45 / 87
45 怒り
しおりを挟む
私はそのままヴェロニカ公爵と執務室に入る。
(……仕事をするか)
執務室にある椅子に座り、公爵はその背後に控えた。
そして机の上の書類を片付け始める。
今日はいつもに比べたら書類の量が少ない。
優秀なヴェロニカ公爵もいる。
普段通りにやれば早めに終わらせることが出来るだろう。
私はそう思ってペンを手にした。
そのとき、部屋の扉がノックされた。
「陛下、お茶をお持ちしました」
「……入れ」
部屋に入ってきたのは侍女のリリアンだった。
彼女は私の机に茶を置くと、その場に立ち止まった。
リリアンが私の執務室に来るときはいつも決まって何かあったときだ。
もちろんヴェロニカ公爵はそれを知らないため、なかなか出て行かないリリアンに困惑している。
彼女は優秀な侍女だ。
何かを見つけたのだろうか。
私がじっと見つめていると、リリアンは懐から封筒の束を取り出した。
(何だ……?)
丁寧にまとめられたそれを私の机の上にボンッと置いた。
ヴェロニカ公爵は一国の王に対しては不敬すぎる彼女の行動にかなり驚いていた。
(……まぁ、驚くだろうな)
私はそれを気にしたことはないが、貴族たちからすれば衝撃的だろう。
「あの女、陛下に隠れてこんなふざけたことしてたみたいですよ」
リリアンは口角を上げてそう言った。
かなり苛立ちを含んだ声だった。
私はすぐに彼女が持って来た封筒を開けて中身を見てみる。
「手紙……?」
中に入っていたのは手紙だった。
(誰かがフレイアに宛てて書いたのか……?)
リリアンの言う「あの女」とはフレイアのことである。
彼女はその名前すら口にしたくないようで、フレイアのことをいつもあの女と呼んでいる。
私はその手紙の内容をじっくりと読んでみる。
「…………なっ!?これは……!?」
手紙を読んだ私は驚きを隠せなかった。
何故ならその手紙は全て、父上がフランチェスカに宛てたものだったからだ。
「これは一体どういうことだ!?」
私はすぐにリリアンに問いただした。
「あの女が暮らしていた部屋から出てきたんですよ。どうやらあの女、この五年の間で先王陛下がフランチェスカ様に宛てた手紙を全てくすねていたようです」
「な、何だと……!?」
「う、嘘でしょう……そんな……」
このことには私だけでなく、ヴェロニカ公爵も驚いた顔をしていた。
私は平静を保ち、手紙の続きを読んでみる。
一通目の手紙には王妃となったフランチェスカを気遣う内容が書かれていた。
(なんてことだ……もし、この手紙がフランチェスカの元に届いていれば……!)
彼女は父上に助けを求めることも出来たかもしれない。
そして、今も生きていたかもしれない。
そう思うと悔しくてたまらなかった。
しかし、一つだけ気にかかることがある。
(…………父上は返事が来ないことを不審に思わなかったのか?)
