S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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エルフの里編

第三十六話 ひとつの結果

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「スフィアさん!」
「スフィア!」

モニカとエレナが同時に叫び、倒れたスフィアに慌てて駆け寄る。
レインはあまりにも一瞬の出来事に思考が追いつかずその場で膝を着いた。


――――スフィアに駆け寄ったモニカに向かってその胸を穿った閃光が襲い掛かる。


しかし、モニカを目掛けて一直線に飛んで来たいたその光、ただ一人その場で警戒心を抱いていたヨハンが即座にスフィアの剣を手に取り剣身に当て、その光を弾く。


「誰だ!!」

光が放たれた方向を向き叫んだ。
ザッザッと足音が聞こえ、木々の奥から姿を現したその影が次第に明瞭になる。

「…………フフッ、フハハハハハハハハハハハッ!まーさか、アンデット化したジャイアントベアを倒すのがこーんな子供たちとは恐れ入ったーじゃないですかぁ」

「何者だ、お前は!?」

木々の奥からは黒づくめの衣装を身に纏った男が現れた。

「ええ、ええ。あなた達に敬意を評しましょう。私はシトラスといいます。いえ、そんな大した者ではありませんよ。しがないただの研究者です」

シトラスと名乗った男は紳士の所作を用いて一礼する。

「……研究者だって?」
「ええ、つまらない研究をしているだけでーすよ」

ヨハンは警戒心を解かずに訝し気にシトラスを見る。
見た目には研究者に見えないこともないが、研究者がこんなところで何をしているのか。

「シトラスですって!?今あの男、シトラスと名乗りましたか!?」

モニカとともにスフィアの治療にあたっていたエレナがシトラスと名乗った男に視線を送る。

「いえ、しかし……あんな男なはずが…………」

小声で呟いた。

「エレナ、気を逸らさないで!今はスフィアさんの治療が先よ!集中して!!」
「そうですわね、申し訳ありません」

ハッとし、モニカに声を掛けられたエレナはすぐにスフィアの治療を再開して二人がかりでスフィアの治療に全力を注ぐ。

「……ヨハンさん、気を付けてくださいませ」

「うん、わかってる。2人はとにかくスフィアさんをお願い。絶対死なさないで」
「当たり前よ!」

モニカが任せてと言わんばかりに力強く返事をした。

横たわるスフィアを見て悔しさと情けなさが込み上げてくる。今すぐに治療に加わりたいのだが、目の前の男から目を逸らすわけにはいかない。

「それで?お前は一体なんのつもりでこんなことをするんだ!」
「いえいえ、どうもするつもりもあーりませんよ。心血注いで私が造ったジャイアントベアをああいう風に倒されてしまっては私も穏やかでいられなかっただけのことでーす」
「…………私が造った?お前が造ったのか?」
「ええ、あなたたちが倒したジャイアントベアは私の作品であーります。こーんな感じのね」

シトラスと名乗った男が手の平を上に向け黒い光を宿した魔力を練り上げる。シトラスを中心に無数の影が地面に現れ、それぞれの影から無数の獣が姿を現した。


「これは…………こいつらもアンデットか!?」
「そのとーりです。先程申し上げました私の研究はアンデットについてでーす。せっかく苦労して捕まえてアンデット化することに成功した個体の実験がこーんな結果になってしまったのです。当然あなた達にはその責任を取ってもらいまーす」
「ふざけるな!!こんな研究に何の意味があるんだ!」

納得できない。
たったそれだけのことでスフィアさんが傷付けられることになるなんて。

「意味……ですか。あなた達にはそれはわかりませんよ。そーれに、知ったところでどうせここであなた達は死ぬのですから知る必要などあーりません」

シトラスは一瞬だがそれまでのおどけた感じを落とした。しかしすぐにその表情を消し、同じように装った。

「そうか、話し合いは無駄みたいだね。レイン!」
「な、なんだ!?」

突然のことに呆然としていたレインはヨハンに名前を呼ばれ我に返る。

「みんなを連れて離れておいてくれないか!?モニカとエレナはスフィアさんの治療で手が離せない――――頼む!」
「お、おぅ!わ、わかった!任せてくれ!」

レインはモニカ達に駆け寄り、その腕にスフィアを抱きかかえた。そして治療を続けながらヨハン達から距離を取る。

「そーれで?私の相手はあなた一人でするのでしょーうか?」
「あぁ、仕方ないだろ。絶対にあの人を死なすわけにはいかないんだから」
「そーですか、では遠慮なく。あーそうそう、アンデットに対して特定の属性を持たなければ苦労しますよー?あーなた一人ではどうしようもないでしょう?――いきなさいっ!」

シトラスはそう言いながら影から出現させた無数のアンデット化した魔物をヨハンにけしかけた。

獣たちは低い唸り声を発しながらヨハンに飛び掛かっていく。

「――よしっ、こんな感じだな」

スフィアの魔剣ハイスティンガーを手にしたヨハンが何かブツブツ呟いていた。

「ぐぎゃるぅぅぅぅぅぅ」

もう既に前方からは複数の魔物が襲い掛かってくる。


――――刹那の瞬間。

すれ違うように通り抜けたヨハン。背後には襲い掛かった獣型アンデット。
獣たちは声を上げることなく蒸気を発しながら霧散した。

「一撃……だと?な、なーんですか?その剣は!?」

アンデットを霧散させられたシトラスは少し動揺した様子を見せるが、ヨハン自身に対してというよりも、その手に持つ剣に対して。

「この剣は…………魔剣だ。どうやら僕の考えは間違っていなかったようだね」

スフィアの魔剣には先程と同様にアンデット化したジャイアントベアを霧散させた時のように赤とも白ともいえない光を放っていた。

「フフフ、そーですか、そーんな物が存在していましたかー」

シトラスもヨハンの持つ剣を見てアンデットの魔物が簡単に倒された理由を理解する。


「でーすが、知っていますかー?そういった高ランクの魔剣は使用者が限られるはずではありませんか?先程の血を吐ーいて倒れた彼女が所持者であるならばあなたには扱えないと思うのですがねー」

シトラスは魔剣の所有者しかその性能を引き出せないことを知っていた。
例え性能の一部しか引き出していないのだとしても、自身が召喚した魔物は簡単に倒されないことを理解している。

「みたいだね。僕もどうしてここまで使えるのかはわからないけれど、これがアンデットに有効なのは間違いないみたいだ。この火と光の属性の同時使用なら!」
「えぇ。複数の属性を同時に発動させることのできるそーの魔剣は確かに効果的であります。ですが――――」

シトラスが黒く光る手をヨハンに向ける。手の平からは高速の弾丸をヨハンに向けて放たれた。
スフィアの身体を貫いた光と同じ光。

まともに喰らうわけにはいかない。慌てて横っ飛びをして回避する。

「ふーむ、中々に素早いですねぇー。ですが、こーれを躱しながらアンデットの攻撃を防げますかねー?」

シトラスはヨハンに向けて無数の光を放ち、アンデットはヨハンに襲い掛かる。

「さすがにあれを喰らうわけにはいかないな」

ヨハンはスフィアの身体を貫いた黒い光が一番驚異的であると判断して、回避の最優先にする。
シトラスの光弾を躱し続ける。


――――しかし、光に気を取られていると、襲い掛かってくるアンデットの爪の対処が遅れ、徐々に切り傷を負っていく。

「ほーらほら、どうしましたか?もーう楽になっては如何かな?」

「くっ、このままではまずい…………」

なんとかしないと。
何か状況を好転させる手はないのか――――。
後手に回ったなか、反撃に転じられない。

シトラスはヨハンが回避に専念せざるを得ない絶妙な位置に光を放ち続ける。
自身の召喚した獣と絶妙な連携を取る。

「できるかどうかわからないけど、やらなければやられる。…………一か八か、やってみるしかない!」
「なにかする気でーすか?しかーし、今更何ができる」

攻撃を躱し続けながら体内の魔力を感じ取り、身体の中を張り巡らせると次第にヨハンの身体を黄色く光が薄く包み込んでいった。

「――よし!出来た!!これならいける!」

すぐさま反撃に転じる。

「ぬぅ、は、速い」

シトラスの光弾をいなしながら襲い掛かるアンデットを次々と倒していった。
その動きはさっきまでぎりぎりの状態で躱し続けていた時と比べて格段に身体能力が上がっているのは明確にわかる。

ヨハンは魔剣に魔力を通わし続けながら闘気を練ったのであった。
闘気は魔力を体内で変換させたものだが、その性質が異なる。異なる性質を同時に扱うなどといったことはかなり高度な魔力操作の技術と集中力を要する。

「……うぐぅ、な、なんですか、この子?」

これまで余裕の表情を浮かべていたシトラスの表情に焦りが生まれ始める。
シトラスもまた魔法に聡い。目の前でヨハンが行ったことがどれほどのことなのかを理解した。


ザンッと目の前の獣が霧散したかと思えば、シトラスの眼前にはヨハンが一足飛びに迫り来る。

「聞きたい事がいっぱいあるけど、とりあえず眠ってもらうね!」

――――シトラスに向かって魔剣を振りかぶった瞬間。

そこにいたはずのシトラスは自身の影にトプンと飲み込まれ姿を消した。

結果ヨハンの剣は空を切る。

「ど、どこだっ!?」

地面に着地をすると同時に周囲を見渡すのだが、どこにもシトラスの姿が見当たらない。

「すこーし分が悪いようですので、今日はこーこで退かせて頂きまーす。でーは、また機会がありましたら」

暗闇の中でどこかに存在を感じさせながら声だけが響き渡った。

少しの静寂の後、周囲からシトラスの気配が消える。
再び夜の静かな森の気配が漂い始めた。

「――――逃げた……か。…………ふぅ」

周囲の安全を確認し力を抜く。
黄色く光っていた身体もその光を落ち着かせて消えていった。

「――っとと、あ……あれ?」

途端に経験した事のない疲労感に襲い掛かられ、その場で意識を失い倒れ込む。

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