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5-1.平穏のためにチクチクと
194.いらっしゃーい
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一夜明けて、そろそろ訓練所をお披露目する時間だ。
冒険者ギルド宛のお便りは、冒険者ギルドのダン街支部の人が確認に来てくれたから、ちゃんと伝わってるはず。
ギルド上層部で会議する時間はなかったかもしれないけど。
「スリー、ツー、ワン──」
1階の入り口近くをモニターに映し出しカウントダウンする。
リルたちがワクワクとした顔でモニターを見つめた。
「ゼロ!」
洞窟の壁の一部が水面の波紋のように揺れ、瞬く間に木製の扉に変わる。
この変化を見るのが結構楽しい。ファンタジーだなぁ、って感じがするから。
『できた? もう入れる?』
リルが尻尾を振りながら確認する。
冒険者たちがどういう反応を見せるか楽しみにしてるんだろうな。
「ああ。次に冒険者が来たら、すぐに気づいてくれると思うけど……」
俺が答えた直後に、ダンジョン入り口に冒険者の姿が見えた。
[あれが連絡のあった訓練所か……?]
[そうみたいね。まずは周囲を調べましょう]
男女の二人組パーティだ。初めて見たかも。
二人はすぐに訓練所へ続く扉に気づいた様子で近づいてきた。
男は剣士のようで腰に剣を帯び、油断なく柄頭に手を乗せながら、周囲に目を走らせている。
女は魔法使いのようで、黒のローブを纏い、呪文を唱えながら杖を振った。
何をするつもりだ?
俺たちが興味津々で眺めていると──
「おっ、なんだあの光?」
『ピッカピカだー』
『……探索系の魔法じゃないかにゃ?』
魔法使いが杖から光を放ち、訓練所入り口の扉を照らしたことへ、各々が反応する。
リルは目を輝かせて見たままを表現し、ミーシャはちゃんと考察をしてくれた。
やっぱりこういう場面だとミーシャの方が頼もしい。
「探索系かぁ……何がわかるんだろ?」
『にゃー……なんだろうにゃ?』
ミーシャもわからないらしい。そりゃ、人が使う魔法を魔物が全て把握してるなんてことありえないもんな。
[周囲にトラップはないわね。ギルド宛の通知そのまま、冒険者に害のあるものではないんじゃない?]
お、トラップを探してたわけか。
訓練用の場所入り口にトラップを置くほど、俺は性格悪くないぞ?
苦笑しちゃうけど、3B階のトラップ三昧のことを考えると、警戒されるのもわからなくはない。
[けど、散々油断させておいて、ダンジョンがいきなり牙を剥く、なんてこともあり得るだろ? 少なくとも、疑い深い上層部の中ではそういうことになってる]
剣士が肩をすくめながら答えた。
なるほど? 俺たち、冒険者ギルドから完全に信用されてるわけじゃないのかー。
まあ、そうだよな。会ったこともないわけだし。本来敵対することが多い立場だし。
彼らの考えを当然と受け止めた俺と違い、リルたちはちょっとムッとした様子だ。
『マスターは人間にめちゃくちゃ甘いのに!』
『マスターを疑うなんて、ギルドの連中は罰当たりにゃー!』
プンプンしているリルとミーシャを見て、俺はニコニコした。
そう言ってもらえるだけで、俺は嬉しいぞー。
[私は大丈夫だと思うんだけど……まあ、いいわ。依頼を受けた以上、ちゃんと調査するわよ]
[依頼料分の仕事はしねぇとな]
二人はやれやれと言いたげに肩をすくめてから、訓練所の扉に手を伸ばした。
すると、自動ドアのように触れることなく扉が開かれる。
一瞬固まった二人が[……ここ、ダンジョンだしな][これくらいのことは普通よね]と呟きながら、やっと中に入った。
訓練所に初めてのお客様、ご来場でーす。
調査目的だからこそ、隅々まで楽しんでくれる予感がする。どんな反応をしてくれるかな?
つーか、そろそろこの二人の名前を知りたいな。
[ねぇ、マルト。こんな懇切丁寧な説明をしてくれるダンジョン、見たことある?]
魔法使いが訓練所に置いてある看板を見て、困惑した表情で呟いた。
剣士の男の名前はマルトらしい。俺の希望を察したように教えてくれてありがとう!
[……ねぇな。つーか、ダンジョンマスターから明確な意思表示がされること自体珍しいし。不特定多数の冒険者向けに説明があるのは、滅多にねぇんじゃね? ミリエルはダンジョンにあんま潜らねぇんだっけ?]
お、魔法使いの情報もゲット。
名前はミリエルかー。
[ほとんどないわね。私は国からの依頼を受けて、人里にとって危険な魔物の討伐に行くことが多いから]
[さっすが国から信頼されてるA級魔法使い様だな!]
[貴方だってA級じゃない]
ふふっと笑うミリエルとマルトの会話に、俺は目を見開いた。
「A級? マジで?」
『強い冒険者ってことかー』
『A級の無駄遣いじゃないかにゃ?』
ふんふん、と頷くリルの傍で、俺とミーシャは顔を見合わせる。
訓練所って、基本的に初心者向けの施設だぞ? A級の冒険者にとっては、肩透かしもいいところだろ。
さらに聞き捨てならないのは、ミリエルが【国から】信頼されて依頼をされることが多い冒険者だということ。
そんな冒険者がすぐに依頼を受けて来れるって……もしかして、このダンジョン、国からも目をつけられてる?
ミリエルがここに来たのって、元々国から依頼を受けてたからなんじゃないか?
うーん……国の動向も探った方がいいかね?
とりあえず、アリーに頼んで、マーレ町長周辺を偵察してみるかぁ。
冒険者ギルド宛のお便りは、冒険者ギルドのダン街支部の人が確認に来てくれたから、ちゃんと伝わってるはず。
ギルド上層部で会議する時間はなかったかもしれないけど。
「スリー、ツー、ワン──」
1階の入り口近くをモニターに映し出しカウントダウンする。
リルたちがワクワクとした顔でモニターを見つめた。
「ゼロ!」
洞窟の壁の一部が水面の波紋のように揺れ、瞬く間に木製の扉に変わる。
この変化を見るのが結構楽しい。ファンタジーだなぁ、って感じがするから。
『できた? もう入れる?』
リルが尻尾を振りながら確認する。
冒険者たちがどういう反応を見せるか楽しみにしてるんだろうな。
「ああ。次に冒険者が来たら、すぐに気づいてくれると思うけど……」
俺が答えた直後に、ダンジョン入り口に冒険者の姿が見えた。
[あれが連絡のあった訓練所か……?]
[そうみたいね。まずは周囲を調べましょう]
男女の二人組パーティだ。初めて見たかも。
二人はすぐに訓練所へ続く扉に気づいた様子で近づいてきた。
男は剣士のようで腰に剣を帯び、油断なく柄頭に手を乗せながら、周囲に目を走らせている。
女は魔法使いのようで、黒のローブを纏い、呪文を唱えながら杖を振った。
何をするつもりだ?
俺たちが興味津々で眺めていると──
「おっ、なんだあの光?」
『ピッカピカだー』
『……探索系の魔法じゃないかにゃ?』
魔法使いが杖から光を放ち、訓練所入り口の扉を照らしたことへ、各々が反応する。
リルは目を輝かせて見たままを表現し、ミーシャはちゃんと考察をしてくれた。
やっぱりこういう場面だとミーシャの方が頼もしい。
「探索系かぁ……何がわかるんだろ?」
『にゃー……なんだろうにゃ?』
ミーシャもわからないらしい。そりゃ、人が使う魔法を魔物が全て把握してるなんてことありえないもんな。
[周囲にトラップはないわね。ギルド宛の通知そのまま、冒険者に害のあるものではないんじゃない?]
お、トラップを探してたわけか。
訓練用の場所入り口にトラップを置くほど、俺は性格悪くないぞ?
苦笑しちゃうけど、3B階のトラップ三昧のことを考えると、警戒されるのもわからなくはない。
[けど、散々油断させておいて、ダンジョンがいきなり牙を剥く、なんてこともあり得るだろ? 少なくとも、疑い深い上層部の中ではそういうことになってる]
剣士が肩をすくめながら答えた。
なるほど? 俺たち、冒険者ギルドから完全に信用されてるわけじゃないのかー。
まあ、そうだよな。会ったこともないわけだし。本来敵対することが多い立場だし。
彼らの考えを当然と受け止めた俺と違い、リルたちはちょっとムッとした様子だ。
『マスターは人間にめちゃくちゃ甘いのに!』
『マスターを疑うなんて、ギルドの連中は罰当たりにゃー!』
プンプンしているリルとミーシャを見て、俺はニコニコした。
そう言ってもらえるだけで、俺は嬉しいぞー。
[私は大丈夫だと思うんだけど……まあ、いいわ。依頼を受けた以上、ちゃんと調査するわよ]
[依頼料分の仕事はしねぇとな]
二人はやれやれと言いたげに肩をすくめてから、訓練所の扉に手を伸ばした。
すると、自動ドアのように触れることなく扉が開かれる。
一瞬固まった二人が[……ここ、ダンジョンだしな][これくらいのことは普通よね]と呟きながら、やっと中に入った。
訓練所に初めてのお客様、ご来場でーす。
調査目的だからこそ、隅々まで楽しんでくれる予感がする。どんな反応をしてくれるかな?
つーか、そろそろこの二人の名前を知りたいな。
[ねぇ、マルト。こんな懇切丁寧な説明をしてくれるダンジョン、見たことある?]
魔法使いが訓練所に置いてある看板を見て、困惑した表情で呟いた。
剣士の男の名前はマルトらしい。俺の希望を察したように教えてくれてありがとう!
[……ねぇな。つーか、ダンジョンマスターから明確な意思表示がされること自体珍しいし。不特定多数の冒険者向けに説明があるのは、滅多にねぇんじゃね? ミリエルはダンジョンにあんま潜らねぇんだっけ?]
お、魔法使いの情報もゲット。
名前はミリエルかー。
[ほとんどないわね。私は国からの依頼を受けて、人里にとって危険な魔物の討伐に行くことが多いから]
[さっすが国から信頼されてるA級魔法使い様だな!]
[貴方だってA級じゃない]
ふふっと笑うミリエルとマルトの会話に、俺は目を見開いた。
「A級? マジで?」
『強い冒険者ってことかー』
『A級の無駄遣いじゃないかにゃ?』
ふんふん、と頷くリルの傍で、俺とミーシャは顔を見合わせる。
訓練所って、基本的に初心者向けの施設だぞ? A級の冒険者にとっては、肩透かしもいいところだろ。
さらに聞き捨てならないのは、ミリエルが【国から】信頼されて依頼をされることが多い冒険者だということ。
そんな冒険者がすぐに依頼を受けて来れるって……もしかして、このダンジョン、国からも目をつけられてる?
ミリエルがここに来たのって、元々国から依頼を受けてたからなんじゃないか?
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