ダンジョンマスターはフェンリルくんとのスローライフをご希望です

ゆるり

文字の大きさ
95 / 202
3-1.攻略者たちのいろいろ

95.報告書を確認するよ

しおりを挟む
 インクの協力を得て、無事に報告書を再構成できた。

 インクは『疲れたー……』と言って地面に寝そべっている。
 お前は隙あらば寝ようとするよな。そういうところが、影兎シャドウラビたちに遊び相手認定されてる理由の一つだと思うぞ。

 ちなみに、俺たちの作業中に開催されていた影兎シャドウラビかけっこ大会の優勝者は、淡桃色の個体だった。誰が作ったのか、〈かけっこ一番〉と書かれたタスキをかけて嬉しそうに俺に見せてくれた。可愛い。
 リルと暴れすぎないように外の世界を楽しんでおいで。

『いってきます!』
「え、早速行くの?」
『いってきま~す!』
「……うん、いってらっしゃい」

 止めるつもりで言った言葉は、リルと影兎シャドウラビに届かなかったのか、完全にスルーされた。いいんだけどさ。別にリルたちにしてほしいことがあるわけじゃないし。

 元気いっぱい飛び出していくリルと影兎シャドウラビを見送り、残念そうにしている他の影兎シャドウラビたちの頭を撫でて宥める。
 次の機会もあるよ、きっと。

『報告書って、難しいんですねー』

 俺より先に報告書に目を通していたサクが、頭上に〈???〉が浮かんでいるような顔で首を傾げた。

 学者が書いたものなんだから、難しい言い回しとかで書かれてても不思議じゃないもんな。

「俺が読んで要約してやるから」
『はい、お願いしますー』

 サクがあっさりと報告書を差し出してくる。俺が言ったとはいえ、諦めるのが早いな。

 苦笑しながら報告書を確認する。
 ふむふむ……ダンジョン外にある他の宗教との比較とか、もふもふ教の歴史の長さの推測とか、様々な角度からもふもふ教について考察しているようだ。

 一日もかからずにでっち上げた宗教を、ここまで真剣に考察してくれるなんて、申し訳ないやら、呆れるやら――いや、普通に笑えるな。

「もふもふ教の歴史が推定四百年なのは草」
『草ですかー?』

 サクが地面に生えている草を指す。
 その草じゃないです。笑えるっていう意味ね。スラングなので覚えなくて大丈夫です。

 報告書とは関係ない解説をまぜながら、サクたちに要約した内容を教えてみる。

・もふもふ教の設立はおよそ四百年前と推定される。
・もふもふ教の教えは、獣系魔物を尊び共存を目指すというもの。
・『特殊な死』という状態のアンデッドについては、浄化して安楽の地に送ってやることが推奨されている。
・神殿が掲げる光明教(この世界で最も信者数が多い宗教)とは、獣系魔物を尊ぶという点で教義が合わないため、衝突が起きないよう為政者側で配慮すべきである。

 要約するとこんな感じ。

 アンデッドを浄化して安楽の地に送ってやるなんて考えたことないな。
 だって、アンデッドも俺の魔物の一種だし。魔物召喚陣から定期的に生じるから、倒されてもあまり気にならないかも。リルたちと違って、交流も全然してないし。

「いろいろ間違ってることはあるけど、そういう風に思わせようと仕掛けたのは俺だし、まんまと仕掛けに乗ってくれてありがとうって言うべきかな?」
『そうですねー。神殿の介入も、マーレ町側が防いでくれそうですし、意外と宗教を作ったメリットがありましたね』

 サクが嬉しそうに微笑む。

 今回の宗教でっち上げ遊びで得られた最大の利益は、マーレ町が神殿の介入――つまり、勇者がダンジョンに派遣されてくることを防いでくれる可能性が高まったことだ。

 マーレ町の町長から特別爵位をもらった際に、ダンジョンの敵に対してはマーレ町が排除に動く、という契約を交わしているとはいえ、神殿がその対象となったとしてもマーレ町は契約を遵守するという姿勢が窺えたのは嬉しい。

