咲いている色とりどりの花。
この間と違い、花たちは陽の光を受けてキラキラと輝いている。
暖かい春の風が吹くたびに庭園の花はゆらゆらと揺れた。
まるで生きているようだ。


(……ここはこんなにも綺麗な場所だったのか)


そう思わざるを得ないほどに美しかった。
私とフランチェスカの思い出の場所。
来るたびに私の心を穏やかにしてくれるこの場所。


(……本当に、美しい)


私は美しく咲き誇っている花をもっとよく見るために庭園の中に入った。


「……」


永遠に見ていられる。
私はそう思いながら近くに咲いていた一輪の花に手を伸ばす。
そっと顔を近づけてみればかぐわしい香りがした。


(…………こんなにも美しい場所だったのならもっと早く来ればよかったな)


そう思いながらさらに奥へと入ろうとしたそのときだった――


「……もう、マクシミリアン様ったら」
「……!」


突如、庭園の奥から人の声がした。


(何だ?誰かいるのか?)


私は慌てて声の聞こえた方に目を向けた。
そこにいたのは――


(フレイア…………?と、あれはまさか……)


庭園にいたのはフレイアだった。
しかし驚くことに、彼女一人ではなかった。


隣に男がいたのだ。
フレイアは頬を赤く染めてその男を見つめている。


男は優しい顔でフレイアの耳元に唇を寄せ何かを囁いた。
フレイアはそんな男の行動にあたふたしている。


(……なるほど、そういうことか)


私は男の方に見覚えがあった。
男はこの国の貴族ならば誰もが知っている人間だった。
フレイアの様子からして彼女はどうやらその男に惚れ込んでいるようだ。


(…………イライラする)


正直、フレイアが私の愛妾でありながら他の男と親しくしていたことなど今はどうだってよかった。
私が何よりも癪に障ったのは――


(…………私とフランチェスカの思い出の場所で、何をしているんだこの二人は)


私にとっての思い出の場所を汚されたこと、ただそれだけだった。
私は怒りを覚えながらも平静を保って二人に近づいて行った。


「おい、ここで何をしている?」


私の厳しい声に二人が振り返った。


「え、レオン様!?」
「陛下……何故ここに……」


二人は驚いた顔でこちらを見た。


(……やっぱりこの男か)


フレイアと共にいた男。
それは私の予想通りの人物だった。


「私の質問に答えろ。ここで何をしていた?――レスタリア公子」




――マクシミリアン・レスタリア公爵令息


レスタリア公爵家の一人息子であり、嫡男だ。
整った顔立ちをしていてそのうえ文武両道なため貴族令嬢から非常に人気があるらしい。
母上の兄の息子なので私の従兄弟にあたる。


「マ、マクシミリアン様……」


フレイアは私が怒っているのに気付いたのか、不安げな顔でレスタリア公子の方を見た。
一方レスタリア公子はフレイアとは違い、いたって冷静だった。


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません、陛下。お久しぶりです」


レスタリア公子はそう言って臣下の礼をとった。


「……」
「陛下は何か勘違いをしていらっしゃいます。私とフレイアはそういう関係ではありません。私はただ王宮に住んでいる妹に会いに来ただけですよ」


どうやらレスタリア公子は何か勘違いをしているらしい。


(……そんなことはどうだっていいんだ)


フレイアとレスタリア公子がどのような関係なのかなど私にとってはどうでもいい。
フランチェスカとの思い出の場所を汚されたことが許せないんだ。


私は変わらず厳しい口調で二人を問い詰めた。


「私が聞いているのはそんなことではない。レスタリア公子、高位貴族である君が知らないはずないだろう?ここは誰でも入っていい場所ではないんだ」


私がそう言うとレスタリア公子は少し不満そうな顔で言った。


「陛下、私と陛下は従兄弟ではありませんか。こんな小さいこと気にせずとも……」
「……何だと?」


自分でも驚くほど低い声が出た。
どうやら私はレスタリア公子の今の発言に本気でイラついているらしい。


「……!」


レスタリア公子は私の様子が変わったことに気付いたのか、一瞬だけ驚いた顔をした。
しかし、そこに割って入ったのはフレイアだった。


「ま、待ってくださいレオン様!私がいるんだから別にいいじゃないですか!王宮に住んでいる私ならここに入ってもいいでしょう!?」


彼女はレスタリア公子を庇うかのように前に出て言った。


「……君は王族にでもなったつもりか?」


私は公子の前に出たフレイアを冷たい目で見つめた。


「い、いや……そういうわけじゃ……」


「王宮に住んでいるからといって何をしてもいいわけではない。君はもう少し立場をわきまえるべきだ」


私がハッキリと言うとフレイアは納得がいかないといったような顔をした。


「……だけど、私はレオン様の――」
「正式に私の妃になったわけではないだろう。君はただの愛人だ」
「……ッ!」


私の言葉にフレイアは眉を上げた。
どうやら彼女は”愛人”という地位が気に入らないらしい。


私はしかめっ面をしているフレイアと真顔でこちらを見ているレスタリア公子に対して低い声で言った。


「不快だ。二人とも今すぐここから出て行け」
「陛下……待ってください……」
「レオン様……!」
「さっさとしろ」


先ほどより強めに言うと二人はしぶしぶ庭園から出て行った。


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