ダンジョンマスターはフェンリルくんとのスローライフをご希望です

ゆるり

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4-1.のんびりスローライフ?

138.勇者たちの意向

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 今にも何かしそうなくらいソワソワしてるトッシーに、「もうちょっと待てよー」と念じて、アレックスたちの会話に耳を傾ける。
 トッシーが空気を読んでくれるといいな……。

[……にゃー]
[神官に従ってるフリはしなきゃいけない? まぁ、そりゃそうだよなぁ]

 子猫なアレックスが不機嫌そうに尻尾で床をパシパシと叩くのを見て、ドロンが納得顔で頷いた。
 リーエンは眉を顰めている。でも、非難している相手はアレックスたちではないようだ。

[ダンジョンを攻略して、武力でダンジョンマスターを脅して、神殿でダンジョン利権を手に入れようなんて、あの神官は本気で実現可能だと思っているのかしら?]

 ……マジで? そんなこと考えてる神官がいるの?
 驚きと呆れでポカンと口を開ける俺の傍では、リルとミーシャが険しい表情で唸り声を上げていた。

『マスターを脅そうだなんて……身の程知らずが湧いてるー! 暗殺だー!』
『ミーシャは気配を消して動くのも得意にゃ。人間の街に潜り込んで暗殺してくるにゃ』

 こわっ。
 暗殺計画を練るリルたちをどうすべきか迷って、とりあえず今は聞き流しておいた。
 さすがに勝手に人の街に出ていくことはないだろ。もうちょっと怒りがおさまってから対処したい。とばっちりで怒られたくないし。

 そぉっと二体から目を逸らし、モニターを眺める。
 二人と子猫は揃って不快そうな表情をしていた。

[思ってんじゃね? あの神官サマだし]
[にゃー]

 アレックスがなんと答えたのかわからなかったけど、馬鹿にした雰囲気は感じ取ったぞ。
 やっぱり神官と仲がいいわけではないんだな。まぁ、それも当然か。誘拐されてきて監視されてるようなもんだし。

[そうよねぇ。……この街の役人だって、あの神官の動きを見過ごすほど馬鹿じゃなさそうなのに、バカなのかしら。普通に国際問題になる話よね?]
[だな。ダンジョン利権を献上して神殿内で地位を高めるどころか、今の立場からも転げ落ちる可能性が高いだろ]

 ドロンがフンと鼻で笑う。
 そうなってくれ、と願っているような口調だ。俺も同感。

 それにしても、神官はこのダンジョンとマーレ町との契約をどうするつもりなんだろうな? 他の組織と契約を結ぶことは禁じられてないから、ダンジョンマスターを脅して従わせることさえできれば問題ないって判断してる?

「──どう考えても浅慮だろ……」

 思わず呆れた声がこぼれた。
 俺たちがどうこうしなくても、神官は勝手に没落してくれる気がする。その場合、リルたちの憤懣をどう解消させるかが問題になるけど。

[私たちはあの神官に従っているフリをして、ここをのんびり攻略すればいいのよね?]
[にゃ]
[いいっぽいぞ]

 頷く子猫アレックスの言葉をドロンが通訳する。
 つまり、三人は本気で攻略するつもりはないってことか。

 それなら、俺は、アレックスたちの攻略スピードに合わせて適宜ダンジョン空間を増やしたり、足止め用のトラップを設置したりするくらいの対処をとればよさそうだな。

[にゃにゃー]
[え、味方の神官に、あのバカ神官の蹴落としを頼んでるのか? それ大丈夫か?]
[にゃ]
[あー、アレックスが協力してんなら、なんとかなるか]

 もふん、と胸を張る子猫アレックスから目を逸らし、ドロンが遠い目をする。
 通訳されなくても内容を察したリーエンは[さすがアレックスね!]と拍手して褒め称えた。子猫のヒゲが嬉しさを抑えきれずにピクピクと動いてる。

 ……中身がアレックスだとわかってても、可愛いな! もふもふしたい。
 そんな思いをこらえきれずに、近くにいるミーシャとモルちゃんをもふもふした。うん、最高の触り心地だ。

 リルが『僕もー』とすり寄ってきたから、『もうやめてにゃ』と言っているミーシャから手を離し、リルをもふもふした。
 リルはちょっと硬めな毛だけど、これも撫でがいがあっていいんだよなー。

[じゃあ、滞在期限が来るか、バカ神官が蹴落とされるまで、ほどほどに攻略進めるか。一応聞くけど、ダンジョンマスターのとこまで辿り着きそうになったらどうする?]
[……にゃ]

 ドロンの問いに、アレックスがなんて答えたのか気になる。
 耳を澄ませていると、ドロンがフッと笑う声が聞こえた。

[なるほど。仲良くできそうなら普通に話して、嫌がられてそうなら即時撤退、な。相手の平穏は乱したくないって、アレックスらしいな]
[そうね。私たちは、ダンジョンマスターにとって侵略者のようなものでしょうし、敵対するつもりがないなら配慮は必要よね]

 微笑む二人に、アレックスがうんうん、と頷く。

「……いいヤツらだ」
『出会った途端倒すのはやめてあげようかな』
『ちょっとくらいは、モフらせてやってもいいかもしれないにゃー』

 俺がちょっと感動すると、リルとミーシャも心打たれた様子で呟いている。

 よかったな、アレックスたち。出会っても、問答無用で死に戻りさせられる可能性はグッと下がったぞ。

 というか、ミーシャがモフらせてやってもいいって言うなんて、めっちゃ破格の扱いじゃね?
 ……う、羨ましくなんてないんだからな! 俺だってモフってるもん。長く撫でてたら『やめてにゃ』って拒否られるだけで!

 ──なんて脳内で言い訳していたら、トッシーに動きがあった。

 ちゃんと空気を読んで、攻撃をしかけるのを我慢してくれてたんだな……と喜んだのもつかの間。
 トッシーは隠れた状態で大きく口を開ける。

「何をするつもりだ……?」

 固唾を飲んで観察を続ける俺の前で、モニターが闇に染まり、何も見えなくなった。

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