ダンジョンマスターはフェンリルくんとのスローライフをご希望です

ゆるり

文字の大きさ
90 / 202
3-1.攻略者たちのいろいろ

90.遊んじゃおう

しおりを挟む
 そもそも俺が研究者たちのために何かをしてやる必要があるのだろうか?
 俺がポツリとそんな疑問を呟くと、リルたちが顔を見合わせて首を傾げた。

『必要か否かで言ったら、否でしょうね』

 インクが肩をすくめる。
 リルは『うーん?』と呟いた後、口を開いた。

『でも、研究者はともかく、実力のある冒険者が護衛でたくさんついて来てるから、DP収入にはなってるんだよね?』
「ああ。しかも、彼らの仕事は研究者の護衛だから、無闇矢鱈に魔物を狩らないし、効率がいい収入源だな」

 魔物が消費されれば、魔物召喚陣から生まれる魔物以外は、DPを使って再召喚する必要がある。
 ダンジョン運営的には、実力のある冒険者があまり魔物を狩らず、ダンジョン内に滞在してくれるとありがたいのだ。

『どうせ暇なんだから、研究者で遊んでみるのもいいと思うにゃー』

 ミーシャがにゃふふ、と笑いながら提案する。何を考えているのか、随分と楽しそうだ。
 その様子を苦笑しながら眺めつつ、俺はその提案を吟味してみた。

 研究者で遊ぶ、と言うとなんだか性格が悪い行いのように感じるけど、それが研究者にとっても利益になることなら、別に問題ないのでは?

「……うん、暇なのは事実だし、ひとまずミーシャの提案を受け入れるとして、遊ぶって具体的にどんな風にするんだ?」
『宗教をでっち上げるにゃー』

 俺が先ほど考えたのと同じような答えが返ってきた。
 やっぱそうなるよなー。

神狼フェンリル教ですか? 狼族獣人が喜びそうですね』

 インクが口元を緩める。狼族獣人と言って想定してるのはロアンナじゃないか? マジで惚れてるの? ロアンナには全然相手にされてないと思うけど……。

『えー、僕? 僕を崇められたところでご利益なんてないよ?』

 リルが困惑した様子で言う。まぁ、そうだよな。神様じゃないし。
 でも、遺跡には神狼フェンリルの意匠を施してあるんだから、神狼フェンリル教にするのが一番自然な気がする。
 あるいは、俺がさっき考えた〈もふもふ教〉か?

『宗教にするとなれば、どんなご利益があるのかが重要な気がしますねー』

 サクがそう言い、『例えば――』と言葉を続けた。

神狼フェンリル教の信徒は狼系の魔物と戦わないし、狼系の魔物も信徒を襲わない、とかですかねー?』
「ダンジョンに来てる冒険者たちを神狼フェンリル教に改宗させるつもりか?」

 俺は思わず呆れ気味に呟いた。
 八階層密林遺跡での死に戻り原因は、一番は影兎シャドウラビにやられることだけど、二番は狼系の魔物にやられて死に戻りすることだ。

 しかも冒険者たちは、正体不明な不可視の敵扱いしている影兎シャドウラビと違い、狼系魔物たちを明確に強敵と見なしている。

 そんな彼らなら、狼系魔物にやられるリスクを下げるために、これまでの宗教を捨てて神狼フェンリル教に加入する可能性はなくもないだろう。

『ふふふ、それも面白いと思いますー』

 微笑むサクを、インクが半眼で見据えた。

『いや、そのご利益はダンジョン外の魔物には適応させられないだろう? ダンジョン内限定ってなったら、不審に思われるんじゃないか?』

 インクがそう言い、苦笑しながら肩をすくめた。サクが『あら、確かにそうねー』と少し残念そうに眉尻を下げる。
 その後も、リルたちはいろいろと案を出してくれた。

 俺はしばらくその話を聞き、ダンジョン内限定宗教という形で宗教をでっち上げることに決めた。

「宗教は神狼フェンリル教じゃなくて〈もふもふ教〉にしよう」
『どうしてです?』

 インクが不思議そうに首を傾げる。
 俺の言葉を聞いて、リルは少しホッとした顔をしていた。狼族獣人に神のように崇められることにはもう慣れているようだけど、本気で神と認定されたくはなかったのだろう。

神狼フェンリル教にしてしまったら、このダンジョンに神狼フェンリルがいるとバレるかもしれないだろ」
『あ……確かに。まだ秘密にしてるんでしたね』

 納得した様子のインクを見ながら、俺は真面目に言葉を続けた。

「それと、俺にとって大切な子はリルだけじゃない。ミーシャも影兎シャドウラビも好きだ。まとめると、もふもふが好きってことになる。遺跡が俺の宗教観を示すものになるなら、やっぱりもふもふ教の方が適してるだろ」
『どんだけもふもふ推しなんです……?』

 インクが困惑した様子で呟く。サクは『もふもふは可愛いですからねー』と微笑んだ。
 影兎シャドウラビたちが『ボクたちかわいいんだって~!』『マスター、ボクたちのことすきなんだって~』と嬉しそうにはしゃいでいる。うん、可愛いぞー。

『ミーシャも神様にゃ?』
「うん、神レベルで可愛いからな」
『にゃふふ……マスターがそう言うなら、神様になるにゃー』

 照れた様子で呟くミーシャに対抗するように、リルが心なしかキリッとした表情で口を開く。

『マスターが望むなら、もふもふ教の主神になってもいいよー!』
「おお、ありがとな。今のところの神狼フェンリル推しの遺跡になってるから、リルが主神ってことにするのがよさそうだから助かるよ」
『助かる? ふふ、でしょー。僕、マスターの役に立つからね!』

 胸を張るリルの頭を撫で、単純だけどそこが可愛い、と心の中で飼い主バカなことを呟いた。

『ご利益はどうするんですー?』
「信徒は全員もふもふ系魔物から攻撃されないってご利益にしたら、さすがにダンジョン運営的にマズイから、一定時間攻撃されにくいっていう加護を授ける形にしようと思う」

 サクが『加護ですかー?』と不思議そうにする。
 詳しくは遺跡を改装しながら説明しよう。

しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

妹が嫁げば終わり、、、なんてことはありませんでした。

頭フェアリータイプ
ファンタジー
物語が終わってハッピーエンド、なんてことはない。その後も人生は続いていく。 結婚エピソード追加しました。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??

シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。 何とかお姉様を救わなくては! 日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする! 小説家になろうで日間総合1位を取れました~ 転載防止のためにこちらでも投稿します。

処理中です...