16 / 17
番外編
ラウル・ヘンドリック①
しおりを挟む
ラウル・ヘンドリック
王国の筆頭公爵家のヘンドリック公爵家の嫡男であり、文武両道。
おまけに顔も良く、性格もいい。
同じ筆頭公爵家の令嬢を妻に迎え、幸せになるはずだった。
それなのに、どうしてこうなってしまったのだろうか。
ラウルは今ヘンドリック公爵領の邸宅にいた。
もう何日も外へ出ていない。
「リリス・・・。」
リリスとは彼の元婚約者の名前である。
オーギュスト公爵家の令嬢で、美しく聡明な人だった。
ラウルとリリスは政略結婚ではあったが彼は彼女を愛していたし彼女も彼を心から愛していた。
ラウルは初めて彼女と出会った日のことを思い出した。
目の前で美しく微笑むリリスに一目惚れしたのだ。
高位貴族なのに傲慢なところもなく、使用人たちにも優しく接する女の子だった。
それからは彼女を大切にした。
定期的にお茶をしたり、誕生日には必ずプレゼントを贈った。
それなのに・・・
どうしてこうなったのだろうか。
いつからリリスを疎ましく思い始めたのかわからない。
シルビアに初めて会った日だっただろうか。
血筋も容姿も教養も、全てにおいてリリスに劣る彼女に何故だか心惹かれたのを覚えている。
それからはシルビアしか見えなくなった。
シルビアを目の敵にするリリスが許せなくてきつく当たったりもした。
舞踏会のエスコートも最低限しかしなかったし、誕生日のプレゼントも贈らなくなった。
そして、ある日シルビアが泣きながらリリスにドレスを汚されたと訴えてきたのだ。
シルビアのドレスにはジュースがかけられていた。
その時には激しい怒りを覚えた。
リリスに婚約破棄を言い渡し、シルビアと婚約を結び直すことを決意した。
公爵家に帰って父と母にそれを伝えるとこっぴどく叱られたが数日後シルビアに会わせると「可愛らしい令嬢だ」とすぐに婚約を認めてくれた。
そして公爵家の人間全員でシルビアを虐げたリリスの悪口を言ったりもした。
だけど今考えればすぐに分かる。
リリスがそのような愚かなことをするはずがない。
嫌がらせをしていたのはリリスではなく、シルビアの方だったのだと。
むしろリリスが本当にシルビアに嫌がらせをしていたとしてもそれは仕方ないことなのではないか。
突然家にやってきた少女に家族を全員奪われたのだ。
彼女の絶望はどれほどのものだっただろうか。
いつからか彼女は笑わなくなった。
公爵邸で虐げられ、婚約者も彼女にきつく当たった。
シルビアはもちろん許せない。
だがそれと同じくらい自分も許せない。
ラウルは今完全に領地に引きこもっている。
(・・・もう誰にも会いたくない。)
そう思っていたその時―
コンコン
部屋の扉がノックされた。
開いた扉から顔をのぞかせたのは―
「・・・兄上。」
弟のグレイルだった。
王国の筆頭公爵家のヘンドリック公爵家の嫡男であり、文武両道。
おまけに顔も良く、性格もいい。
同じ筆頭公爵家の令嬢を妻に迎え、幸せになるはずだった。
それなのに、どうしてこうなってしまったのだろうか。
ラウルは今ヘンドリック公爵領の邸宅にいた。
もう何日も外へ出ていない。
「リリス・・・。」
リリスとは彼の元婚約者の名前である。
オーギュスト公爵家の令嬢で、美しく聡明な人だった。
ラウルとリリスは政略結婚ではあったが彼は彼女を愛していたし彼女も彼を心から愛していた。
ラウルは初めて彼女と出会った日のことを思い出した。
目の前で美しく微笑むリリスに一目惚れしたのだ。
高位貴族なのに傲慢なところもなく、使用人たちにも優しく接する女の子だった。
それからは彼女を大切にした。
定期的にお茶をしたり、誕生日には必ずプレゼントを贈った。
それなのに・・・
どうしてこうなったのだろうか。
いつからリリスを疎ましく思い始めたのかわからない。
シルビアに初めて会った日だっただろうか。
血筋も容姿も教養も、全てにおいてリリスに劣る彼女に何故だか心惹かれたのを覚えている。
それからはシルビアしか見えなくなった。
シルビアを目の敵にするリリスが許せなくてきつく当たったりもした。
舞踏会のエスコートも最低限しかしなかったし、誕生日のプレゼントも贈らなくなった。
そして、ある日シルビアが泣きながらリリスにドレスを汚されたと訴えてきたのだ。
シルビアのドレスにはジュースがかけられていた。
その時には激しい怒りを覚えた。
リリスに婚約破棄を言い渡し、シルビアと婚約を結び直すことを決意した。
公爵家に帰って父と母にそれを伝えるとこっぴどく叱られたが数日後シルビアに会わせると「可愛らしい令嬢だ」とすぐに婚約を認めてくれた。
そして公爵家の人間全員でシルビアを虐げたリリスの悪口を言ったりもした。
だけど今考えればすぐに分かる。
リリスがそのような愚かなことをするはずがない。
嫌がらせをしていたのはリリスではなく、シルビアの方だったのだと。
むしろリリスが本当にシルビアに嫌がらせをしていたとしてもそれは仕方ないことなのではないか。
