ダンジョンマスターはフェンリルくんとのスローライフをご希望です

ゆるり

文字の大きさ
20 / 202
1-2.もふもふダンジョンの作り方〈公開前2日目〉

20.可愛い護衛

しおりを挟む
 屋敷内は迷路になっていて、影兎シャドウラビの他にも、モルモットのような魔物闇鼠ヤームイ、フェレットのような魔物黒鼬ノワフェレなどがいるらしい。
 そして——

「ここにも、猫がいる、だと……!?」
『にゃーん』

 ゴロゴロと喉を鳴らして擦り寄ってきたのは、ラグドールのような気品のある猫系魔物の戯猫アモーシャだった。大きさは大型犬くらいあるけど、それも可愛い!

『マスター』
「いや、普通に可愛いだろ? リルとは別枠でだよ!」

 ジトッとした視線にそう返すと、渋々とした感じながら納得してもらえた。セーフ、だよな?

『にゃにゃ』
『ちゃんとおしゃべりしなさいねー』
『めんどくさいにゃー』

 戯猫アモーシャが呟き、撫でてと言うように体を寄せてくるので、遠慮なく撫でる。連れ帰っちゃダメか?

『その子、一番懐っこくて面倒くさがりな子なんですー』
「そうなんだ?」
『強い子ではありますから、マスターの護衛にはなりますよー? マスターを守ることならがんばってくれるでしょうしー』

 女夢魔サキュバスの言葉を聞いて、すぐさまリルに視線を向けた。ちょっと迷った顔をしてる気がする。

『んー、んー……マスターを守るのは大切だから、いいよ!』
「マジか! ありがとな、リル」

 思いがけずもらえた許可に、テンションが上がった。戯猫アモーシャを抱きしめると、それをリルが複雑な顔で見てくる。

『前に言ったことは忘れないでね?』
「もちろん。俺の相棒はリルだよ」
『……うん、それならいいや!』

 にぱー、とした感じでリルが言い、尻尾を揺らす。こうやってすぐに切り換えられるところ、結構好きだぞ。

『にゃにゃ? マスターを守るにゃ?』
『そうだよ! あとで特訓しようね』
『……にゃー。めんどくさいけど、マスターのためならしかたないにゃー』

 リルが戯猫アモーシャを強くしてくれるらしい。俺の護衛にするなら強くなくちゃ、という思いが透けて見えた。大切にされてるなーと感じると、俺も同じくらい愛情を持って接したいし守りたいという思いが強くなる。

『マスター。傍に置くなら名前を付けてあげたらどうかしら?』
「そうだな。んー、戯猫アモーシャだから——」

 アリーに言われて、戯猫アモーシャを見つめながら考える。
 戯猫アモーシャは関心なさそうな雰囲気を装いながらも、耳をピンと立てて俺の声に耳をそばだててる。ストレートじゃない感情表現が猫らしく感じる。リルとの違いが大きい。

「ミーシャはどうだ?」

 鳴き声と戯猫アモーシャという種族名から連想した名前を提案してみる。これはなかなか良いのでは?

『にゃ、にゃーしゃ』
「いや、ミーシャ」

 まさかミが発音できない!? 可愛すぎるぞ!

『にゃ、に、みゃ、み、みーしゃ』
「そう! ミーシャ。可愛いお嬢さんって雰囲気あるだろ?」
『そうにゃ? それならそれでいいにゃ』

 妥協した感じの言葉だけど、ご機嫌そうにキラキラしてる目も、リズムをとってる尻尾も、ミーシャは隠しきれてない。やっぱり可愛い子だ。

「よろしくな、ミーシャ」
『にゃー。マスターを守るにゃ』

 もふもふの胸を張るミーシャの頭を撫でる。

『ぼくらもマスターのとこいく~?』
『やくにたつよ~?』
『もふもふちゃんたちは、お仕事のお邪魔になってしまいそうだからダメですよー』
『うるさいからな……』

 近くを駆け回っていた影兎シャドウラビたちを追いかけ回しながら、女夢魔サキュバスが苦笑する。影兎シャドウラビに埋もりかけてる男夢魔インキュバスは、遠い目をしながら呟いて顔を蹴られていた。
 完全におもちゃ扱いされてないか?

『ミーシャが護衛に就くのは、特訓した後だよ』
「このまま連れ帰っても——」
『ダーメ』

 リルを見つめて訴えてみるけど、全然折れてくれなかった。俺の癒やしじゃなくて、護衛のためだもんな。リルの考えは理解できるし、ここは俺が折れるべきだろう。

「わかった。じゃあ、待ってるぞ」
『うん! ここの設定は終わったから、すぐにミーシャを育てるよー』
『にゃー。まぁ、がんばるにゃー』

 張り切ってるリルに対して、ミーシャはのんびりとした感じだ。これくらいの雰囲気の方が、案外相性が良いのかもしれない。

『マスターはこれからどうするのかしら?』
「うーん……操人形マリオネを回収して情報を聞いてから、各地にダンジョンゲートを用意しようかな」
『わたくしの偵察はいらない?』
「そうだな、一旦は。またなんかあったら頼むよ」
『わかったわ』

 アリーが頷き、ふわっと飛んでいく。
 この屋敷に住むので、環境を整えるつもりだろう。リルが『なんか協力する?』と聞いても『自分でできるから大丈夫よ』と答えてたから、問題はなさそうだ。

『ミーシャ、ワンワンたちと特訓するよー』
『犬まみれはちょっとイヤにゃ……にゃー!』

 座り込んだミーシャの首元を、リルが柔く噛んで運んでいく。サイズの差があるから、ミーシャが子猫のように見えて微笑ましい。
 犬と猫が戯れてる光景って、ほのぼのするよな。

『もふもふちゃんたちも行きますよー』
『こっちだよ~』
『おいかけてきて~』

 影兎シャドウラビの姿がパッと消える。それに対して「あらまぁ」と頬を押さえた女夢魔サキュバスが、屋敷の奥へと向かった。影兎シャドウラビがどこに行ったかは把握してるらしい。

 一気にもふもふがいなくなって、ちょっと寂しいぞ……。

 一人残っているのは男夢魔インキュバスだ。影兎シャドウラビに埋もれていた格好のまま、床に寝転んでる。
 怠惰だ。リルが『働かざるもの——』うんぬんと言っていた意味がちょっと理解できる。まぁ、侵入者がいない今、仕事という仕事はないんだけど。

 あんまり怠惰が過ぎるようなら、リルに頼んで着ぐるみの刑にしてもいいかな?

『急に働かないといけない気分になりました! 影兎シャドウラビたちを追いかけてきますね!』

 俺の思いを察したのか、機敏に起き上がった男夢魔インキュバス女夢魔サキュバスを追って去る。

 そんなにあの着ぐるみイヤなのか。……うん、普通に嫌だよな。

 なんとも言えない思いで見送ってから、パシッと頬を叩いて気合いを入れる。

 ダンジョン公開まであと一日と少し。このダンジョンを守るために、がんばろう!
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。

まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。 温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。 異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか? 魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。 平民なんですがもしかして私って聖女候補? 脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか? 常に何処かで大食いバトルが開催中! 登場人物ほぼ甘党! ファンタジー要素薄め!?かもしれない? 母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥ ◇◇◇◇ 現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。 しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい! 転生もふもふのスピンオフ! アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で… 母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される こちらもよろしくお願いします。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??

シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。 何とかお姉様を救わなくては! 日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする! 小説家になろうで日間総合1位を取れました~ 転載防止のためにこちらでも投稿します。

妹が嫁げば終わり、、、なんてことはありませんでした。

頭フェアリータイプ
ファンタジー
物語が終わってハッピーエンド、なんてことはない。その後も人生は続いていく。 結婚エピソード追加しました。

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

処理中です...