手紙はフランチェスカの元に届いていなかったのだから彼女からの返事が来ることはない。
それに対して父上は何とも思わなかったのだろうか。
そんな私の疑問を察したかのように、リリアンは言った。
「陛下、二通目をご覧ください」
「二通目……?」
その言葉で私は二通目の封筒を開け、内容を読んだ。
「こ、これは………!」
(そんな……ありえない……だってあの手紙は……)
私は二通目の手紙を見てそう思わざるを得なかった。
何故ならその手紙は、フランチェスカが父上に宛てたものだったからだ。
「これは一体……!?」
「それは先代王妃陛下の専属侍女だった方が亡くなった国王陛下の部屋を掃除していた際に見つけた物だそうです。何故本人に届いてもいない手紙の返事が来るのでしょうね?」
リリアンはそう言っておかしそうに笑った。
しかしその目は笑っていない。
どうやらかなり頭に来ているようだ。
私はフランチェスカが父上に宛てたことになっている手紙の内容をじっくりと読んだ。
「……」
『私は元気です』
『この間も陛下が私に贈り物をしてくれたのです』
『だから心配しないでください』
そこにはただただ父上を安心させようとする言葉が書かれていた。
「……この筆跡、フランチェスカのものによく似ているな」
「ええ、私も最初に見たときそう思いました」
長い間彼女と共にいた私とリリアンですらそう思うのだから相当だ。
父上に怪しまれないように誰かがフランチェスカの筆跡を真似て書いたのだろう。
「……手紙をくすねたことはともかく、これに関してはあの女の仕業ではないでしょうね」
「まぁ、そうだろうな」
フレイアは筆跡を似せるどころか文字の読み書きすら出来ない。
ということは――
「…………レスタリア公爵家の者の仕業か?」
もうそうとしか考えられなかった。
フレイアがレスタリア公爵家との関わりを持ち始めた時期は詳しくは分かっていない。
しかし、彼女にそのような入れ知恵をするのはレスタリア公爵家しか思い当たらなかった。
私の言葉にリリアンは頷きながら言った。
「ええ、おそらくレスタリア公爵家の――」
「何てヤツらなんだ!!!レスタリア公爵家!!!」
「「!?」」
そのとき、突然声を上げたのはヴェロニカ公爵だった。
私とリリアンは驚いて彼の方を見た。
そこには怒りに満ちた顔をして拳を握りしめているヴェロニカ公爵がいた。
「元々我がヴェロニカ公爵家を敵視するレスタリア公爵家のことは良く思っていなかったが、まさかこんなふざけた真似をしていただなんて!ヴェロニカ公爵家を舐めているのか!」
「ヴェ、ヴェロニカ公爵……?」
彼は珍しく声を荒げている。
その顔は真っ赤だ。
「陛下を誑かし、フランチェスカを苦しめるだけでは飽き足らずこのようなことまで……!」
「お、おい……落ち着け……」
「陛下、ヤツらはヴェロニカ公爵家に喧嘩を売りました。その女はもちろんレスタリア公爵家にも必ず制裁を与えましょう!」
「あ、ああ……」
ヴェロニカ公爵の物凄い剣幕に、私はただ頷くことしか出来なかった。
(……仕事をするか)
執務室にある椅子に座り、公爵はその背後に控えた。
そして机の上の書類を片付け始める。
今日はいつもに比べたら書類の量が少ない。
優秀なヴェロニカ公爵もいる。
普段通りにやれば早めに終わらせることが出来るだろう。
私はそう思ってペンを手にした。
そのとき、部屋の扉がノックされた。
「陛下、お茶をお持ちしました」
「……入れ」
部屋に入ってきたのは侍女のリリアンだった。
彼女は私の机に茶を置くと、その場に立ち止まった。
リリアンが私の執務室に来るときはいつも決まって何かあったときだ。
もちろんヴェロニカ公爵はそれを知らないため、なかなか出て行かないリリアンに困惑している。
彼女は優秀な侍女だ。
何かを見つけたのだろうか。
私がじっと見つめていると、リリアンは懐から封筒の束を取り出した。
(何だ……?)
丁寧にまとめられたそれを私の机の上にボンッと置いた。
ヴェロニカ公爵は一国の王に対しては不敬すぎる彼女の行動にかなり驚いていた。
(……まぁ、驚くだろうな)
私はそれを気にしたことはないが、貴族たちからすれば衝撃的だろう。
「あの女、陛下に隠れてこんなふざけたことしてたみたいですよ」
リリアンは口角を上げてそう言った。
かなり苛立ちを含んだ声だった。
私はすぐに彼女が持って来た封筒を開けて中身を見てみる。
「手紙……?」
中に入っていたのは手紙だった。
(誰かがフレイアに宛てて書いたのか……?)
