ダンジョンマスターはフェンリルくんとのスローライフをご希望です

ゆるり

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4-2.遊び場を用意しよう

166.勇者一行の挑戦⑧

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 歩夢は回復薬を使って負傷をすべて治していた。
 でも、ドロンとリーエンに施された落書きは、回復薬を使ってもどうしようもない。

[もうやだ……帰りたい……]
[リーエン、知ってるか……このダンジョン、死に戻っても、汚れは帳消しにならないらしいぜ……]
[は……?]

 ぽかんと口を開けてるリーエンを見ながら、俺は「そんな条件もあったなー」と思い出した。
 確か、イサムは汚れまくった状態で死に戻りして、洗うのが大変だったはずだ。

 この二人も、死に戻りしたらたくさんの人に目撃される上に、落とす苦労はなくならないのだ。すげぇ可哀想。

「……よし。二人のために、インク落としを宝箱に入れておこう」

 ゴールまで辿り着けたら、自分たちの装備と落書きを消せるアイテムを手に入れられるから、二人ともがんばれよ!

『インクを落とせるアイテム?』

 リルが地面にめり込んでいるインクを爪先でつつきながら首を傾げる。
 そっちのインクじゃない。

『あら、マスターはリーエンとインクを恋愛関係にさせたいんですかぁ? 三角関係ですね、うふっ』
「待って、全然想定してなかった疑いをかけられてるよな!?」

 インクを落とす、をそういう方向で解釈されるなんて心外なんだけど!
 つーか、インクにリーエンはもったいなさすぎるだろ。出会った瞬間、インクが魔法で叩きのめされる光景しか想像できないぞ。

『勇者からの矢印はどこにも向かってないけど、三角関係って言うの?』
「純粋な眼差しでリーエンに突き刺さるコメントをするのはやめてさしあげろ……」

 リルに弱々しくツッコミを入れる。
 俺以外に話を正してくれる人はいないのですか? ……操人形マリオネ、カムバーック!

 想像の中の操人形マリオネが微笑みながらサムズアップして『マスター、がんばえー』と緩い声援を送ってくる。
 なんかムカつくから帰ってこなくていいや……。

 俺が黄昏れていたら、この場の気配が増えた。

『マスター、ただいまにゃー』
『よばれてないけどとびでる、うさうさだよ~』
『ぴょ~ん』

 ミーシャと影兎シャドウラビたちが影から飛び出してくる。
 一気に賑やかになったな。

「おかえり。みんな、いい仕事をしたな。カッコよかったぞ!」

 俺は可愛いもふもふ全肯定主義。もふもふは至上なのだ。
 つまり、ドロンたちがどれほどバカバカしい状況に疲れ果てていようと、俺はミーシャたちを褒め称える。

『ありがとにゃー。勇者にはあまり効果はなかったけどにゃー……』

 残念そうに呟くミーシャの頭を撫でる。
 ふわっとした毛が、いつもよりくしゃくしゃになってた。普段は身だしなみにこだわり、毛づくろいを怠らないミーシャらしくない。
 でも、それがミーシャが精一杯がんばった証に思えて愛おしい。

「あいつが反則的に強いだけだし、楽しんでたみたいだからいいんだよ。がんばったな、ミーシャ」
『にゃー、ゴロゴロゴロ……』

 少しへにゃっとなっていた耳がいつも通りに戻り、心地よさそうに喉を鳴らすミーシャは可愛さ満点! 最高に愛しいもふもふだぞー。

『マスター、ボクたちもがんばったよ~?』
『ほめて~』
『なでて~』
『マスターにも、らくがきする~?』
「落書きはやめて」

 思わず真顔で答えた。
 褒めてほしがってる影兎シャドウラビは可愛かったのに! なんで俺に落書きしようとするかな! さては、ハマっちゃったな?

