52 / 724
学年末試験編
第五十一話 試験前日
しおりを挟む冒険者学校に入学して一年近くが経とうとしていた。
「ねぇ、本当に校長先生どこにいったのかしら?」
「うん、エルフの里に行く前に会ったのが最後だね」
ガルドフは未だ学校に戻ってきている様子がない。
寮の談話室でいつものように集まって話していた。
「まぁそのうち戻って来るんじゃねぇの?仮に旅に出ていたとしても旅先でおっ死んじまうような人じゃねえしな」
「それもそうですわね。わたくしたちは目の前の試験に集中しますわよ」
ヨハン達一学年は学年末試験を目前にしていた。
試験の成績が悪いからと退学になるということはないのだが、試験の結果次第でギルドへの推薦内容が変わってくる。
冒険者になる学生達はこの成績如何で今後の請け負える依頼内容に差が出てきてしまうため皆真剣に取り組んでいたのであった。
表向きは普通の学生と変わらないヨハン達。
実際はギルド内部での評価は鰻登りのため、ギルド長や受付嬢などから実質一学年時の試験はあるようでないようなものと言われていた。
「けどよ、実際俺達なら余裕なんじゃねぇの?」
「わからないわよ?ガルドフ校長がいないといっても、シェバンニ教頭が私たちに簡単な試験を用意するとはとても思えないわ」
「あー、確かに。あの婆さんなら俺たち用に意地の悪い試験用意してやがるかもしれねぇな」
レインが余裕を見せるのもまた必然。
目標が明確になったレインはその実力をぐんぐん上げ、それは如実に結果として現れていた。
先日は魔法実技テストの時に互角の戦いを繰り広げていたゴンザを相手に短時間で倒してしまっていたのだから。
その勢いはモニカやエレナに迫るほどであり、モニカもエレナもそれを感じたのか、レインに追いつかれまいと必死になっているのはその相乗効果。
一方ゴンザの方はというと、入学当初互角だったレインに差を付けられたことに相当のショックを受けていた。
去り際に苦し紛れの負け惜しみを言うに留まる程度。
そんな中、学年末試験の二日前に試験内容が発表された。
試験は『学校地下ダンジョン最奥に設置してある宝石を各自持ち帰る』という内容だった。
学校の地下は魔素が満たされており、下位の魔物が現れる。
こういった試験の際によく利用され、普段その入り口は結界によって封じられていた。
「地下ダンジョンの宝石……かぁ」
「どうしたの、ヨハン?」
「ううん。説明の時、一切の質問を受け付けなかったじゃない?言われたのは目的と『この一年あなた達が勉強してきたことを実践すればそれで大丈夫です』って」
「そうですわね、明らかに含みのある言い方でしたものね」
「これは色々想定しておかないと結構大変なことになるかもしれないね」
簡単な説明はあったが、詳細の見えない学年末試験。
準備期間も含め、試験前日は休みとなっていた。
一通り話したあとそれぞれ部屋に戻る。
「――ねぇヨハン、もし良かったらだけど、明日買い物に付き合ってくれない?」
振り返りモニカが小さく声を掛けて来た。
「えっ?別にいいよ?」
「じゃあ明日の9時に東地区の門でね!」
待ち合わせ場所を決めてそそくさとモニカは部屋の方に小走りで走っていく。
「いや……別に寮の門で良かったんじゃ?」
どうしてわざわざ外で待ち合わせをする必要があるのかと疑問符を浮かべて不思議に思いながらヨハンは遅れて部屋に戻った。
レインは既にベッドに横になり寛いでいる。
「どうした?遅かったじゃないか?」
「いや、モニカに呼び止められて」
「うん、それで?」
「明日の休日買い物に付き合ってくれってさ」
そこまで聞いたレインはガバッとベッドから勢いよく身体を起こす。
そしてヨハンの方を見た。
「(モニカのやつ、いよいよ踏み切るのか?)」
と考えるが、その後に試験が控えていることもあるのでそんなまさかな、と過ぎた考えだと改める。
「(ただの買い物だろうな)」
考えたことをなかったことにて再びベッドに横になった。
「でね、寮の門で待ち合わせすればいいのに、わざわざ東地区の門で待ち合わせするんだってさ」
ヨハンの言葉を聞いたレインはガタンッと音を立ててベッドから床に転げ落ちる。
「ど、どうしたの!?大丈夫?急にどうしたのさ?」
「(ほんとにこいつは何考えてやがんだ?)」
呆れてものも言えなかった。
「あ、ああ、すまん。ちょっとびっくりしただけだ」
「えっ?何に?」
「――――いや、なんでもない。じゃあ明日も早いだろ?もう寝ろ」
「うん?」
こういうことは当人たちの問題だ。
余計なことをわざわざ言わないに限る。
―――翌日東地区、門前にて。
「お待たせ!」
「あっ、その服とネックレス!」
「えへへ、覚えててくれた?」
「もちろんだよ」
待ち合わせの東地区の門にヨハンから少し遅れてモニカが合流する。
時刻は9時を少し回った頃。
モニカの服装はヨハンが初めてのギルドの報酬でモニカにプレゼントした服。その首には青いネックレスが着飾られており、これもまたヨハンがプレゼントしたもの。
ヨハンがすぐに気付いたことでモニカははにかんで喜ぶ。
そうして二人は待ち合わせた門から中に入り、東地区内を歩いて行く。
「あっ、これすっごい美味しい!」
「どれ?」
「これ、さっき買ったお饅頭、リンゴの味が付いているの」
途中の露店で適度に食べ物を買いながら歩いていた。
「リンゴかぁ。そういえばもうすぐこの街に来て1年になるんだよね」
「うんそうね」
「それにしても1年なんて早いものだよね」
感慨深げに思い返す。
「そうよね。まさかあの時偶然馬車に乗り合わせたヨハンと今こうして一緒にいるんだもんねー」
モニカはヨハンの横顔を見ながら呟いた。
「どうしたの?」
ジッと見られていることで小首を傾げながら問い掛ける。
「ううん。なんでもない。そういえば聞いた?スフィアさん卒業したら王国騎士団に入るみたいよ?」
「みたいだね。まぁでもそれもそうか。お父さんが近衛隊長だもんなー。できればスフィアさんともまた旅をしてみたかったな」
「(っ!しまった、藪蛇だったかも)」
スフィアとの旅を懐かしそうに回想するヨハンを見てモニカは慌ててしまう。
「そ、そうね、けど騎士団に所属すれば簡単にはいかないんじゃないかな?」
「いや、最近知った話なんだけど、意外に大丈夫みたいだよ?すぐには無理かもしれないけど騎士の人たちと共同依頼みたいなのもあるんだって」
「へ、へぇー」
話を変えようにも変わらない。
「(どうしよう話題が逸れないわ)」
何かいい話題がないか周囲を見渡す。
「――あれ?ヨハンとモニカじゃないか?」
「えっ?」
突然後ろから声がした。
振り返ると同じ学年のユーリで周りには三人いる。
三人の内一人がユーリの前に出て来た。
「ヨハンくんだー!」
「――あっ、ちょ……」
と言いながらヨハンの腕に抱きつく。
モニカが止めようとするも間に合わない。
「どうしたの?サナ?」
「ううん、なんでもないよ?いつも通りだよ?」
最近のサナは会うなりだいたいこういった身体的接触をしていた。
笑顔でヨハンに抱き着いたサナは視線の先のモニカをジーっと見る。
モニカもサナの視線には当然気付いており、お互いの視線がバチバチと交わる。
「ヨハン達は二人でどうし――痛っ!何するんだサナ!」
「なんでもないよ!ユーリの馬鹿さ加減に呆れただけ」
ユーリの足を踏みつけ、きつく睨みつけた。
「あっ、そうそうヨハン君?」
「なに?」
「私たち明日の準備で色々と買い物をしていたのだけど、もし良かったらヨハン君達も一緒にどうかな?」
サナは顎に手を当てながら問い掛けてくる。
「あっ、そうなんだ。僕たちもちょうど買いも――痛っ!ってなに!?モニカ!」
突然モニカに脇腹をつねられた。
「ううん、ごめんなさいね。私たちも明日のことでちょっと大事な話があるから!ほんとごめんね!」
再びサナと視線を交差させる。
そこで後ろの二人が口を開いた。
「そっか、残念だな色々と話をしたかったんだが」
「そうね」
ケントとアキだった。
ビーストタイガーの件でヨハンに助けられた二人はヨハン達の救援とモニカの治療がなければ危うかった。
「ごめんね、また時間がある時にいつでも」
そんなに大事な話なんてあったかなと考えるのだが思い当たることはない。
「いや、気にしないでくれ」
「そう?」
「じゃあ明日の試験お互い頑張ろうぜ!」
「うん」
「私たちもあれから本当に必死になって頑張ったわ。あれがなかったらここまで頑張れなかったかもしれない」
「そうなんだ。じゃあお互い頑張ろうね」
結局ユーリ達とは挨拶をほどほどにして別れる。
別れ際、サナが「ちっ」と小さく呟くのに対してモニカは「ふぅ」と安堵していた。
34
あなたにおすすめの小説
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる