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4-2.遊び場を用意しよう
164.勇者一行の挑戦⑥
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闇の中の様子は俺からも見えない。
だから想像するしかないのだが──
『戯れを食らえにゃー! ……アイテムの力はちょっとしか削げないにゃ』
『ボクたちにまかせて~』
『けるぞ~』
『ダンドンダ~ン』
『ミーシャも攻撃するにゃ。バリバリッ』
音だけでも結構状況を理解できるものだな。
ミーシャのスキルはフライランチャーの効果を少し減少させた──つまり、飛ぶ力が弱まったということ。
その隙を突いて、影兎たちが歩夢を蹴りまくり、さらにミーシャが爪で引っ掻く攻撃をしてるようだ。
なかなかひどい袋叩きな気がするけど、歩夢は対処できてるのか?
そもそもバブルスーツに包まれてるから、蹴り技とか引っ掻く攻撃は効いてない可能性もあるよなぁ。
『にゃっ!? このまん丸、跳ね返ってくるにゃ!』
『ふあ~、はじきかえされちゃった~』
『ゲシゲシしてもきいてるきがしないよ~』
案の定、ミーシャや影兎たちが驚いたり嘆いたりする声が聞こえてきた。
バブルスーツの防御力を突破するのは、このダンジョン自慢の魔物たちでも難しかったようだ。
見た目は完全にネタアイテムのくせに! なんか普通に対処されるより悔しい。
『こうなったら~』
『みんなでちからをあわせよ~』
『いくぞ~』
『『『──ダークバーン!』』』
『ミーシャも一撃は与えたいにゃ! ──幻牙!』
闇色の球体がぐわっと歪んだように見えた。
何が起きたのか、なんて考える必要もない。影兎たちの協力技とミーシャのスキルが発動した余波が空間を揺らしたのだ。
「ダークバーンって、確かイサムに使ったスキルだよな?」
『そうだねー。数体の影兎たちが一斉に使うことで、相手を闇の中に飲み込んで体力を削るスキルだよー』
俺が頬を引き攣らせながら尋ねると、リルが朗らかな感じで答えてくれた。うん、ありがとな……説明を聞いて、さらに引いたけどな!
「ミーシャが使ったスキルは?」
モニターに映る闇の球体を眺めながら質問を続ける。
ドロンとリーエンはずっと[無事なら答えてくれ、アレックス!]とか[魔法が使えれば……っ]とか言いながら焦りまくってるけど、打つ手なしって感じだ。
俺も、闇の中がどうなってるかわからないんだよなぁ。
ミーシャや影兎たちの声が聞こえなくなっちゃったし。……まさか、歩夢に反撃されて殺られてるなんてことはないよな?
念の為、ミーシャたちの状態をタブレットで確認してみたけど、ちょっと体力が削れてるだけで、死に戻る感じではなさそうだ。
今度は、あの闇の中での攻防でミーシャたちにダメージを負わせた歩夢の勇者能力の凄まじさに慄いちゃったけど。
ここ、ヤバいヤツらしかいねぇよ……。
『えっとねぇ……幻牙は僕が伝授した技なんだよー』
「……え?」
モニターを眺めてぼんやりしていた俺に、予想外な答えがもたらされた。
リルがミーシャに伝授した技? どういうこと?
『ミーシャがマスターの護衛につく前に、僕が訓練相手になったでしょ?』
「あー、そうだったな」
俺の護衛にするならもっと強くないと、みたいな感じでリルがミーシャに特訓を課したんだ。
ちょっとだけ『ずっとマスターの傍にいられるなんてずるいー!』なんて思いも込められていた気がするけど、それはさておき。
『その時に、狼系の子たちも一緒に訓練相手になってもらってたんだけど、ミーシャは結構噛みつかれて悔しがってたんだよね。だから、ミーシャも噛みついてみたらー? ってお手本を見せたら、ちゃんと覚えられたんだ!』
ニコニコと上機嫌な感じでリルが笑っている。
けど、スキルってそんな簡単に覚えられるもんなんだ? 初耳なんだけどー。
「……うん、まあ、リルたちってわりとなんでもありなところあるし……それはいいとして、結局、どんな技なんだ?」
『幻の牙で噛みつくんだよー。幻だけど、相手はちゃんと噛みつかれたダメージを受けるんだ』
「なるほど……?」
よくわかんないけど、リルの牙は猛獣らしい鋭さだし、すげぇ攻撃力がありそうな技だな。
そんなリルから技を伝授されたんだから、ミーシャが使った技もいい感じに攻撃力があるんだろ、きっと。うん。
──なんて考えながら遠くを見ていたら、モニターに映る闇の球体が収縮して消えていくのがわかってギョッとした。
え、何が起きたんだ!?
[……よ、っと]
[[アレックス!!]]
ボロボロになったバブルスーツを振り落としながら、アレックスが坂の最上部に指を掛けてぶら下がっていた。
アレックス自身も、少なからず傷を負っているようだ。とはいえ、死に戻りするほどではなく、かすり傷に近い。
「ミーシャと影兎たちの渾身の攻撃を受けてこの程度って……やっぱ勇者ってすげぇな……」
呆然と呟く俺のそばで、リルが『悔しいけど、これは認めるしかないなぁ』と呟く。
目がキラキラしているから、リルも勇者と戦いたいと思っているんだろう。強敵と戦いたくなるのは、魔物の本能かもな。
『あらまぁ。もふもふちゃんたちが撤退したのねぇ。ちょっと残念だわ』
サクが口を手で隠しながら独り言を呟く。
インクは『もふもふちゃんなんて、可愛く呼べるような生き物じゃないでしょ、あいつら……』とぼやいてるけど、それ影兎に聞かれたらどうなるかわかってんのか?
とりあえず俺は再度タブレットを確認して、ミーシャたちが死に戻っていないという情報を見てホッとした。単純に撤退しただけらしい。
そもそもこの施設は歩夢たちに装備を返すのも兼ねて楽しんでもらおうと思って作ったものだから、本気で全力を出して撃退する必要はないのだ。
その前提を、ミーシャたちは忘れていなかったようで、ほどほどのところで手を引いたのだろう。
[よいしょ、と]
歩夢が指の力で体を持ち上げ、ついに坂の上に到達した。
クリアしたかー。ここまでがんばってくれたから、素直に祝いたいな。
[アレックス! 大丈夫か!?]
[いったい何があったの!?]
下の方から叫ぶように尋ねるドロンとリーエンを見下ろし、歩夢はニコニコと輝くような笑みを浮かべながら手を振った。
[大丈夫だよ! 攻防が楽しくて、ちょっと長引いちゃっただけ。まあ、バブルスーツはゴミになっちゃったけど……]
ボロボロになって下に落ちているバブルスーツを見て、歩夢が少し残念そうな口調で呟いた。
確かに、元の世界のゲームから持ち込んだアイテムが失われちゃったのは、ちょっと可哀想だな。気に入ってたみたいだし。
「……よし。最終地点の宝箱にバブルスーツを入れてやろう」
別のアイテムを用意してあったけど、たぶん歩夢はこっちの方が嬉しいはず。
一応神級アイテムだけど、なぜかダンジョン能力で作れるようだったから、サクッと作製して宝箱にセットした。
すげぇ量のDPを消費したけど、歩夢たちがここに滞在してる間に増える量を考えたら全然問題ない。
[今から縄を垂らすから、二人はそれで登ってきてよ]
[意味わかんねぇトラップに無防備に立ち向かうのは怖すぎなんだが???]
にこやかに攻略を進めようとする歩夢に、ドロンが引き攣った顔を向けた。
リーエンは無言で肩を落としてる。
がんばれー、としか言えないな……。
だから想像するしかないのだが──
『戯れを食らえにゃー! ……アイテムの力はちょっとしか削げないにゃ』
『ボクたちにまかせて~』
『けるぞ~』
『ダンドンダ~ン』
『ミーシャも攻撃するにゃ。バリバリッ』
音だけでも結構状況を理解できるものだな。
ミーシャのスキルはフライランチャーの効果を少し減少させた──つまり、飛ぶ力が弱まったということ。
その隙を突いて、影兎たちが歩夢を蹴りまくり、さらにミーシャが爪で引っ掻く攻撃をしてるようだ。
なかなかひどい袋叩きな気がするけど、歩夢は対処できてるのか?
そもそもバブルスーツに包まれてるから、蹴り技とか引っ掻く攻撃は効いてない可能性もあるよなぁ。
『にゃっ!? このまん丸、跳ね返ってくるにゃ!』
『ふあ~、はじきかえされちゃった~』
『ゲシゲシしてもきいてるきがしないよ~』
案の定、ミーシャや影兎たちが驚いたり嘆いたりする声が聞こえてきた。
バブルスーツの防御力を突破するのは、このダンジョン自慢の魔物たちでも難しかったようだ。
見た目は完全にネタアイテムのくせに! なんか普通に対処されるより悔しい。
『こうなったら~』
『みんなでちからをあわせよ~』
『いくぞ~』
『『『──ダークバーン!』』』
『ミーシャも一撃は与えたいにゃ! ──幻牙!』
闇色の球体がぐわっと歪んだように見えた。
何が起きたのか、なんて考える必要もない。影兎たちの協力技とミーシャのスキルが発動した余波が空間を揺らしたのだ。
「ダークバーンって、確かイサムに使ったスキルだよな?」
『そうだねー。数体の影兎たちが一斉に使うことで、相手を闇の中に飲み込んで体力を削るスキルだよー』
俺が頬を引き攣らせながら尋ねると、リルが朗らかな感じで答えてくれた。うん、ありがとな……説明を聞いて、さらに引いたけどな!
「ミーシャが使ったスキルは?」
モニターに映る闇の球体を眺めながら質問を続ける。
ドロンとリーエンはずっと[無事なら答えてくれ、アレックス!]とか[魔法が使えれば……っ]とか言いながら焦りまくってるけど、打つ手なしって感じだ。
俺も、闇の中がどうなってるかわからないんだよなぁ。
ミーシャや影兎たちの声が聞こえなくなっちゃったし。……まさか、歩夢に反撃されて殺られてるなんてことはないよな?
