ダンジョンマスターはフェンリルくんとのスローライフをご希望です

ゆるり

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3-2.ダンジョンは止まらない

108.ダンジョン内を観察しよう③

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 影兎シャドウラビたちは今のところラッカルたちを見逃すつもりなのか、攻略の邪魔をしに現れることはなかった。
 祈りの間でお守りを手に入れたラッカルたちが、さらに遺跡の奥を目指して進んでいく。

『うー……いいトラップが思い浮かばないー』
『にゃー』

 道中に仕掛けてあるトラップを軽々と躱すラッカルたちを眺め、リルとミーシャが悔しそうに呟く。
 それを横目で見て苦笑しながら、俺は二体の頭をポンポンと撫でた。

 ラッカルたちが悪いことをしたわけじゃないんだし、そろそろトラップに掛けようとするのを諦めてほしいな。

「遺跡の最奥に挑む冒険者は初めてだし、難易度調査のためにも様子見でいいんじゃないか?」
『えー……でも、まぁ、そうかも? ボスを倒せるか気になるしね』

 説得してみたら、リルが表情に不満さを残しながらも頷いてくれた。

 ボスかー……確か一旦制限区域に入ってボスを倒さないと次の階層に進めないように、リルが改装したんだよな。
 ずっと制限区域を進むよりも能力制限の数が少なく済むとはいえ、ボス戦は結構難度が高いんじゃないか? それでもラッカルたちはクリアしてしまうのだろうか。

 そんなことを考えながら、ラッカルたちの攻略を観察する。
 遺跡の奥に進むにつれて、どんどん強さを増していくアンデッドたちに、ラッカルたちはさすがに少し苦労しているようだ。

浄化ピュリファイ!]
[おらよっと!]

 ルイリが放った魔法でアンデッドが弱体化し動きが遅くなったところを、ダダンが大剣でとどめを刺す。その範囲から逃れたアンデッドは、ラッカルによって切り倒された。

 多少苦労するようになったとはいえ、まだ余裕がありそうだ。残念。

[ふー……そろそろ最奥についてもよさそうだが]

 ラッカルがそう言ったところで、先頭を進んでいたダダンが[おい、あれ]と声を上げる。

[——この先にあるのって、イサムってヤツが挑んでる場所と似てねぇか?]
[え? うそ、まさか、あそこ通らないと次の階層に進めないの?]

 遺跡の奥が神殿のような場所に続いているのを見て、ダダンとルイリが顔を顰めた。

 ついに遺跡最奥で制限区域に接続してるところに辿り着いたようだ。ここから進まれたら、能力制限一個しかつけられないんだよなぁ。武器制限とかになったら、大幅な戦力減にできるとは思うけど……

『進むのかなぁ?』
『どうせなら最初から制限区域を進んでほしかったにゃ』

 期待と不安が入り混じる表情のリルとミーシャの言葉が聞こえていたわけではないはずだが、ルイリは[最終的にここをクリアしなきゃならないなら、入り口のところから挑戦しちゃえばよかった]と肩を落としている。

[最初から挑むよりは楽なんじゃないか? この神殿らしき場所も、だいぶ奥まったところみたいだ]

 ラッカルが神殿との境から奥を観察し呟く。制限区域の入り口との違いをすぐに理解したようだ。
 この観察力が結構脅威なんだよな、ラッカルって。そのせいで操人形マリオネが疑われることになったし。

[あ、そうなの? それなら、神殿を進む距離は短くて済むのかな]
[噂じゃ、かなり厄介らしいからな……できれば避けたかったぜ]

 ホッとした表情のルイリの横で、ダダンがゲェと舌を出す。

 冒険者たちの間でどんな噂が出回っているかは、操人形マリオネからの報告でなんとなく知っている。

 イサムがトラップにこてんぱんにされてダンジョンを出ると、たいてい誰かが酒を奢って情報を入手し、冒険者たちの間で広めているらしいのだ。自分が笑われるだろう話をあっさりとしてしまうイサムは相変わらずお馬鹿だと思う。

[他の道はなさそうだし、進むしかないな。トラップには気をつけて進もう]
[能力制限は避けられないらしいぜ?]

 真面目な顔で気合いを入れ直すラッカルを、ダダンが揶揄するように言いながら肩をすくめた。

[……自分の幸運を祈れ]
[やっぱりラッキーボーイ連れて来るべきだったな]

 苦々しい顔のラッカルにダダンが言う。それを聞いていたルイリが苦笑しつつ[いない人の話をしてもしょうがないでしょ]と諌めた。

[心の準備ができてるなら進むぞ]
[したくねぇなぁ]
[依頼失敗の方が嫌よ]

 ダダンの文句をルイリがあっさりと切り捨て、[進みましょ]と言葉を続ける。
 三人は真剣な表情で神殿——制限区域に足を踏み入れた。

「さて、ラッカルたちの能力制限はなんになるかな?」
『武器制限になってほしいなー』
『歩行制限でもよさそうにゃ』
『ボス戦があるんですし、防御力低下でもよくないです?』
『一番面白そうなのがいいですねー』

 リルとミーシャ、インク、サクが予想を連ねていく。
 その結果がどうだったかと言うと——

[……あ、俺、武器制限……マジか……]

 ダダンが絶望の表情で呟いた。大剣使いに武器制限って、致命的な制限がかかってないか? 制限区域グッジョブ。

[私、魔力制限……え、肉弾戦とか無理……]

 ルイリが口元を引き攣らせて固まった。魔法使いに魔力制限って、もはや戦うなって言っているようなものでは?

 最後に口を開いたのはラッカルで、頭痛に耐えるように額を押さえた状態で、呻くような声を漏らした。

[〈歩行制限——可能な歩行手段はヒップウォークだけ〉……だと……?]

 ヒップウォークとは、お尻を地面につけた状態で、座ったまま進むことである。エクササイズ的なもので、普通は歩行手段にするものではない。

[ヒップウォーク? くふっ……あははっ! 想像したらおかしすぎるわ!]
[ククッ、この石床をヒップウォークしたら、尻の布擦り切れねぇか? ははっ!]

 ルイリとダダンは堪えきれずに笑い始めた。その二人を、ラッカルが据わった目で睨んでいる。

『ヒップウォーク! いいね、面白いの引いてくれたね!』
『にゃにゃ、見たいにゃー!』

 リルとミーシャがご満悦の様子で、尻尾をブンブンと揺らしながらモニターを凝視していた。

 俺はラッカルが可哀想で、なんとか笑いの衝動をこらえるために、リルのもふもふ毛に顔を埋めて震える。腹筋攣りそう。ヒップウォークでダンジョン進む冒険者って、あり得なすぎるだろ!

[ねぇ、やってみてよ、ふふ]
[やらない]
[やらねぇと進めねぇぞ? くはっ]
[帰ろう]

 ラッカルが闇を背負ってる。というか、帰るのか。え、マジで? ヒップウォークしないの?

『えー、帰るのー?』
『ひどいにゃー』

 不満そうなリルたちの言葉はラッカルに届くことなく、ラッカルは剣の柄を力いっぱい握りしめながら、即座にUターンした。

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