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13 因果応報
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そして朝になった。
(ん・・・・よく寝た・・・・)
目を開けると、見慣れた天井が視界に入った。
「・・・・・!」
私は驚いて体を起こし、部屋の中をぐるりと見渡した。間違いない。そこはたしかに王である私の部屋だった。
(体が・・・戻っている・・・!)
私は体が元に戻っていることを認識して喜びに震えた。
どうやら三日後に元の体に戻るという王妃の話は本当だったらしい。
(王妃・・・!)
それから私はすぐにベッドから起き上がり王妃に会いに行った。
「へ、陛下!?」
着替えも済ませていない状態で王宮の廊下をバタバタと走っていたからか、通りかかった侍従や使用人たちは皆私を驚いた顔で見ていた。しかし今はそれすらも気にならない。それほどに私は王妃を恋しがっていたからだ。
(彼女ともう一度やり直すんだ!)
私はそう思いながら走り続けた。
王妃の部屋は国王である私の部屋からそう遠くはない。
だからすぐに彼女の部屋に辿り着いた。
「王妃!」
私は王妃の部屋に着いてすぐに勢いよく扉を開けた。本来ならばやってはいけないことだったが、どうしても我慢出来なかった。
「王妃!君に伝えたいことがあっ・・・・・・・・・・・・・・・え?」
部屋に入った私は思わず間抜けな声を出して固まってしまった。
部屋の中に王妃の姿が無かったからだ。
王妃どころか侍女もいない。
(・・・・・・何故いないんだ?)
「おい、王妃はどこにいる?」
私は不思議に思いながらも私を追いかけてきた侍従に尋ねた。
すると、侍従は冷めた目で私を見て言った。
「何を言っているのですか、陛下。
―陛下が廃妃にしたのではありませんか」
「・・・・・・・・・え」
一瞬頭が真っ白になった。
そこで私は王妃と体が入れ替わる前の記憶を思い出した。
『私の子を身籠ったレアに毒を盛り、王である私の子を殺害しようとしたという罪をでっち上げるんだ』
(・・・!)
たしかに私は王妃の罪を捏造して廃妃にしようとした。今考えると何て恐ろしいことをしようとしていたのだろうと少し前の自分の考えにゾッとした。
(だけど待て・・・私が侍従に命じたのはその証拠を捏造するということだけだ)
私はそれを命じただけで廃妃にしろとは一言も言っていない。では何故彼女は廃されたのか。
(まさか・・・王妃自ら自分を廃妃にすることを選んだのか?)
レアは王妃を敵視していたが、彼女に王妃を追い出せるほどの権力は無い。王妃を廃することが出来るのはそれより上の立場である国王だけだ。つまり、私と体が入れ替わっていた王妃本人以外はありえない。
(嘘だろう・・・?そんな・・・!)
私はそのことに大きなショックを受けながらも侍従に尋ねた。
「・・・おい、王妃はどこに行ったんだ?」
もしかしたらまだ間に合うかもしれない。そんな一抹の希望を抱いて尋ねた。
しかし現実はどこまでも残酷だった。
「とっくに王宮を出て行かれました」
「出て行ったのか・・・」
どうやら王妃はもう王宮を出て行ったようだった。実家である公爵家にはおそらく戻っていないだろう。彼女は家族と折り合いが悪かったから。それでは探しようがない。
項垂れる私に侍従は冷たい声でハッキリと告げた。
「―それと、今日限りで辞めさせてもらいます」
「・・・」
「あなたのような愚王に従い続けるのはもうこりごりです。これからは新しい王妃であるレア様とお幸せに」
「新しい王妃・・・?」
私は侍従のその言葉の意味が分からなかった。
ただの聞き間違いだろうかと思った。
しかし、この後すぐにそれを理解することとなる。
「陛下~!」
「レ、レア・・・」
廊下の奥からレアが走ってきたのだ。
いつもなら彼女に会えたことが嬉しくて頬を緩ませているところだが、今は嫌悪感しかない。
(く、来るな!)
私は駆け寄ってくるレアに拒絶反応を示した。
もうレアのことは愛せない。それだけは私の中でハッキリしていたからだ。
しかしレアは満面の笑みでこちらに近付いて来る。
「陛下、本当にレアを王妃にしてくださったんですね!レア嬉しいです!」
「・・・・・・・は?」
私は、レアの言っていることの意味が分からなかった。
(そういえば、さっき侍従もそんなことを言っていたような気が・・・)
しばらく声も出せなくなっていた私に、衝撃の事実が突き付けられた。
「陛下が、昨日の会議でレアを王妃にすることを貴族たちの前で宣言してくれたって聞いたんです!」
「・・・・・・」
(お、おい、嘘だろう・・・)
私はレアのその言葉に卒倒した。
「へ、陛下!?」
そのままドサリと後ろに倒れ込んだ。
それからすぐに目の前が真っ暗になる感覚が訪れた。
それがまるで、私のこの先の人生を表しているようで複雑な気持ちになった。
(・・・・・・因果応報とは、このことを言うのかもしれないな)
薄れゆく意識の中、レアが心配そうに倒れた私に駆け寄ってくるのが視界に入った。
避けようとも、体は動かない。もういっそ、このまま二度と目覚めることのない深い眠りについてしまいたかった。
(これは悪い夢だ・・・そうだ、そうにちがいない・・・)
そんなことあるはずがないと本当は分かっていながらも、私は現実から目を背けるかのようにそのまま瞳を閉じた。
――――――――――――――
次回、王妃視点です。
(ん・・・・よく寝た・・・・)
目を開けると、見慣れた天井が視界に入った。
「・・・・・!」
私は驚いて体を起こし、部屋の中をぐるりと見渡した。間違いない。そこはたしかに王である私の部屋だった。
(体が・・・戻っている・・・!)