リリアンの言う「あの女」とはフレイアのことである。
彼女はその名前すら口にしたくないようで、フレイアのことをいつもあの女と呼んでいる。
私はその手紙の内容をじっくりと読んでみる。
「…………なっ!?これは……!?」
手紙を読んだ私は驚きを隠せなかった。
何故ならその手紙は全て、父上がフランチェスカに宛てたものだったからだ。
「これは一体どういうことだ!?」
私はすぐにリリアンに問いただした。
「あの女が暮らしていた部屋から出てきたんですよ。どうやらあの女、この五年の間で先王陛下がフランチェスカ様に宛てた手紙を全てくすねていたようです」
「な、何だと……!?」
「う、嘘でしょう……そんな……」
このことには私だけでなく、ヴェロニカ公爵も驚いた顔をしていた。
私は平静を保ち、手紙の続きを読んでみる。
一通目の手紙には王妃となったフランチェスカを気遣う内容が書かれていた。
(なんてことだ……もし、この手紙がフランチェスカの元に届いていれば……!)
彼女は父上に助けを求めることも出来たかもしれない。
そして、今も生きていたかもしれない。
そう思うと悔しくてたまらなかった。
しかし、一つだけ気にかかることがある。
(…………父上は返事が来ないことを不審に思わなかったのか?)
手紙はフランチェスカの元に届いていなかったのだから彼女からの返事が来ることはない。
それに対して父上は何とも思わなかったのだろうか。
そんな私の疑問を察したかのように、リリアンは言った。
「陛下、二通目をご覧ください」
「二通目……?」
その言葉で私は二通目の封筒を開け、内容を読んだ。
「こ、これは………!」
(そんな……ありえない……だってあの手紙は……)
私は二通目の手紙を見てそう思わざるを得なかった。
何故ならその手紙は、フランチェスカが父上に宛てたものだったからだ。
「これは一体……!?」
「それは先代王妃陛下の専属侍女だった方が亡くなった国王陛下の部屋を掃除していた際に見つけた物だそうです。何故本人に届いてもいない手紙の返事が来るのでしょうね?」
リリアンはそう言っておかしそうに笑った。
しかしその目は笑っていない。
どうやらかなり頭に来ているようだ。
私はフランチェスカが父上に宛てたことになっている手紙の内容をじっくりと読んだ。
「……」
『私は元気です』
『この間も陛下が私に贈り物をしてくれたのです』
『だから心配しないでください』
そこにはただただ父上を安心させようとする言葉が書かれていた。
「……この筆跡、フランチェスカのものによく似ているな」
「ええ、私も最初に見たときそう思いました」
長い間彼女と共にいた私とリリアンですらそう思うのだから相当だ。
父上に怪しまれないように誰かがフランチェスカの筆跡を真似て書いたのだろう。
「……手紙をくすねたことはともかく、これに関してはあの女の仕業ではないでしょうね」
「まぁ、そうだろうな」
フレイアは筆跡を似せるどころか文字の読み書きすら出来ない。
ということは――
「…………レスタリア公爵家の者の仕業か?」
もうそうとしか考えられなかった。
フレイアがレスタリア公爵家との関わりを持ち始めた時期は詳しくは分かっていない。
しかし、彼女にそのような入れ知恵をするのはレスタリア公爵家しか思い当たらなかった。
私の言葉にリリアンは頷きながら言った。
「ええ、おそらくレスタリア公爵家の――」
「何てヤツらなんだ!!!レスタリア公爵家!!!」
「「!?」」
そのとき、突然声を上げたのはヴェロニカ公爵だった。
私とリリアンは驚いて彼の方を見た。
そこには怒りに満ちた顔をして拳を握りしめているヴェロニカ公爵がいた。
「元々我がヴェロニカ公爵家を敵視するレスタリア公爵家のことは良く思っていなかったが、まさかこんなふざけた真似をしていただなんて!ヴェロニカ公爵家を舐めているのか!」
「ヴェ、ヴェロニカ公爵……?」
彼は珍しく声を荒げている。
その顔は真っ赤だ。
「陛下を誑かし、フランチェスカを苦しめるだけでは飽き足らずこのようなことまで……!」
「お、おい……落ち着け……」
「陛下、ヤツらはヴェロニカ公爵家に喧嘩を売りました。その女はもちろんレスタリア公爵家にも必ず制裁を与えましょう!」
「あ、ああ……」
ヴェロニカ公爵の物凄い剣幕に、私はただ頷くことしか出来なかった。
392
あなたにおすすめの小説
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
一年だけの夫婦でも私は幸せでした。
クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。
フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。
フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。
更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる