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3-1.攻略者たちのいろいろ
90.遊んじゃおう
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そもそも俺が研究者たちのために何かをしてやる必要があるのだろうか?
俺がポツリとそんな疑問を呟くと、リルたちが顔を見合わせて首を傾げた。
『必要か否かで言ったら、否でしょうね』
インクが肩をすくめる。
リルは『うーん?』と呟いた後、口を開いた。
『でも、研究者はともかく、実力のある冒険者が護衛でたくさんついて来てるから、DP収入にはなってるんだよね?』
「ああ。しかも、彼らの仕事は研究者の護衛だから、無闇矢鱈に魔物を狩らないし、効率がいい収入源だな」
魔物が消費されれば、魔物召喚陣から生まれる魔物以外は、DPを使って再召喚する必要がある。
ダンジョン運営的には、実力のある冒険者があまり魔物を狩らず、ダンジョン内に滞在してくれるとありがたいのだ。
『どうせ暇なんだから、研究者で遊んでみるのもいいと思うにゃー』
ミーシャがにゃふふ、と笑いながら提案する。何を考えているのか、随分と楽しそうだ。
その様子を苦笑しながら眺めつつ、俺はその提案を吟味してみた。
研究者で遊ぶ、と言うとなんだか性格が悪い行いのように感じるけど、それが研究者にとっても利益になることなら、別に問題ないのでは?
「……うん、暇なのは事実だし、ひとまずミーシャの提案を受け入れるとして、遊ぶって具体的にどんな風にするんだ?」
『宗教をでっち上げるにゃー』
俺が先ほど考えたのと同じような答えが返ってきた。
やっぱそうなるよなー。
『神狼教ですか? 狼族獣人が喜びそうですね』
インクが口元を緩める。狼族獣人と言って想定してるのはロアンナじゃないか? マジで惚れてるの? ロアンナには全然相手にされてないと思うけど……。
『えー、僕? 僕を崇められたところでご利益なんてないよ?』
リルが困惑した様子で言う。まぁ、そうだよな。神様じゃないし。
でも、遺跡には神狼の意匠を施してあるんだから、神狼教にするのが一番自然な気がする。
あるいは、俺がさっき考えた〈もふもふ教〉か?
『宗教にするとなれば、どんなご利益があるのかが重要な気がしますねー』
サクがそう言い、『例えば――』と言葉を続けた。
『神狼教の信徒は狼系の魔物と戦わないし、狼系の魔物も信徒を襲わない、とかですかねー?』
「ダンジョンに来てる冒険者たちを神狼教に改宗させるつもりか?」
俺は思わず呆れ気味に呟いた。
八階層での死に戻り原因は、一番は影兎にやられることだけど、二番は狼系の魔物にやられて死に戻りすることだ。
しかも冒険者たちは、正体不明な不可視の敵扱いしている影兎と違い、狼系魔物たちを明確に強敵と見なしている。
そんな彼らなら、狼系魔物にやられるリスクを下げるために、これまでの宗教を捨てて神狼教に加入する可能性はなくもないだろう。
『ふふふ、それも面白いと思いますー』
微笑むサクを、インクが半眼で見据えた。
『いや、そのご利益はダンジョン外の魔物には適応させられないだろう? ダンジョン内限定ってなったら、不審に思われるんじゃないか?』
インクがそう言い、苦笑しながら肩をすくめた。サクが『あら、確かにそうねー』と少し残念そうに眉尻を下げる。
その後も、リルたちはいろいろと案を出してくれた。
俺はしばらくその話を聞き、ダンジョン内限定宗教という形で宗教をでっち上げることに決めた。
「宗教は神狼教じゃなくて〈もふもふ教〉にしよう」
『どうしてです?』
インクが不思議そうに首を傾げる。
俺の言葉を聞いて、リルは少しホッとした顔をしていた。狼族獣人に神のように崇められることにはもう慣れているようだけど、本気で神と認定されたくはなかったのだろう。
「神狼教にしてしまったら、このダンジョンに神狼がいるとバレるかもしれないだろ」
『あ……確かに。まだ秘密にしてるんでしたね』
納得した様子のインクを見ながら、俺は真面目に言葉を続けた。
「それと、俺にとって大切な子はリルだけじゃない。ミーシャも影兎も好きだ。まとめると、もふもふが好きってことになる。遺跡が俺の宗教観を示すものになるなら、やっぱりもふもふ教の方が適してるだろ」
『どんだけもふもふ推しなんです……?』
インクが困惑した様子で呟く。サクは『もふもふは可愛いですからねー』と微笑んだ。
影兎たちが『ボクたちかわいいんだって~!』『マスター、ボクたちのことすきなんだって~』と嬉しそうにはしゃいでいる。うん、可愛いぞー。
『ミーシャも神様にゃ?』
「うん、神レベルで可愛いからな」
『にゃふふ……マスターがそう言うなら、神様になるにゃー』
照れた様子で呟くミーシャに対抗するように、リルが心なしかキリッとした表情で口を開く。
『マスターが望むなら、もふもふ教の主神になってもいいよー!』
「おお、ありがとな。今のところの神狼推しの遺跡になってるから、リルが主神ってことにするのがよさそうだから助かるよ」
『助かる? ふふ、でしょー。僕、マスターの役に立つからね!』
胸を張るリルの頭を撫で、単純だけどそこが可愛い、と心の中で親バカなことを呟いた。
『ご利益はどうするんですー?』
「信徒は全員もふもふ系魔物から攻撃されないってご利益にしたら、さすがにダンジョン運営的にマズイから、一定時間攻撃されにくいっていう加護を授ける形にしようと思う」
サクが『加護ですかー?』と不思議そうにする。
詳しくは遺跡を改装しながら説明しよう。
俺がポツリとそんな疑問を呟くと、リルたちが顔を見合わせて首を傾げた。
『必要か否かで言ったら、否でしょうね』
インクが肩をすくめる。
リルは『うーん?』と呟いた後、口を開いた。
『でも、研究者はともかく、実力のある冒険者が護衛でたくさんついて来てるから、DP収入にはなってるんだよね?』
「ああ。しかも、彼らの仕事は研究者の護衛だから、無闇矢鱈に魔物を狩らないし、効率がいい収入源だな」
魔物が消費されれば、魔物召喚陣から生まれる魔物以外は、DPを使って再召喚する必要がある。
ダンジョン運営的には、実力のある冒険者があまり魔物を狩らず、ダンジョン内に滞在してくれるとありがたいのだ。
『どうせ暇なんだから、研究者で遊んでみるのもいいと思うにゃー』
ミーシャがにゃふふ、と笑いながら提案する。何を考えているのか、随分と楽しそうだ。
その様子を苦笑しながら眺めつつ、俺はその提案を吟味してみた。
研究者で遊ぶ、と言うとなんだか性格が悪い行いのように感じるけど、それが研究者にとっても利益になることなら、別に問題ないのでは?
「……うん、暇なのは事実だし、ひとまずミーシャの提案を受け入れるとして、遊ぶって具体的にどんな風にするんだ?」
『宗教をでっち上げるにゃー』
俺が先ほど考えたのと同じような答えが返ってきた。
やっぱそうなるよなー。
『神狼教ですか? 狼族獣人が喜びそうですね』
インクが口元を緩める。狼族獣人と言って想定してるのはロアンナじゃないか? マジで惚れてるの? ロアンナには全然相手にされてないと思うけど……。
『えー、僕? 僕を崇められたところでご利益なんてないよ?』
リルが困惑した様子で言う。まぁ、そうだよな。神様じゃないし。
でも、遺跡には神狼の意匠を施してあるんだから、神狼教にするのが一番自然な気がする。
あるいは、俺がさっき考えた〈もふもふ教〉か?
『宗教にするとなれば、どんなご利益があるのかが重要な気がしますねー』
サクがそう言い、『例えば――』と言葉を続けた。
『神狼教の信徒は狼系の魔物と戦わないし、狼系の魔物も信徒を襲わない、とかですかねー?』
「ダンジョンに来てる冒険者たちを神狼教に改宗させるつもりか?」
俺は思わず呆れ気味に呟いた。
八階層での死に戻り原因は、一番は影兎にやられることだけど、二番は狼系の魔物にやられて死に戻りすることだ。
しかも冒険者たちは、正体不明な不可視の敵扱いしている影兎と違い、狼系魔物たちを明確に強敵と見なしている。
そんな彼らなら、狼系魔物にやられるリスクを下げるために、これまでの宗教を捨てて神狼教に加入する可能性はなくもないだろう。
『ふふふ、それも面白いと思いますー』
微笑むサクを、インクが半眼で見据えた。
『いや、そのご利益はダンジョン外の魔物には適応させられないだろう? ダンジョン内限定ってなったら、不審に思われるんじゃないか?』
インクがそう言い、苦笑しながら肩をすくめた。サクが『あら、確かにそうねー』と少し残念そうに眉尻を下げる。
その後も、リルたちはいろいろと案を出してくれた。
俺はしばらくその話を聞き、ダンジョン内限定宗教という形で宗教をでっち上げることに決めた。
「宗教は神狼教じゃなくて〈もふもふ教〉にしよう」
『どうしてです?』
インクが不思議そうに首を傾げる。
俺の言葉を聞いて、リルは少しホッとした顔をしていた。狼族獣人に神のように崇められることにはもう慣れているようだけど、本気で神と認定されたくはなかったのだろう。
「神狼教にしてしまったら、このダンジョンに神狼がいるとバレるかもしれないだろ」
『あ……確かに。まだ秘密にしてるんでしたね』
納得した様子のインクを見ながら、俺は真面目に言葉を続けた。
「それと、俺にとって大切な子はリルだけじゃない。ミーシャも影兎も好きだ。まとめると、もふもふが好きってことになる。遺跡が俺の宗教観を示すものになるなら、やっぱりもふもふ教の方が適してるだろ」
『どんだけもふもふ推しなんです……?』
インクが困惑した様子で呟く。サクは『もふもふは可愛いですからねー』と微笑んだ。
影兎たちが『ボクたちかわいいんだって~!』『マスター、ボクたちのことすきなんだって~』と嬉しそうにはしゃいでいる。うん、可愛いぞー。
『ミーシャも神様にゃ?』
「うん、神レベルで可愛いからな」
『にゃふふ……マスターがそう言うなら、神様になるにゃー』
照れた様子で呟くミーシャに対抗するように、リルが心なしかキリッとした表情で口を開く。
『マスターが望むなら、もふもふ教の主神になってもいいよー!』
「おお、ありがとな。今のところの神狼推しの遺跡になってるから、リルが主神ってことにするのがよさそうだから助かるよ」
『助かる? ふふ、でしょー。僕、マスターの役に立つからね!』
胸を張るリルの頭を撫で、単純だけどそこが可愛い、と心の中で親バカなことを呟いた。
『ご利益はどうするんですー?』
「信徒は全員もふもふ系魔物から攻撃されないってご利益にしたら、さすがにダンジョン運営的にマズイから、一定時間攻撃されにくいっていう加護を授ける形にしようと思う」
サクが『加護ですかー?』と不思議そうにする。
詳しくは遺跡を改装しながら説明しよう。
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