私は体が元に戻っていることを認識して喜びに震えた。
どうやら三日後に元の体に戻るという王妃の話は本当だったらしい。
(王妃・・・!)
それから私はすぐにベッドから起き上がり王妃に会いに行った。
「へ、陛下!?」
着替えも済ませていない状態で王宮の廊下をバタバタと走っていたからか、通りかかった侍従や使用人たちは皆私を驚いた顔で見ていた。しかし今はそれすらも気にならない。それほどに私は王妃を恋しがっていたからだ。
(彼女ともう一度やり直すんだ!)
私はそう思いながら走り続けた。
王妃の部屋は国王である私の部屋からそう遠くはない。
だからすぐに彼女の部屋に辿り着いた。
「王妃!」
私は王妃の部屋に着いてすぐに勢いよく扉を開けた。本来ならばやってはいけないことだったが、どうしても我慢出来なかった。
「王妃!君に伝えたいことがあっ・・・・・・・・・・・・・・・え?」
部屋に入った私は思わず間抜けな声を出して固まってしまった。
部屋の中に王妃の姿が無かったからだ。
王妃どころか侍女もいない。
(・・・・・・何故いないんだ?)
「おい、王妃はどこにいる?」
私は不思議に思いながらも私を追いかけてきた侍従に尋ねた。
すると、侍従は冷めた目で私を見て言った。
「何を言っているのですか、陛下。
―陛下が廃妃にしたのではありませんか」
「・・・・・・・・・え」
一瞬頭が真っ白になった。
そこで私は王妃と体が入れ替わる前の記憶を思い出した。
『私の子を身籠ったレアに毒を盛り、王である私の子を殺害しようとしたという罪をでっち上げるんだ』
(・・・!)
たしかに私は王妃の罪を捏造して廃妃にしようとした。今考えると何て恐ろしいことをしようとしていたのだろうと少し前の自分の考えにゾッとした。
(だけど待て・・・私が侍従に命じたのはその証拠を捏造するということだけだ)
私はそれを命じただけで廃妃にしろとは一言も言っていない。では何故彼女は廃されたのか。
(まさか・・・王妃自ら自分を廃妃にすることを選んだのか?)
レアは王妃を敵視していたが、彼女に王妃を追い出せるほどの権力は無い。王妃を廃することが出来るのはそれより上の立場である国王だけだ。つまり、私と体が入れ替わっていた王妃本人以外はありえない。
(嘘だろう・・・?そんな・・・!)
私はそのことに大きなショックを受けながらも侍従に尋ねた。
「・・・おい、王妃はどこに行ったんだ?」
もしかしたらまだ間に合うかもしれない。そんな一抹の希望を抱いて尋ねた。
しかし現実はどこまでも残酷だった。
「とっくに王宮を出て行かれました」
「出て行ったのか・・・」
どうやら王妃はもう王宮を出て行ったようだった。実家である公爵家にはおそらく戻っていないだろう。彼女は家族と折り合いが悪かったから。それでは探しようがない。
項垂れる私に侍従は冷たい声でハッキリと告げた。
「―それと、今日限りで辞めさせてもらいます」
「・・・」
「あなたのような愚王に従い続けるのはもうこりごりです。これからは新しい王妃であるレア様とお幸せに」
「新しい王妃・・・?」
私は侍従のその言葉の意味が分からなかった。
ただの聞き間違いだろうかと思った。
しかし、この後すぐにそれを理解することとなる。
「陛下~!」
「レ、レア・・・」
廊下の奥からレアが走ってきたのだ。
いつもなら彼女に会えたことが嬉しくて頬を緩ませているところだが、今は嫌悪感しかない。
(く、来るな!)
私は駆け寄ってくるレアに拒絶反応を示した。
もうレアのことは愛せない。それだけは私の中でハッキリしていたからだ。
しかしレアは満面の笑みでこちらに近付いて来る。
「陛下、本当にレアを王妃にしてくださったんですね!レア嬉しいです!」
「・・・・・・・は?」
私は、レアの言っていることの意味が分からなかった。
(そういえば、さっき侍従もそんなことを言っていたような気が・・・)
しばらく声も出せなくなっていた私に、衝撃の事実が突き付けられた。
「陛下が、昨日の会議でレアを王妃にすることを貴族たちの前で宣言してくれたって聞いたんです!」
「・・・・・・」
(お、おい、嘘だろう・・・)
私はレアのその言葉に卒倒した。
「へ、陛下!?」
そのままドサリと後ろに倒れ込んだ。
それからすぐに目の前が真っ暗になる感覚が訪れた。
それがまるで、私のこの先の人生を表しているようで複雑な気持ちになった。
(・・・・・・因果応報とは、このことを言うのかもしれないな)
薄れゆく意識の中、レアが心配そうに倒れた私に駆け寄ってくるのが視界に入った。
避けようとも、体は動かない。もういっそ、このまま二度と目覚めることのない深い眠りについてしまいたかった。
(これは悪い夢だ・・・そうだ、そうにちがいない・・・)
そんなことあるはずがないと本当は分かっていながらも、私は現実から目を背けるかのようにそのまま瞳を閉じた。
――――――――――――――
次回、王妃視点です。
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