ダンジョンマスターはフェンリルくんとのスローライフをご希望です

ゆるり

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3-2.ダンジョンは止まらない

104.頼りにしてるよ

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 ピエモに向かうのを自然に見せる工作をしに操人形マリオネとロアンナが外に出るのを見送り、俺はぐいっと背伸びをした。
 問題が二つ一気に片付いたようなものなので、すっきりとした気分だ。実際はどちらもまだ解決してないけど。

「――操人形マリオネなんだし、きっと大丈夫だよな」

 うんうん、と頷きリルにポスッと寄りかかる。
 もふもふの毛が気持ちいい。

『マスター、僕はしばらく狩りをしない方がいい?』

 自分の行動が問題を生じさせたらしいと察し、リルは少し落ち込んでいるようだ。
 その頬の毛をすくように撫でながら、俺は「うーん?」と首を傾げた。

 確かにリルの狩りは問題を起こしたけど、DP入手のためには仕方なかった部分もあるし、実際俺はリルの狩りのおかげで助かっているから責めたくない。
 それに、今狩りをやめると、違う問題も起きそうだ。

「いや、強い魔物が山からおりて人に危害を与えないように、適度に間引いた方がいいだろう。その調整は操人形マリオネと協力してやった方がいいと思うけどな」

 ヒエラルキーの上にいる魔物を定期的に狩ってたら、さすがにやって来られる強い魔物もいなくなるんじゃないかな。

 弱い魔物たちが強さを競い合うのは日常茶飯事のことで、狼族獣人たちは気にしないだろうし、そうなったら問題解決ってことでいいと思う。

 ただ問題は、その状態になるまでにどれくらいの数の魔物を狩ればいいのかわからない、っていうことだけど。

『制御しやすい魔物を、山の主として定着させるのもいいと思うにゃー』
「確かに、そうだな。うちの魔物を常駐させてもいいんだけど……」

 ミーシャの提案を聞いて、ダンジョン内にいる魔物を脳裏に思い浮かべる。

 影兎シャドウラビは……ダメだな。さらに大きな問題を起こす気しかしない。

 インクは……監視がない場所で、ちゃんと働いてくれるのか不安だ。あと、ドラゴンに負ける姿しか想像できない。

 サクはしっかり働いてくれそうだけど、影兎シャドウラビのお世話係がいなくなるのもどうかなぁと思う。インク同様、ドラゴンと戦うのはちょっと無理そうだし。

 アリーは頼りになるけど、それは戦闘能力というより偵察力への評価だ。そもそも、ダンジョン内外の偵察を頼んでいるから、さらに仕事を増やすわけにはいかない。

「リルくらいの強さがないと、ドラゴンが近づいてきた時は対処できないし……となると、常駐させるなら一体しかいないな」

 俺の脳裏に浮かぶのは、金色のドラゴンだ。鳥っぽい雰囲気で可愛らしいけど、間違いなく最強と称してもいい種族の魔物である。

「――エンドを山に常駐させるのは、ありだよなぁ」

 元々ピエモの山出身なんだし、問題はない気がする。山の主として縄張りを主張したら、他の魔物たちが素直に言うことを聞いてくれそうだし。
 なんたって、エンドは古竜エンシェントドラゴンなんだから。

『狼族獣人たちの監視ばっかりでつまらなそうにしてたから、それもいいと思うにゃー』

 ミーシャがうんうん、と頷く。
 リルは『エンドなら大丈夫』と太鼓判を押した。時間がある時にはエンドに戦闘指南をしているようなので、リルがそう言ってくれるなら俺も不安なく任せられる。

 でも、リルは『エンドを山に常駐させるなら、代わりにダンジョンゲート側を見張る魔物を用意しないとね』と付け加えた。
 狼族獣人を含め、ダンジョンゲート側ルートの警戒も怠らないのが、さすがリルである。

 それはさておき。
 エンドを山に常駐させる案を実行するには、一つ大きな問題があった。

古竜エンシェントドラゴンがいるってバレたら、国が大パニックになりそうだなぁ」

 今のところ狼族獣人が古竜エンシェントドラゴン誕生について秘しているとはいえ、国から調査隊が来ないとは限らない。
 その時に山にエンドがいたら、とんでもない騒ぎになるだろう。

「――一応、操人形マリオネに問題解決手段の一つとして提案しておく程度にするか」

 いろいろ問題はあるけど、操人形マリオネが考えてくれたらきっと大丈夫なはず。そんな責任を放り投げたようなことを考えながら、俺はあくびを噛み殺した。

 ラッカルたちの攻略を監視したり、新しい階層を作ったり、問題について考えたりと忙しかったから、それが一旦落ち着いたことで眠気が襲ってきた。
 ダンジョンマスターは睡眠があまりいらないとはいえ、まったく寝ていなかったら思考が鈍るのだ。

「リル。俺はちょっと休むから、操人形マリオネから連絡があったら起こしてくれ」
『わかったー。マスター、ゆっくり休んでね』

 すりすり、と頬ずりしてきたリルに微笑み、その顎下を撫でながら俺は目を瞑る。
 寝るなら自分の部屋で寝るのが一番熟睡できるけど、日差しの下でリルの温かさを感じながら微睡むのも乙なものだな。

 ◇◆◇ 

 眠りに落ちてから一時間後。
 これから出発する、という慌ただしい挨拶をしに来た操人形マリオネが俺を起こそうとして、頭からリルに齧られかけるという事件が起きた。

『マスターがこんなに幸せそうに寝てるんだから、起こしちゃダメー!』
『いや、はい、わかりました! だから、食べないでくださいー! あ、まって、ちょっと牙が食い込んでる。俺、壊れちゃうぅうううっ!』

 本気の悲鳴を上げている操人形マリオネを、ミーシャがちらりと見て『マスターは操人形マリオネから連絡があったら起こしてって言ってたにゃー』と言いながら、尻尾を揺らす。
 リルを止める気も、俺を起こす気もなさそうだ。

 俺は騒がしさで目を覚ましていたし、うっすらと目を開いてその騒がしさを眺め、リルってほんと俺のこと好きだよなー、と微笑んでいた。

『待って、マスター起きてるじゃないですか! ねぇ、リルを止めてください! 俺、マスターに挨拶に来ただけなんですーっ!』

 リルもミーシャも操人形マリオネも楽しそうで何よりである。

『――あ、待って、また寝ようとしてません!? 起きて! 俺を助けてくださいー!』
『マスターを起こしちゃダメー!』
『いや、もう起きてますってば! 助けてぇええっ』

 和やかな雰囲気を感じながら、俺は再び目を閉じた。

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