ダンジョンマスターはフェンリルくんとのスローライフをご希望です

ゆるり

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1-4.もふもふダンジョン公開!

40.にぎやかに安定を祝おう

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 二階層の宝箱にビールや清酒などの酒を追加してしばらく経った。
 評判が広がったのか、冒険者たちが嬉々としてやって来ては、酒を手に入れたり、死に戻りしたり、なかなか忙しそうだ。

 三階層にも挑戦してくれる冒険者が現れた。
 操人形マリオネ曰く、『魔物に殺られる前に熊蜂ベアビーの蜂蜜を手に入れられるか、チキンレースが人気みたいですよー』とのこと。

 熊蜂ベアビーの蜂蜜は、街で高級品とされているらしい。
 魔物にさえ殺られなければ、あるいは殺られたとしても死に戻りの際に入手した熊蜂ベアビーの蜂蜜を失わなければ、十分儲けのある遊びなんだって。

 蜂蜜のために死ぬ思いをするなんて、俺には理解できない感覚だ。
 でも、リルがちょっと楽しそうだからよしとする。


「ダンジョン運営が落ち着いてきたから、今日はみんなでパーティーだぞー」

 四階層もふトラ&ハニトラに集まった仲間に呼びかける。

 本日のダンジョンマスター業務はお休みだ。
 俺がダンジョン運営をがんばる目的は、リルやもふもふな仲間たちとスローライフをすることなので!

 まだダンジョン運営を始めたばかりとはいえ、たまにはほのぼのまったりする時間を過ごしたい。そして、あわよくばもふもふたちをもふもふしたい!

『何を作りますー?』

 サク――女夢魔サキュバスが『男夢魔インキュバスがインクなら、私はサクですねー』と言ったので、正式に名前にした――に聞かれて、にこりとテーブルを指す。

「今日はハンバーグとローストビーフ、ローストポークだよ。魚料理はアクアパッツァにしよう。全部下ごしらえは済んでるから、あとは焼いたり盛り付けるだけ」
『あら、お手軽ですねー』

 サクがササッと行動を始める。こういうところはすごく器用なんだよなぁ。

 ハンバーグを焼くのはサクに任せ、俺はアクアパッツァを仕上げる。魚好きなミーシャが齧りつくように見てくるからちょっとやりにくい。

『ぼくたち、やさいがいい~』
『フルーツがいい~』
「もちろん準備してるぞ」

 影兎シャドウラビたちに言われて、ロアンナの方を指す。
 今日は七階層からロアンナに出張してきてもらっているのだ。大量の野菜と果物と共に。

 七階層では、着々と狼族獣人たちが過ごす環境が整えられ、毎日畑や果樹園の世話をしてくれている。
 おかげで大量の収穫物があるのだ。狼族獣人たちと分け合っても、山となるほどに。

 影兎シャドウラビたちがロアンナの周りに集まり、ねだっているのを横目に作業に戻る。
 ロアンナは毎日影兎シャドウラビたちの相手をしてくれているらしいので、そろそろ対応に慣れてるだろうし、任せていいだろう。

「え、ちょ、ちょっと、お待ちください……!?」
『ぐふっ、俺に来られても、どうしようもな、い……っ』

 ロアンナの悲鳴のような声と、確実に殺られかけているインクの声が聞こえてきたけど、気にしない。
 大丈夫。影兎シャドウラビたちはロアンナには優しいから。

 そうそう。実は俺はロアンナと木偶ドールを使わずに話すようになった。
 毎回木偶ドールを使うの面倒くさくなっちゃってな……

 リルは心配そうにしてたから「必ずリルがいる時にだけロアンナと直接会うよ」と約束している。
 これでリルも『マスターに頼られた! 僕、がんばるよ!』とやる気を出してたから問題ない。

 実際、神狼フェンリルを敬う狼族獣人たちが、俺に危害を加える可能性はかなり低いし、大丈夫のはずだ。

「こっち、アクアパッツァできたぞー」
『私の方のハンバーグも焼けましたー』

 ちょうどいいタイミングで完成したようだ。
 ローストビーフとローストポークはDPで出したものだから、そのまま切るだけ。

 お行儀よく並ぶ魔物たちに、どれを食べるか聞きながら取り分けていく。みんな『ぜんぶ!』と答えるから、聞く意味はあまりなかったけど。

 全員に料理が行き渡ったところで、パチッと手を合わせる。

「では、いただきます!」
『いただきますー』

 何度か食事会を繰り返し、日本式の挨拶が定着した。
 ロアンナは今回が初参加なので、戸惑いながらも俺たちに合わせて挨拶する。

『おいしいにゃー』

 すぐさまアクアパッツァを食べたミーシャが嬉しそうな声を上げた。お気に召してもらえたようで何より。
 ご機嫌そうなミーシャの頭を撫でる。今日もふわっと滑らかな触り心地で最高だ。

『マスター、このお肉美味しいよー』

 ローストビーフ丸ごとをパクッと食べたリルが、尻尾をブンブンと揺らす。近くにいた影兎シャドウラビが風圧で飛ばされ、それを面白がって集団で遊び始めた。
 飛ばされては駆け戻ってくるって、不思議な遊びだな?

「やっぱ肉はいいよなー」
『この魚も美味しいけどね。外の魚なの?』
「いや、これはダンジョンの。さすがに大量に外の食料を仕入れるのは無理だったからなぁ」

 今のところ、外の食料を手に入れるなら操人形マリオネに頼むしかない。でも、明らかに一人じゃ食べ切れない量の食料を購入する冒険者なんて、不審に思われる。

 外の食料は欲しいし、どうにかしたいところだけど……今後の課題だな。

 たくさんのもふもふな魔物たちに囲まれて賑やかな食事を楽しむ。
 空からは温かな日差しが降り注ぎ、なんとも幸せな気分だ。

『そっかぁ。美味しいもの、もっと一緒に食べたいね』
「そうだな。みんなで楽しみたいな」

 顔を寄せてきたリルの鼻筋を撫でる。
 嬉しそうに目を細めるリルに、俺も微笑んだ。

 まだダンジョンは始まったばかり。
 みんなで力を合わせて、より良い場所にしていこう。

******
ダンジョン構造図
入り口
〈一:洞窟迷路〉
  ∥
〈二:洞窟迷路Hard〉
  ∥
〈三:蜂蜜の海〉
  ∥
〈四:もふトラ&ハニトラ〉
  ∥
〈五:リルの草原〉━〈ダンマス部屋〉
  ∥
〈六:エンド誕生の山〉
  ∥
〈七:ダンジョンゲート&農村〉

◯ダンジョンゲート
〈ピエモ〉(獣人の街近く)
〈ピエモ山奥〉
〈狼族獣人の街ロウ〉
〈プラーテ〉
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