突然家にやってきた少女に家族を全員奪われたのだ。
彼女の絶望はどれほどのものだっただろうか。
いつからか彼女は笑わなくなった。
公爵邸で虐げられ、婚約者も彼女にきつく当たった。
シルビアはもちろん許せない。
だがそれと同じくらい自分も許せない。
ラウルは今完全に領地に引きこもっている。
(・・・もう誰にも会いたくない。)
そう思っていたその時―
コンコン
部屋の扉がノックされた。
開いた扉から顔をのぞかせたのは―
「・・・兄上。」
弟のグレイルだった。
640
あなたにおすすめの小説
「そんなの聞いてない!」と元婚約者はゴネています。
音爽(ネソウ)
恋愛
「レイルア、許してくれ!俺は愛のある結婚をしたいんだ!父の……陛下にも許可は頂いている」
「はぁ」
婚約者のアシジオは流行りの恋愛歌劇に憧れて、この良縁を蹴った。
本当の身分を知らないで……。
無表情な奴と結婚したくない?大丈夫ですよ、貴方の前だけですから
榎夜
恋愛
「スカーレット!貴様のような感情のない女となんて結婚できるか!婚約破棄だ!」
......そう言われましても、貴方が私をこうしたのでしょう?
まぁ、別に構いませんわ。
これからは好きにしてもいいですよね。
甘やかされすぎた妹には興味ないそうです
もるだ
恋愛
義理の妹スザンネは甘やかされて育ったせいで自分の思い通りにするためなら手段を選ばない。スザンネの婚約者を招いた食事会で、アーリアが大事にしている形見のネックレスをつけているスザンネを見つけた。我慢ならなくて問い詰めるもスザンネは知らない振りをするだけ。だが、婚約者は何か知っているようで──。
義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです
珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。
そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた
。
格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう
柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」
最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。
……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。
分かりました。
ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。
完結 穀潰しと言われたので家を出ます
音爽(ネソウ)
恋愛
ファーレン子爵家は姉が必死で守って来た。だが父親が他界すると家から追い出された。
「お姉様は出て行って!この穀潰し!私にはわかっているのよ遺産をいいように使おうだなんて」
遺産などほとんど残っていないのにそのような事を言う。
こうして腹黒な妹は母を騙して家を乗っ取ったのだ。
その後、収入のない妹夫婦は母の財を喰い物にするばかりで……
本当に妹のことを愛しているなら、落ちぶれた彼女に寄り添うべきなのではありませんか?
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアレシアは、婿を迎える立場であった。
しかしある日突然、彼女は婚約者から婚約破棄を告げられる。彼はアレシアの妹と関係を持っており、そちらと婚約しようとしていたのだ。
そのことについて妹を問い詰めると、彼女は伝えてきた。アレシアのことをずっと疎んでおり、婚約者も伯爵家も手に入れようとしていることを。
このまま自分が伯爵家を手に入れる。彼女はそう言いながら、アレシアのことを嘲笑っていた。
しかしながら、彼女達の父親はそれを許さなかった。
妹には伯爵家を背負う資質がないとして、断固として認めなかったのである。
それに反発した妹は、伯爵家から追放されることにになった。
それから間もなくして、元婚約者がアレシアを訪ねてきた。
彼は追放されて落ちぶれた妹のことを心配しており、支援して欲しいと申し出てきたのだ。
だが、アレシアは知っていた。彼も家で立場がなくなり、追い詰められているということを。
そもそも彼は妹にコンタクトすら取っていない。そのことに呆れながら、アレシアは彼を追い返すのであった。
義妹が聖女を引き継ぎましたが無理だと思います
成行任世
恋愛
稀少な聖属性を持つ義妹が聖女の役も婚約者も引き継ぐ(奪う)というので聖女の祈りを義妹に託したら王都が壊滅の危機だそうですが、私はもう聖女ではないので知りません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる