ダンジョンマスターはフェンリルくんとのスローライフをご希望です

ゆるり

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3-3.外との関わり

117.驚きの情報

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 影兎シャドウラビに冒険者ギルドへの連絡を持っていってもらってから数日後。
 予定通り操人形マリオネがプラーテに出発してから、冒険者ギルドからの返事があった。

〈ダンジョンマスター様へ

 ラクシャル国視察に関する情報をお知らせするのが遅くなり申し訳ありません。
 当方で噂を精査した結果、二週間後にダンジョンの視察が行われることがわかりました。
 国王から許可を得て入国する正式な視察団となります。

 マーレ町との契約についてはお知らせしていますので、ダンジョンに不利益となるような行動はないと思いますが、問題がありましたらご連絡くださいませ。
 視察の目的は、ダンジョンで入手できるアイテムについて情報を集めるためだそうです。

 勇者が帯同するという話もありますが、あまり気にされる必要はないかと思います。
 ラクシャル国の勇者に関する情報は別紙にまとめておりますので、ご確認くださいませ。

 冒険者ギルドダンジョン支部・支部長より〉

 立て看板に貼り付けられた文章を読んで頷いていた俺は、〈勇者〉の単語を見てポカンと口を開けた。

 え、勇者来るの? マジ? この国の勇者に会ったことないのに、他国の勇者を見ることになるの?

 近くにいたインクに情報を教えると、インクはわずかに顔を顰めてから小さく首を傾げた。

『うわー、勇者ですか……女性ですかねぇ』
「気にするところ、そこか?」
『女性なら俺が退けられるじゃないですか』
「勇者だぞ?」
『そうですね?』

 なんか変なこと言ってます? と言いたげな表情のインクを見て、密かに男夢魔インキュバスへの評価を改めた。

 その凶悪さは前に知ったつもりだったけど、まだ理解しきれてなかったみたいだ。男夢魔インキュバスって、勇者も相手にできる強さなのか……。

『男性なら私が相手をしますよー』

 にこにこと微笑んだサクが、俺にお茶を手渡しながら言う。
 俺は口元を引き攣らせながら「そ、そうか。もし敵対してくるようなら頼む……」と答えるしかなかった。

 女夢魔サキュバスの相手ができる勇者を羨めばいいのか、憐れめばいいのか……よくわからん。

「とりあえず、勇者に関する情報を見よう。影兎シャドウラビー」
『いるよ~』

 今日は仕事の気配を察してないんだな、と思いながら呼びかけたら、俺の影から影兎シャドウラビたちがひょこっと顔を出した。

 なんでそこに潜んでるんだ?
 ちょっと気になったけど『気分~』という答えが予想できたから何も指摘しないことにする。

「あそこに置いてある資料取ってきてくれ。くれぐれもバラバラにしないように!」

 モニターに映る立て看板を指しながら言う。注意を付け足したのは前科があるからだ。バラバラになった資料は再構成するのが大変なんだよ。

『……わかった~』

 影兎シャドウラビたちが一瞬ギクッと固まった気がする。そして、互いを牽制するように視線を交わし、パッと消えた。
 今日はかけっこ勝負で仕事を取り合うことなく、早いもの勝ちにしたらしい。

 サクから受け取ったお茶を飲みながら待っていると、薄水色の影兎シャドウラビが頭上の木から降ってきた。

「どわっ!?」
『おとどけで~す』

 ドヤッとした顔で影兎シャドウラビが資料を差し出してくる。両手で抱きつくように持ってるけど、影兎シャドウラビには重いようでプルプルしていた。

 驚かされたことを注意したいけど、その様子があまりに可愛くて頬が緩んでしまって無理だ。今注意してもなんの効果もなさそう。

「……ありがとう。次からは普通に現れてくれよ」
『ふつうだよ~』
「……そっか」

 こういう時に、魔物とは埋めがたい認識の差があることを感じる。
 ハハッと乾いた笑いが漏れた。
 なにはともあれ、資料は無事に受け取れたのでよしとしよう。

 資料はそれなりに分厚く、冒険者ギルドが事細かに書き送ってくれたのが伝わってきた。
 一ページ目には勇者のプロフィールと姿絵。二ページ目以降には、これまでの功績がズラッと並んでいる。

「勇者の名前はアレックスらしいな」

 インクたちに教えながら、日本名じゃないんだなぁと少し意外に思った。
 イサムが日本にゆかりがあったから、本物の勇者もその傾向があるかもと予想してたんだ。でも、今回は外れたらしい。

 アレックスの見た目は金髪碧眼で、ザ・西洋人って感じ。この世界なら、イサムよりこういう容姿のほうが世間に馴染むだろう。

 使う武器は槍らしい。
 その槍の名前は〈聖槍せいそう〉というんだから、勇者らしいと言うべきか、もうちょっとひねってみたらと指摘するべきか迷う。

「……槍って、洞窟じゃ使いにくそうだよな」
『ですねー。でも、さすがに勇者が1階洞窟12階洞窟2で殺られるとは思えませんよー』
「そうだな。そんなことになったら、勇者ってなんだ? って感じだもんな」

 きっと槍以外にも武器を使うのだろうな、と予想しながらサクに答えた。
 実際、資料には魔法の才能も高いと書いてあったから、俺のダンジョンくらいなら軽々と攻略できてしまうのかもしれない。

「――まぁ、リルが作った制限区域からは逃げられないから、攻略できるかは五分五分か?」

 ちょっと対抗心を燃やして呟く。

 それを聞いて、俺の側で寝転んでいたミーシャが『にゃふふ』と笑ったのは、イサムのみならずラッカルやダダン、ルイリが日々制限区域に攻略を阻まれている光景を思い出したからだろう。

 ちょっとマンネリ化してきているとはいえ、イサムたちが制限区域で苦悩している姿は面白い。

 最近は、イサムが〈呼吸制限:一分間に一回息を吸える〉に引っ掛かって、酸欠で顔を真赤にしながらウサギ跳びをしていた。
 ちょっと目を離して気づいた時には死に戻りしていたけど。

 ラッカルたちは制限区域に来る度に、死んだ目になりUターンする。もうちょっとがんばってクリアしようとしてくれてもいいと思うんだけど。

 まぁ、ラッカルにかけられる制限が毎回ひどいから、即座に回避する気持ちはわからないでもない。たぶん、三人の中でラッカルが一番ツイてない。

「この前は〈制限:冒険者の格好。お嬢様の格好・口調でのみ先に進める〉だったっけ……?」

 この制限が表示された時、ラッカルたちがポカーンとした顔になっていた。
 ついでに俺たちもポカーンとした。

 制限って……制限って、何? 概念を見失う感じだったよ。
 わざわざ宝箱アイテムとしてラッカルが着れそうなドレスが出てきた光景が、余計にシュールで爆笑した。

 制限区域が、リルの想定を超えて意思を持って、冒険者で遊んでいる気がしてならない。

 でも、まぁ……いいぞ、もっとやれ、という気持ちだけど。

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