「最後に〈ダンジョン内で獣系魔物を倒すことが、ダンジョンマスターに厭われていないか確認が必要〉って追記してあるくらいだし、すごく配慮してくれるつもりなんだろうな」
『あら、あの研究者たちはそんなことも気にしていたんですねー。もし倒すのがダメだったら、もう手遅れでしょうに』

 サクがふふっと笑う。
 確かにすでにそれなりの数の獣系魔物が倒されてるもんなぁ。

「倒しても大丈夫ってことで魔物を置いてるんだし、そこで文句をつけるつもりはないよ」

 これはちゃんと連絡しておかないとな。とはいえ、やたらと倒しまくられるのも微妙な気分になるので、ほどほどでお願いしたい。
 そもそも影兎シャドウラビにやられる冒険者の数が多いので、お互い様っていう気がする。

『あの祈りの間はどう使われることになってるにゃー?』

 不意にミーシャが尋ねてきた。そういえば、そのことについては話し忘れてたな。
 俺は報告書をめくり、記載内容を再確認する。

「祈りの間は、俺に不都合がなければ、冒険者たちに周知して、加護アイテム入手のために使わせるつもりらしいぞ。真の信者でなくても使用可能か、管理者に要確認、って研究者たちが報告してる」
『じゃあ、ダンジョン内でもふもふ教に祈りを捧げる冒険者の姿が見られるようになるってことだにゃー』

 ミーシャは言いながらその光景を想像したのか、にゃははっと楽しそうに笑った。
 冒険者が狩る対象にしてる魔物を尊ぶ宗教に祈りを捧げるって、面白い状況だよな。そう思って、俺の口元も緩む。

「これの返事を送って、しばらくはその様子を観察して楽しもうか」
『楽しみが増えたにゃー』
『へんじ、ボクがもっていくよ~!』
『あ、でおくれた~……』

 俺の言葉で仕事ができたと察した影兎シャドウラビの行動の早さはさすがだ。
 抑えきれなかった笑い声を上げて、俺は期待いっぱいの眼差しで見上げてくる影兎シャドウラビの要望に応えるため、ペンを手に取った。

しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

転生したけど平民でした!もふもふ達と楽しく暮らす予定です。

まゆら
ファンタジー
回収が出来ていないフラグがある中、一応完結しているというツッコミどころ満載な初めて書いたファンタジー小説です。 温かい気持ちでお読み頂けたら幸い至極であります。 異世界に転生したのはいいけど悪役令嬢とかヒロインとかになれなかった私。平民でチートもないらしい‥どうやったら楽しく異世界で暮らせますか? 魔力があるかはわかりませんが何故か神様から守護獣が遣わされたようです。 平民なんですがもしかして私って聖女候補? 脳筋美女と愛猫が繰り広げる行きあたりばったりファンタジー!なのか? 常に何処かで大食いバトルが開催中! 登場人物ほぼ甘党! ファンタジー要素薄め!?かもしれない? 母ミレディアが実は隣国出身の聖女だとわかったので、私も聖女にならないか?とお誘いがくるとか、こないとか‥ ◇◇◇◇ 現在、ジュビア王国とアーライ神国のお話を見やすくなるよう改稿しております。 しばらくは、桜庵のお話が中心となりますが影の薄いヒロインを忘れないで下さい! 転生もふもふのスピンオフ! アーライ神国のお話は、国外に追放された聖女は隣国で… 母ミレディアの娘時代のお話は、婚約破棄され国外追放になった姫は最強冒険者になり転生者の嫁になり溺愛される こちらもよろしくお願いします。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??

シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。 何とかお姉様を救わなくては! 日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする! 小説家になろうで日間総合1位を取れました~ 転載防止のためにこちらでも投稿します。

妹が嫁げば終わり、、、なんてことはありませんでした。

頭フェアリータイプ
ファンタジー
物語が終わってハッピーエンド、なんてことはない。その後も人生は続いていく。 結婚エピソード追加しました。

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

処理中です...