ダンジョンマスターはフェンリルくんとのスローライフをご希望です

ゆるり

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3-2.ダンジョンは止まらない

106.ダンジョン内を観察しよう①

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 モニターに各階の映像を映す。まずは1階洞窟1を確認だ。
 すると、1階洞窟1入り口あたりに人混みができていた。

「あれ、農地から出てきた人たちだな」
『大きなバッグをたくさん担いでるにゃ』
「あの中に収穫した野菜や果物が入ってるんだろう」

 用意した畑を上手く使ってくれていてなにより。

 そういえば最近、冒険者ギルドから〈野菜・果物栽培地の使用料金です。お収めください〉とお金が置かれていたことがあったな。

 お金なんてあってもほとんど使わない。たまに操人形マリオネや狼族獣人に活動資金として渡すくらいだ。
 でも、もらえるものはありがたく受け取ってる。

『まだこの階で魔物に倒される冒険者っているんだねー』

 1階洞窟1から2階洞窟2に向かうルートに沿って観察していると、そこで繰り広げられる戦闘を眺め、リルがポツリと呟いた。

 言外に『弱いね』と評価を下しているのが感じられて、俺は苦笑する。

 ほとんどの生き物はリルより弱いものである。1階洞窟1で死に戻りする冒険者の戦闘力が、非戦闘員(町民・商人など)とあまり変わらない程度なのは事実だけど。

「冒険者って言っても、ピンキリだからなぁ」
『それにしても、オークにやられるくらいの実力だったら、このダンジョン以外じゃやっていけない気がするよ』
「うーん……たぶん、冒険者になりたてのヤツが、ここを訓練場所にしてるんだと思うぞ?」
『訓練場所?』

 リルが不思議そうに首を傾げた。ミーシャやサク、インクも同様だ。
 なんだ、気づいてるのは俺だけだったのか?

「うん。ここは死なないダンジョンだからな。ちょっと失敗してもやり直しができるし、初心者冒険者の訓練場所としてうってつけなんだよ。ほら、あの冒険者とか、ほとんど装備もない」

 流し見ていたモニターに、普段着のような服にナイフを持った姿の男たちが映って、俺は指して示した。

 せめて革鎧くらいは装備してもらいたいものだけど、それを用意するにも初期費用がかかるから、最低限の武器くらいしか持ってない。

 このダンジョンが町と契約を結んだ頃から、こういう冒険者が増えた。
 死なないダンジョンは、初心者冒険者が安全に実力を高め、冒険者装備を入手するためのお金を稼げる場所として、利用されるようになったのだ。

 彼らからも普通にDPがもらえるから、来てくれるのはありがたい限りである。

『へぇ……いろんな人がいるんだねー』

 ふんふん、と頷くリルに微笑みながら、モニターの映像を切り替える。
 1階洞窟1では問題が起きてなさそうだし、ここにインクを配置するのは難易度的に合ってないから、もういいや。

 2階洞窟2を映し出すと、すぐさまパーティで連携して、複数体の魔物と戦っている冒険者の姿が見えた。

『この階にいる冒険者は、結構戦えてる人が多いにゃ』

 1階洞窟1の光景との違いがはっきりとわかり、ミーシャが感心した様子で声を上げる。

 上位種がまざった魔物の集団に苦戦する者もいるが、冒険者たちの多くは危なげなく倒していた。

 最初の頃は、ここで死に戻りする冒険者も多かったんだけどなぁ。冒険者たちが攻略法を学んだのかもしれない。あるいは、この階の魔物を倒すことで実力が上がったのか。慣れも関係してそうだな。

 そんなことを考えながら、2階洞窟2を見て回る。

「ここにインクが出現したら、騒ぎになっちゃいそうだな」
『うーん……難易度に合ってない気がするね』

 俺の言葉に、リルが悩みつつ頷いた。
 インクは少ししょんぼりしてる。この階の担当になれたら、影兎シャドウラビの遊び相手という役割から逃れられる時間が長そうだもんな。

「次は3A階蜜の海を見ようか」

 あんまり冒険者が攻略していない空間をモニターに映し出す。
 すると、蜂蜜が海のようになっている場所の手前で、瓶を構えている冒険者たちがいた。

『攻略者かな!』

 3A階蜜の海作成者のリルが、ワクワクした感じで声を上げる。攻略者が全然いないって、たまに寂しそうだったから、こうして冒険者の姿を見ると嬉しいようだ。

 でも……

「どう見ても、蜂蜜採取に来ただけだよな?」
『ガッツリ瓶を構えてるにゃ』
『その冒険者を守るために囲んでいる冒険者は、一応盾と武器を構えてますよ?』
『どちらにせよ、蜂蜜採取ですねー』

 俺、ミーシャ、インク、サクの順で、モニターに映る冒険者たちについて話す。
 リルが期待しているような展開にはならなそうだ、というのは全員一致した見解だ。

 3A階蜜の海では、熊蜂ベアビーとそれに乗った魔盾兵マギシルジャーが主な戦力だ。他にも鳥系の魔物などが飛んでいる。

 熊蜂ベアビーは空から突撃し、剣や槍、弓矢を使って冒険者に攻撃を加える。魔盾兵マギシルジャーはすべての魔法を防ぎ、妨げるから、冒険者の反撃手段は限られてくる。

 今も、離れたところから弓矢で攻撃され、冒険者は防戦一方になっていた。あっという間に持っていた盾がボロボロだ。

 そして、その盾に隠されながら瓶を持った冒険者が蜂蜜を採取し、歓喜の表情で掲げて示す。

熊蜂ベアビーの蜜、採ったぞー!]
[よくやった! みんな、撤収だ!]
[うわっ、盾がもうもたねえ! 急げ!]

 盾を背負うようにして駆け出す冒険者たちを熊蜂ベアビーが追い、剣や槍で攻撃を加える。
 だが、それも冒険者たちが転移魔法陣で2階洞窟2に戻るまでのことだ。

 盾を傷つけるばかりで、冒険者たちにほとんどダメージを与えられなかった熊蜂ベアビーたちは、少し悔しそうな雰囲気で戻り、弓矢や剣、槍の訓練を始めた。

『……全然攻略してくれてない……』
「あー……落ち込むなよ。リルが作ったダンジョンが、見事に冒険者の攻略を防いでるってことじゃないか」

 落ち込んだ様子で尻尾を垂らすリルの頭を撫でて慰める。
 どう考えても、3A階蜜の海って、ダンジョン序盤の環境じゃないんだよなぁ。熊蜂ベアビー魔盾兵マギシルジャーの組み合わせって、だいぶ強いし。

 操人形マリオネ曰く、空を飛ぶ魔物は戦いにくいからできる限り戦闘を避けるべし、っていうのが冒険者の間での常識らしい。

『この階も、俺は必要なさそうですね……』

 インクも落胆していたけど、こちらは慰めなくてもいいだろう。
 俺はもふもふ贔屓なのだ。

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