 とりあえず、落書きへの意欲を忘れさせるために、影兎シャドウラビたちを撫で回した。
 くすぐったそうにしながらも嬉しそうな姿を見たら心が潤う。

「もふもふ最高……!」
『インク、ねてるの~?』
『おふと~ん』
『ぐふっ!?』

 俺がもふもふに酔いしれている間に、インクが影兎シャドウラビの群れに襲われていた。体の上でぴょんぴょんと跳ねる影兎シャドウラビたちの動きに呻いてる。
 影兎シャドウラビがいてもいなくても、インクに平穏は訪れないんだな。

『マスター、勇者たちが二階に着きましたよぉ』

 サクがインクの状態をスルーして、モニターを指し示す。
 ちょうど歩夢たちが二階の入口に辿り着いたところだった。

「お、すぐに立ち止まったな」

 ピタリと足を止めたところから少し進むと落とし穴が隠れている。三人はそのトラップをあっさりと察したようだ。
 その程度の能力があることは、これまでの攻略を見て想定に入れていたから驚くことじゃない。

[完全に、これトラップがあるよな]
[そうだね。たぶん落とし穴かな]
[ここ、広いわよね? そこで落とし穴? ……なんだか嫌な予感がするわ]

 真剣な顔で話し合うドロンと歩夢の後ろで、リーエンが眉を寄せている。
 たぶん、リーエンの予感は当たってると思うぞ。

[とりあえず、これを投げてみるぜ]

 そう言ってドロンが取り出したのは、こぶし大の石だった。
 それを前方に放る──その結果、巨大な穴が出現した。

[──デカ過ぎじゃねっ!?]

 石を投げた体勢のままドロンが固まり、しばらくして復活したかと思うと叫んだ。
 うん、その気持ちは俺もわかるよ。用意した後、ヤベェ大きさだなって思ったもん。

[へぇ、すごいね]
[待って、これを魔法なしで攻略するの……? ──あら、魔法を使えるわ!]

 絶望の表情を浮かべたリーエンがものは試しにと魔法を使い、効果が発現したことで一気に顔を喜色で染めた。

 よかったね、久しぶりに魔法使いとして活躍できるよ。
 精霊魔法は制限してるから、落とし穴の先の迷路をルート検索するのはできないけどな。あしからずご了承ください。

[ここは魔法を使える空間なのか。それなら楽勝だね]
[楽勝か?]
[さすがにそこまでは言えないけれど……]

 にこやかに笑う歩夢に、ドロンとリーエンは苦笑する。
 ……その二人の顔が落書きされたままってことに、俺は未だに笑っちゃうんだけど。よく普通に話せるなぁ。

[最初は俺が行くよ]
[頼んだぜ、アレックス]

 手を上げて宣言したアレックスに、即座にドロンが頷いた。リーエンも[がんばってね。私もフォローできるように準備しておくわ]と声援を送る。

 俺が用意したここは、そんな簡単に進めるものじゃないぞー。
 そう思いながらモニターを眺めていると、歩夢が一歩前に進んだのが見えた。途端にラッパの音が響く。

[は?]
[なによ……?]

 不審そうに顔を顰めるドロンとリーエンをよそに、歩夢は何かを期待した表情でキョロキョロと周囲を見回した。
 その期待に応えましょう!

 ──バサッ!
 歩夢の前に垂れ幕が現れる。そこには文字が書かれていた。

[へぇ。このパターンかー]
[……うっそだろ]
[もうやめて……]

 ドロンとリーエンがしゃがみ込んで絶望をあらわにする。
 歩夢は一人楽しそうにしながら文字を読んだ。

[『制限:魔法不可』……シンプルだけど、乗り越えがいがある障害だね]

 この空間は最大五つの制限トラップがかけられる場所。
 歩夢が最初に引き当てたのは、魔法を使えなくなる制限だった。

『……つまらないのが出たねー』
『制限トラップ、もっとがんばれにゃ。マスターのユーモアセンスを引き継ぐんじゃないにゃ』
「おい。それ、さりげなく俺をディスってないか?」

 ミーシャにツッコミを入れたら、『てへぺろ、にゃー』と可愛いポーズをされた。
 ……許す! もふもふは至上だし、飼い主が猫様の下僕になるのは常識だからな!

『マスターがまたミーシャに激甘……』
「なんか言ったか、インク」
『ぐふっ……ナンデモアリマセンヨ』

 ミーシャの後ろ足で蹴られたインクが、再び地面に沈んだ。
 懲りないやつだな……。

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