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学年末試験編
第五十二話 王都武具店
しおりを挟むユーリ達と別れたヨハンとモニカはそのまま東地区内を歩いて進んでいく。
東地区内は商店が多く立ち並んでおり、そこかしこで客引きが行われていた。
足を止めて品物を眺める住人や冒険者達で賑わっている。
「えっと、そういえば今日は何を買いに来たの?それらしい買い物はまだしていないと思うけど?」
「ええと…………」
モニカは思わず口籠る。
「(そういえば考えてなかったわ)」
ヨハンと出掛けることが目的であったので買い物の内容までは考えていなかった。
そこで先程会ったサナ達を思い出す。
「そ、そうよ!明日の試験のために武具を新調しようと思って!」
「えっ?試験前日に?」
「べ、別にいいじゃない!」
「それはいいけど。まぁ僕も色々な武器を見れると楽しいしね」
急遽目的地を武具屋にした。
武具屋があるのは今居る東地区で、冒険者がよく立ち寄るという店を目指して歩く。
割とすぐにその店に着いた。
武具屋の看板にはいつかの英雄だろうか、人間と竜が対峙している絵が描かれており、店の名前の『ファランクス』と書かれている。
その店は王都で一番と評判の武具屋。
中に入ると多くの冒険者が剣や皮手袋などをああでもないこうでもないと言いながら見繕っていた。
冒険者達は子供のヨハンとモニカを見ても少し視線を送る程度で特に気にしてはいない。ここが王都で冒険者学校が在るのだからこういった子供の姿はよく見かけていた。
店内でヨハンとモニカは各々好きに武器を見て回る。
「へぇ、やっぱり色んな武器があるなー」
武器の良し悪しの詳細は具体的にはよくわからないが、見れば感覚的にだが大体の序列になるかぐらいはわかった。
「(う……ん?えっと、ここって確か王都で一番の武器屋なんだよね?)」
一通り見て回るがめぼしい武器は見当たらない。
どう見ても今自分が持っている剣よりも良さそうな剣がなかった。
それもそのはず。
ヨハンが持っている剣は父アトムより持たされた剣。普通の剣では明らかに見劣りするのも当然。
それでもピンキリではあるが、この武器屋に置かれている中にはしっかりと業物の剣も並べられている。
ただヨハンの持っている剣より良さそうな剣がないだけ。
そんな中、ふと視界の奥に一本の剣が目に入ってきた。
「あれ?あの剣――――」
ヨハンは目に留まった剣に近寄り手に取る。
なんとなく気になっただけなのに、その剣はひどく手に馴染んだ。
「でもこの売り場は」
キョロキョロと周囲に目を向ける。
店内の売り場はある程度の区画に分けられていた。
腕の良い名のある鍛冶師は専用の区画が設けられている中、ヨハンが手にしたのは雑多に並べられた名も無い鍛冶師達の中の1つ。
「――どう?何か良いのあった?」
そこにモニカがやってきた。
「うん、この剣なんだけど、モニカはどう思う?」
モニカに剣を見せて手渡すと、剣を手にしたモニカは「ふぅん」と一言発し、ビュンと軽く一振りする。
「へぇ。良い剣ねこれ」
「やっぱりモニカもそう思う?これ、ここに無造作に置かれていたんだ」
剣が置かれていた場所を指差した。
「えっ!?ここ?本当に!?」
モニカも先程のヨハン同様に周囲を見渡す。
「この剣より良い剣が他に何本あるっていうのよ?」
「だよね」
ただ目利きが足りないだけなのだろうかと思案気になる。
「それはちょっと気になるわね。ここにあるってことはたぶんこの剣を打った鍛冶師は王都内にいるはずよ。私ちょっと聞いてくる!」
モニカは足早に店の人間を探しに行った。
「……モニカ、遅いなぁ」
「――お待たせ」
しばらくの間帰って来なかったのだが、モニカは戻って来るなり「わかったわ!」と言う。
モニカが店員に聞いたところ、その剣を打った鍛冶師は北地区の城壁街の隅の小さな鍛冶屋とのこと。
「そこに行ってみる?」
「もちろん」
二人ともどういう人物がこの剣を打ったのか気になった。
その剣をどうしようかと思ったのだが、値札には銀貨5枚と書かれて武器としては比較的安価であったため、購入して持って行くことにする。
そうしてまっすぐ北地区を目指し歩いて行く。
北地区に着くと、そこは東地区とは違い、街の様子が見てすぐにわかるほど変わった。
北地区は住宅街が多く、王都の多くの住人がそこに住んでいて、子供らが走り回っている姿も見られる。
その中の外側にある外壁街に行くと徐々に陰が差す街並みに変わっていった。
王都は基本的には中央に近付く家ほど裕福な家が多い。
さらに奥に入っていくと、屋根から煙突が伸びている家が見えてきた。
「あっ!あそこじゃないかな?」
「こんな辺鄙なところにある鍛冶屋があの剣を?」
家の前に着くと、カーンカーンと中から鉄を打つ音が聞こえてくる。
すぐ脇には『ドルドの鍛冶屋』と書かれていた。
「――すいませーん」
外から声を掛けるが、聞こえていないのか返事がない。
ドアに手を掛けると鍵は掛かっていなく、そっと開けてみる。
「すいませーん!どなたかいますかー?」
鉄を打つ音が聞こえるので誰かはいるはずだ。
仲には鍛冶場が見えて、そこには黒髪で髪の毛がボサボサの男が座っている。
反応がなく、手元に集中している様子だ。
「――あのー?」
突然後ろから声が聞こえる。
「えっ?」
慌てて振り返ると、そこには茶色い髪のそばかすがある女の子がいた。
背はモニカより少し低いぐらい。
「あっ、すいません。僕らここの鍛冶屋にちょっと用があって来たんだけど……えっと、君はここの娘さん?」
「んーん。うちはここで修行している鍛冶師見習いだね」
「あなたみたいな子がここで?」
この家の子でもないこんなに小さな子が、と驚き戸惑ってしまう。
「むっ!?きみきみぃ?うちのことを子って言うけどな、うちはこれでも18歳だよ?もう立派な大人の女性さ」
「えっ!?あっ、ごめんなさい」
モニカは慌てて頭を下げて謝罪をするのだが、上目で見るその姿を見て信じられなかった。
「それで?あなたたちは学生さんかな?わざわざデートでこんなとこに来ないよね?どうしてここに来たの?」
「(デートだなんてそんな)」
モニカは頬に手を当て赤らめるのだが、ヨハンは特に気にしていない。
「はい、僕たちは東地区の武器屋で気になる剣を見つけて、それがここで打たれたものだって聞いから来ました」
気にも留めず東地区で見つけた剣を女性に見せながら訪問の理由を説明する。
「えっ!?この剣をあなた達が見つけたの!?うそ!?ほんとに?」
明らかに女性は剣を見せられ驚いていた。
不思議に思いながらも小さく首肯しながらそれを肯定する。
「うーん……そっかぁ…………どうなんだろうなー。うーん、まぁいいや。とりあえず入って。うちはミライっていうの。おーい、お師さーん!お客だぞー!」
女性は名乗りながら中に入るように促す。
「おーい!お師さんってば!」
ミライが近くに行き、師と呼ぶ黒髪ぼさぼさ頭の男を何度も呼ぶが全く反応が返って来ない。
パチンと小さな破裂音が響いた。
ミライがボサボサ頭の男の頭を叩いていた音。
「――ん?」
そこで初めてボサボサ頭の男はミライに気付いた様子で振り返る。
「おお、ミライ。お帰り。ん?そっちの子供達は何だ?」
ボサボサ頭の男は叩かれたことを意に介さずお帰りと言い、そこでヨハン達にも気付いて訝しげな顔をした。
「いや、それがさぁ、この子達が武器屋でお師さんの剣を見つけたって言うからさ。信じらんねぇけどとりあえず入ってもらった」
「ん?儂の剣?」
ミライはボサボサ頭の男にヨハン達が師の剣を持って来たことを伝える。
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