S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
54 / 724
学年末試験編

第五十三話 鍛冶師ドルド(前編)

しおりを挟む

ミライに案内され、鍛冶場の横に置いてある椅子に腰掛けた。

少し後に先程のボサボサ頭の男は顔を洗ってきた様子でさっぱりした様子を見せながら目の前に座る。

「それで、儂の剣を見つけてきたって?どこで?どっちが?」

ボサボサ頭の男に訝し気に見られた。

「えっと、僕が先に見つけました。東地区のファランクスという武器屋です。そこに他の剣と同じように無造作に置かれていたので」
「ほう、それで何故その剣を手に取った?」

剣を手に入れた経緯を話すと、さらに質問をされる。

「どうして?うーん、どうしてって言われても、明らかにこの剣は他の剣よりも硬度が高く見えました。それに実際に手に持ってみても、この剣はひどく手に馴染みます」
「そうよね。これだけがあの無造作に置かれていた中でも明らかに良い剣なのに他の飾られている業物の剣と同じように扱われていなかったから気になって聞きに来たのよ」
「ほうほう、そちらのお嬢ちゃんもこの剣を良い剣というか」
「違うの?」

モニカが疑問符を浮かべて確認すると、ボサボサ頭の男は薄く微笑んだ。

「いや、間違ってはいない。確かにこの剣はこの儂ドルドが打ったもので、あの店に置かれているほとんどの剣より良いと断言できる。だが、そんなことはどうでもいい。気になるのはそれを手にしたのがお主等の様な子供達だということだ」

ぼさぼさ頭の男はドルドと名乗る。
ドルドが言うのは一体どういうことなのか。

「にわかには信じられないが、こんな子達に剣の目利きができおるとはの」

ドルドは尚も鋭い目つきで見定めるようにヨハン達を見る。

「それで、どうしてこの剣はあんな所に置かれていたのでしょうか?」
「ふむ、それに答える前にちょっと外に来てくれんか?」

ヨハンとモニカはお互い顔を見わせるのだが、ドルドの言葉の意味がわからない。
そのまま家の庭に連れられた。



庭はそれなりの広さがあり、そこには一本の巻藁が立てられている。

「ほれ、この剣であの巻藁を斬ってくれんか?」

ドルドが先程とは別の剣をモニカに差し出した。

「えっ!?この剣で?」
「……これって」

モニカが驚くのも無理もない。
差し出された剣は誰がどうみても鈍らだった。

「そんな剣ではできんか?」
「…………」

ドルドが小さく溜め息を吐く。

「いえ、できるわよ?」
「ぬっ?」

モニカはスタスタと巻藁に向かって歩いて行き、シュッと素早く剣を振るう。
その仕草はほとんど無駄のない綺麗な動作。

巻藁はスパンと鋭い音を立てて綺麗に斬られ、トスンと地面に落ちた。

「なんと!?」

ドルドはモニカがあっさりやってのけたことで目を丸くする。
「これでいいわよね?それで?これがどうしたの?」

振り返り小首を傾げるモニカ。

「お、おい!ミライ!あれを持ってきてくれ!」
「あーい」

するとすぐにミライに何か持ってくるように指示をする。


「――んしょ、んしょ」

数分待ち、ミライは先程と同じような巻藁を持ってきて、モニカが斬った巻藁の横に立てた。

「次はこれを斬ってくれんか?」
「えっ?同じの?どうして?」

モニカは意味がわからない。
また巻藁かと思い、溜め息を吐きながら巻藁に向かおうとする。

「――いや、モニカ。ちょっと待って」
「どうしたの?」

ヨハンはどこか違和感を覚えた。
ふと疑問が浮かぶ。

「(さっきのミライさん、やたら重そうに持ってなかった?)」

どこかおかしい。
先程のミライが巻藁を持って来た時の様子を思い返す。

「ごめん、次は僕にさせてもらってもいい?」
「えっ?別にいいけど?」

モニカはどうしたのかと疑問符を浮かべながら剣をヨハンに手渡した。

「ほっ、次はそっちの小僧がするか。見物だな」

ドルドはどこか嫌らしい笑みを浮かべ、ヨハンの動向を見守る。

巻藁の前に立ったヨハンは小さく息を吐いた。
真っ直ぐに巻藁を見る。

「(たぶん、普通に剣を振ったところで剣が折れるだけなんだろうな。となるとアレを使ってしか切れないだろうな…………)」

ゆっくりと剣を振り上げ、上段に構えた。

「(なんだ、あいつ?やたらと雰囲気を感じるな。それにどこか奴の気配を感じさせる)」

目を閉じて深呼吸をした次の瞬間には素早く振り切る。
その手にうっすら黄色い光を灯しながら。


――――シュッ――ドスン……。

鋭い風切り音を上げて巻藁はスパッと綺麗に斬られて地面に落ちた。

「あわわわわ…………」

ドルドは慌てふためくのだが、モニカはその巻藁を見て憤慨する。

「あっ!なにこれ!ずるっ!っていうかミライさんこんなのよく持って来れましたね」
「えっへん、鍛えてますから!」

巻藁の中には鉄柱が仕込まれていた。

ドルドがぽかんと口を開けて呆ける中、ミライは小さな胸を張っていた。

「えっと、ドルドさん、これでいいですよね?」
「…………」
「ドルドさん?」

ミライはヨハンの声に瞬き一つしない様子のドルドを見て、近くに立て掛けていた小さなハンマーを手に持ち、ドルドの背後に立つ。

ゴツンと鈍い音を立てた。

「――ッたぁ…………」
「お師さん、しっかりしてください」

ドルドは頭を抱えて地面にしゃがみ込む。
その様子を見ていたヨハンとモニカは共に似た感想を抱いた。

「(うわー、いたそうだなぁ)」
「(ミライさん、結構容赦ないわね)」

ドルドは頭を擦りながら立ち上がりヨハン達を見る。

「――つぅう、たたた。お前さんらの実力はよくわかった。中で話そうか」

そうして家の中に再び招き入れられた。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

処理中です...