念の為、ミーシャたちの状態をタブレットで確認してみたけど、ちょっと体力が削れてるだけで、死に戻る感じではなさそうだ。
今度は、あの闇の中での攻防でミーシャたちにダメージを負わせた歩夢の勇者能力の凄まじさに慄いちゃったけど。
ここ、ヤバいヤツらしかいねぇよ……。
『えっとねぇ……幻牙は僕が伝授した技なんだよー』
「……え?」
モニターを眺めてぼんやりしていた俺に、予想外な答えがもたらされた。
リルがミーシャに伝授した技? どういうこと?
『ミーシャがマスターの護衛につく前に、僕が訓練相手になったでしょ?』
「あー、そうだったな」
俺の護衛にするならもっと強くないと、みたいな感じでリルがミーシャに特訓を課したんだ。
ちょっとだけ『ずっとマスターの傍にいられるなんてずるいー!』なんて思いも込められていた気がするけど、それはさておき。
『その時に、狼系の子たちも一緒に訓練相手になってもらってたんだけど、ミーシャは結構噛みつかれて悔しがってたんだよね。だから、ミーシャも噛みついてみたらー? ってお手本を見せたら、ちゃんと覚えられたんだ!』
ニコニコと上機嫌な感じでリルが笑っている。
けど、スキルってそんな簡単に覚えられるもんなんだ? 初耳なんだけどー。
「……うん、まあ、リルたちってわりとなんでもありなところあるし……それはいいとして、結局、どんな技なんだ?」
『幻の牙で噛みつくんだよー。幻だけど、相手はちゃんと噛みつかれたダメージを受けるんだ』
「なるほど……?」
よくわかんないけど、リルの牙は猛獣らしい鋭さだし、すげぇ攻撃力がありそうな技だな。
そんなリルから技を伝授されたんだから、ミーシャが使った技もいい感じに攻撃力があるんだろ、きっと。うん。
──なんて考えながら遠くを見ていたら、モニターに映る闇の球体が収縮して消えていくのがわかってギョッとした。
え、何が起きたんだ!?
[……よ、っと]
[[アレックス!!]]
ボロボロになったバブルスーツを振り落としながら、アレックスが坂の最上部に指を掛けてぶら下がっていた。
アレックス自身も、少なからず傷を負っているようだ。とはいえ、死に戻りするほどではなく、かすり傷に近い。
「ミーシャと影兎たちの渾身の攻撃を受けてこの程度って……やっぱ勇者ってすげぇな……」
呆然と呟く俺のそばで、リルが『悔しいけど、これは認めるしかないなぁ』と呟く。
目がキラキラしているから、リルも勇者と戦いたいと思っているんだろう。強敵と戦いたくなるのは、魔物の本能かもな。
『あらまぁ。もふもふちゃんたちが撤退したのねぇ。ちょっと残念だわ』
サクが口を手で隠しながら独り言を呟く。
インクは『もふもふちゃんなんて、可愛く呼べるような生き物じゃないでしょ、あいつら……』とぼやいてるけど、それ影兎に聞かれたらどうなるかわかってんのか?
とりあえず俺は再度タブレットを確認して、ミーシャたちが死に戻っていないという情報を見てホッとした。単純に撤退しただけらしい。
そもそもこの施設は歩夢たちに装備を返すのも兼ねて楽しんでもらおうと思って作ったものだから、本気で全力を出して撃退する必要はないのだ。
その前提を、ミーシャたちは忘れていなかったようで、ほどほどのところで手を引いたのだろう。
[よいしょ、と]
歩夢が指の力で体を持ち上げ、ついに坂の上に到達した。
クリアしたかー。ここまでがんばってくれたから、素直に祝いたいな。
[アレックス! 大丈夫か!?]
[いったい何があったの!?]
下の方から叫ぶように尋ねるドロンとリーエンを見下ろし、歩夢はニコニコと輝くような笑みを浮かべながら手を振った。
[大丈夫だよ! 攻防が楽しくて、ちょっと長引いちゃっただけ。まあ、バブルスーツはゴミになっちゃったけど……]
ボロボロになって下に落ちているバブルスーツを見て、歩夢が少し残念そうな口調で呟いた。
確かに、元の世界のゲームから持ち込んだアイテムが失われちゃったのは、ちょっと可哀想だな。気に入ってたみたいだし。
「……よし。最終地点の宝箱にバブルスーツを入れてやろう」
別のアイテムを用意してあったけど、たぶん歩夢はこっちの方が嬉しいはず。
一応神級アイテムだけど、なぜかダンジョン能力で作れるようだったから、サクッと作製して宝箱にセットした。
すげぇ量のDPを消費したけど、歩夢たちがここに滞在してる間に増える量を考えたら全然問題ない。
[今から縄を垂らすから、二人はそれで登ってきてよ]
[意味わかんねぇトラップに無防備に立ち向かうのは怖すぎなんだが???]
にこやかに攻略を進めようとする歩夢に、ドロンが引き攣った顔を向けた。
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