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過去と未来
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後日、落ち着いた頃に麟太郎とは色々話をしたらしい。お互い納得行くところまでは話をつけられたようだ。
「双樹くんのご両親と父さんは同じ大学だったんだって。それからずっと色々あったみたいだけど……」
「そうだったのか!?」
俺は重要な話を何も聞いていないので、詳しいことは麟太郎から聞き出した。まあ初っ端から聞いたことのない話だとは思わなかったが。
「たった数年で椿家を急成長させるような力のある女性なんて放っておけないよね」
母上の商才というのは椿家に入る前から輝かしいものだったらしい。流石は尊敬できる母上なだけある。しかし、それならお互いを高め合うライバルとして関われなかったのだろうか?
「最悪な想像をすると……父さんは多分、双樹くんのお母さんのことが好きだったのかなって」
「えっ?」
「あくまで俺の想像だよ?でも何となくそんな感じがして」
話した時は椿家への憎しみのような圧しか感じなかったし、とても信じられない話だ。それでも麟太郎にはそう思う根拠があるのだろう。そうなると……これは少し嫌な話だな。
「うちは元々婚約者が決まってたようなものだし、ましてや双樹くんのお母さんは一般人だから結ばれる可能性もなかっただろうね」
「それが事実だとして、椿家は理不尽な扱いを受けていただけじゃないか!正式に謝罪して貰わないと!」
俺はまだしも、他の家族も不当な扱いを受ける原因になっているのならとても納得できない。許せん!と憤る俺の様子に麟太郎は複雑な表情を浮かべた。
「父さんが会社を継いでから最初の方は上手く行ってなかったみたいで、逆に椿家はすぐに業績を伸ばしてたらしいね。当時はどんな感じだったか知らないけど、周りからの評価は良くなかったと思う」
自分が上手く行かない中で一般人の母上は成果を上げ続け、周りの人間には叩かれ。明日見総次郎にとって母上は好きでも嫌いでもある相手で、常に心をかき乱されていたのかもしれない。
もしそれが本当だとしたら、俺の存在なんて視界にも入れたくないのではないか。
「……よく俺達のことを許してもらえたな」
「流石に自分勝手な態度だったって気付いたんでしょ」
麟太郎としては反省したから許してくれたと考えているようだ。ただあの時の奴の顔を思い出すと、麟太郎の幸せを優先したのだと思う。それとも、自分と同じような後悔をして欲しくないとでも思ったのか。まあ考えたって真実は本人にしか分からないし、俺達が気にする意味もない。
これからも様々な問題が降りかかってくるだろう。それを解決する為にも、俺はもっと力をつけなければならない。明日見家との確執が無くなったとしても、まだまだ他の家とは争いが起こるはずだ。
「でも、俺達は恵まれてるんじゃない?」
「え……?」
「結婚してるし、これから会社のことも家のことも二人で考えられるんだよ。協力できる相手が居るって凄く心強いことだよ」
「二人で……」
今までとは違い、これからは麟太郎の存在が日常生活に入り込んでくるのだ。俺の中には無い能天気なポジティブ思考は、俺にとって良い影響をもたらしてくれるような気がする。
「今回の計画だって俺達の共同作業が功を奏したってことじゃん!きっとこれから何が起きても俺達なら大丈夫!」
「お前は楽観的すぎる!」
悔しいが、どんな問題が起ころうともお前のそんなところにずっと救われてしまうのかもしれない、なんて思った。
◇
「はあ……ちょっと休憩」
今日は晴れやかで暖かく、外に出るには丁度良い日だ。しかし俺達は椿家の中で忙しなく動き回っていた。
「おい、俺の部屋で休むな」
麟太郎が本格的に椿家に引っ越してくるということで、朝から引っ越し作業に手間取っていた。こいつの部屋だけ家具の値段が一桁違うのではないか、といった物がどんどん持ち込まれてゾッとする。
「部屋が隣じゃないのは仕方ないとしてもさあ、せめてダブルベッド買おうよ」
「まさか一緒に寝る気か!?寝ないからな!」
椿家に住まわせてもらう分際でわがままにも程があるぞ!まあ今に始まったことでもないし慣れたものだが。
「今日からは更に家が騒がしくなるな……」
「でも賑やかな方が楽しいでしょ?この家は息苦しくなくて良いよね」
俺の心配とは反対に麟太郎は随分と楽しそうだ。あの広い明日見家の方がよっぽど快適な気がするが、椿家に居る方が楽しいなら、それは良いことなのだろう。
「ねえ双樹くん。俺さ、今すっごい幸せだよ」
「……何だ、もう満足なのか?」
「っ!」
いかにも嬉しそうに笑う麟太郎は俺の言葉に何か気付いたようだ。俺の幸せは俺だけが幸せになれば良い訳じゃない。椿家の幸せも、まだまだ足りないのだ。麟太郎は俺の手をぎゅっと握ってきた。
「これからずーっと、もっともっと幸せにするね!」
「ああ、楽しみにしてるよ」
もう一人で頑張らなければ、なんて気負わなくて良いんだ。これからは二人で、隣に並んで幸せを作っていけば良い。そう思えたのは俺にとって幸せの第一歩だった。
「双樹くんのご両親と父さんは同じ大学だったんだって。それからずっと色々あったみたいだけど……」
「そうだったのか!?」
俺は重要な話を何も聞いていないので、詳しいことは麟太郎から聞き出した。まあ初っ端から聞いたことのない話だとは思わなかったが。
「たった数年で椿家を急成長させるような力のある女性なんて放っておけないよね」
母上の商才というのは椿家に入る前から輝かしいものだったらしい。流石は尊敬できる母上なだけある。しかし、それならお互いを高め合うライバルとして関われなかったのだろうか?
「最悪な想像をすると……父さんは多分、双樹くんのお母さんのことが好きだったのかなって」
「えっ?」
「あくまで俺の想像だよ?でも何となくそんな感じがして」
話した時は椿家への憎しみのような圧しか感じなかったし、とても信じられない話だ。それでも麟太郎にはそう思う根拠があるのだろう。そうなると……これは少し嫌な話だな。
「うちは元々婚約者が決まってたようなものだし、ましてや双樹くんのお母さんは一般人だから結ばれる可能性もなかっただろうね」
「それが事実だとして、椿家は理不尽な扱いを受けていただけじゃないか!正式に謝罪して貰わないと!」
俺はまだしも、他の家族も不当な扱いを受ける原因になっているのならとても納得できない。許せん!と憤る俺の様子に麟太郎は複雑な表情を浮かべた。
「父さんが会社を継いでから最初の方は上手く行ってなかったみたいで、逆に椿家はすぐに業績を伸ばしてたらしいね。当時はどんな感じだったか知らないけど、周りからの評価は良くなかったと思う」
自分が上手く行かない中で一般人の母上は成果を上げ続け、周りの人間には叩かれ。明日見総次郎にとって母上は好きでも嫌いでもある相手で、常に心をかき乱されていたのかもしれない。
もしそれが本当だとしたら、俺の存在なんて視界にも入れたくないのではないか。
「……よく俺達のことを許してもらえたな」
「流石に自分勝手な態度だったって気付いたんでしょ」
麟太郎としては反省したから許してくれたと考えているようだ。ただあの時の奴の顔を思い出すと、麟太郎の幸せを優先したのだと思う。それとも、自分と同じような後悔をして欲しくないとでも思ったのか。まあ考えたって真実は本人にしか分からないし、俺達が気にする意味もない。
これからも様々な問題が降りかかってくるだろう。それを解決する為にも、俺はもっと力をつけなければならない。明日見家との確執が無くなったとしても、まだまだ他の家とは争いが起こるはずだ。
「でも、俺達は恵まれてるんじゃない?」
「え……?」
「結婚してるし、これから会社のことも家のことも二人で考えられるんだよ。協力できる相手が居るって凄く心強いことだよ」
「二人で……」
今までとは違い、これからは麟太郎の存在が日常生活に入り込んでくるのだ。俺の中には無い能天気なポジティブ思考は、俺にとって良い影響をもたらしてくれるような気がする。
「今回の計画だって俺達の共同作業が功を奏したってことじゃん!きっとこれから何が起きても俺達なら大丈夫!」
「お前は楽観的すぎる!」
悔しいが、どんな問題が起ころうともお前のそんなところにずっと救われてしまうのかもしれない、なんて思った。
◇
「はあ……ちょっと休憩」
今日は晴れやかで暖かく、外に出るには丁度良い日だ。しかし俺達は椿家の中で忙しなく動き回っていた。
「おい、俺の部屋で休むな」
麟太郎が本格的に椿家に引っ越してくるということで、朝から引っ越し作業に手間取っていた。こいつの部屋だけ家具の値段が一桁違うのではないか、といった物がどんどん持ち込まれてゾッとする。
「部屋が隣じゃないのは仕方ないとしてもさあ、せめてダブルベッド買おうよ」
「まさか一緒に寝る気か!?寝ないからな!」
椿家に住まわせてもらう分際でわがままにも程があるぞ!まあ今に始まったことでもないし慣れたものだが。
「今日からは更に家が騒がしくなるな……」
「でも賑やかな方が楽しいでしょ?この家は息苦しくなくて良いよね」
俺の心配とは反対に麟太郎は随分と楽しそうだ。あの広い明日見家の方がよっぽど快適な気がするが、椿家に居る方が楽しいなら、それは良いことなのだろう。
「ねえ双樹くん。俺さ、今すっごい幸せだよ」
「……何だ、もう満足なのか?」
「っ!」
いかにも嬉しそうに笑う麟太郎は俺の言葉に何か気付いたようだ。俺の幸せは俺だけが幸せになれば良い訳じゃない。椿家の幸せも、まだまだ足りないのだ。麟太郎は俺の手をぎゅっと握ってきた。
「これからずーっと、もっともっと幸せにするね!」
「ああ、楽しみにしてるよ」
もう一人で頑張らなければ、なんて気負わなくて良いんだ。これからは二人で、隣に並んで幸せを作っていけば良い。そう思えたのは俺にとって幸せの第一歩だった。
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