S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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水面下の陰謀編

第八十五話 依頼の行方

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「――結論から言おう」

ドルドの口元に視線が集まる。

「これを修復することは無理じゃな」

「あっ……そうなんだ」

ドルドに不可能と言われたことでモニカは申し訳なさそうにエレナを横目に見て、エレナもモニカの視線の意図を理解して、仕方ないと小さく左右に首を振った。

「――――じゃが、これは貴重な素材、アダマンタイトを用いておるな。それを元にすれば修復というわけではないが、形を同じようにして新しく打ち直すことはできなくもないな」

「えっ!?」

モニカがすぐさまドルドの顔を見てパッと表情を明るくさせる。

「じゃ、じゃあ!それならどう!?エレナ!」

そこで再びエレナの顔を真っ直ぐに見た。

「うーん、そうですわね。どこに持って行っても修復不可能と言われていますし、材料を同じにして打ち直すという話はどこにも提案されませんでしたし、それなら……」

僅かにだがどうしようかと考える。

「(腕が良いというのはどうやら本当かもしれませんわね。これだけボロボロの状態でアダマンタイトを見抜いてかつ同じように打てると断言するのですから。それに――――)」

そう考えるのも、ドルドが見た目で原材料を特定した目に感心を示す。
そうして周囲を見渡す限り、無造作に立て掛けられているドルドが打ったらしき武具は、適当に置かれているにも関わらずそれなりの存在感を持っているのだから。

「ドルドさん。この武器の打ち直し、お願いできませんか?薙刀のような特殊な形状の武具を打てる腕の良い鍛冶師が他にいませんので」

エレナは小さく笑いかけながらドルドの薙刀の打ち直しを要請する。

「確かに、儂以外にこれと同等の武具を打てる者となると世界広しと言えどかなり限られるからのぉ」

「では――――」

話がまとまったとばかりにエレナはモニカと顔を見合わせ、モニカも笑顔になった。

「――だが、断る!」

「「えっ!?」」

ドルドはエレナの頼みをはっきりと断ったのであった。

横に座り、ただ話を聞いていたヨハンも驚く。

それもそうだった。
この前に来た時はヨハンとモニカのその力に惚れ込み、卒業後の話になるのだが今後武器を打たせて欲しいとドルドはヨハン達に言ったのだから。

「えっと、ドルドさん――」

どうしてなのだろうかと問いかけようとしたのだが、先にドルドの方が口を開く。

「おい、ぬし等はこの間の儂の話をどういうつもりで聞いておったのだ? えぇ?」

ドルドは上目遣いにヨハンとモニカを睨みつけた。
その表情からは怒っているような様子が窺える。

そして言葉を続けた。

「儂は前にお主たちに言ったよの?ここでひっそりと鍛冶の腕を磨いているということを?」

「まぁ……はい」
「……そうね、確かにそう言っていたわね」

「うむ。わかれば良い」

聞いていない話ではない。
ドルドの過去を聞いた時にそう言われていた。

「で、でも!」

尚も食い下がろうとするモニカの言葉の途中にドルドが言葉を差しこむ。

「儂の邪魔になるような余計な荷物を持ってくるな!」

突然声を荒げられたことでモニカは言葉を詰まらせた。

思い返せば確かにそう聞いている。ドルドはそれが嫌で元居た国を出たのだから。

元居た国では、ドルドの打った武具を多くの戦士や剣士が欲したのだと。
国を出る程嫌気を差したのだから、それは相当数いたのだろうということは容易に想像ができる。

そして、ヨハン達には『いつか冒険者になって貴重な素材を見つけたら』とも言っていたのだから。

ドルドの目標はあくまでも伝説上の武器に並ぶ、欲を言えばそれらを上回る武器を打つことだった。

決して普通の武器を打つためではない。

「フンッ、お主等には少々がっかりしたわ。この分では主等が貴重な素材を持って来ることなどといったことは到底適わぬかもしれぬな。さぁこれ以上は儂のことを口外するでないぞ。無論後ろの小僧どももじゃ。わかったなら帰った帰った」

ドルドは立ち上がり、手で払い除けてモニカ達を邪険に扱い追い出そうとする。

「(少々キツイ物言いになったが、甘やかしてつけ上がられてもかなわんしの)」

本来ならドルドも多少はエレナの武器を打っても良いと考えてはいた。
アダマンタイトは貴重であったし、薙刀を打つことに興味も少しばかりある。

だが、あまり軽々しく安易に請け負ってしまうと以前の二の舞になってしまう恐れもあるのだから、そういったことには慎重にならざるを得ないのだった。

「……モニカ」

ヨハンはモニカを見るのだが、その表情は悔しさが込み上げている。

「しょうがないよ。確かに僕たちがちょっとドルドさんの事情を考えてなかったんだから」

「う……ん。確かにそうね。ドルドさんは貴重な素材を持って来いって言っていたもんね」

ヨハンに宥められ渋々納得しようとするのだが、そこでモニカはバンっと両手の平で机を叩いた。

「――なんじゃビックリしたの」

「ドルドさん!お願いします!」

ドルドは背を向けていたところを振り返り音の下、モニカを見ると、モニカは机に頭を下げている。

「ちょ、ちょっとモニカ!そこまでしなくても良いですわよ!」
「でも!このままじゃエレナの武器が!」

「――ぐっ、そ、そんなことをしてもどうにもならんわ!前に言った通り卒業して一人前になってからもう一度来るがいい」

ドルドはグッと胸の辺りに心苦しさを感じながらも気持ちを振り払うように再び背を向けた。

「もういいじゃねぇかよ。ここまでお願いしても取り合ってもらえないんだからよ」
「そうですよ、お姉ちゃんがこんなにお願いしてもダメって言う人なんてどうでもいいじゃない」

「……モニカ」

レインとニーナは部屋を出て行こうとしている。
ヨハンも立ち上がり、どう声を掛けたらいいのか悩むのだが、立ち上がったエレナがそっとモニカの肩を叩いた。

「ありがとうございますわ。モニカがここまでしてくれたことをわたくしは嬉しく思っていますわよ。他を当たりましょう」

「……エレナ……ごめんね」

ゆっくりと顔を上げるモニカはエレナに申し訳なさそうな顔を向ける。

カタンと小さく音を立て椅子を引いて立ち上がった。

「ドルドさん、突然お邪魔してごめんなさい」

「そうだな。次に来る時は魔石なり貴重な鉱石なり持って来るんだな」

「……わかりました」

仕方ない、また別の方法を探そうと思いモニカも部屋のドアに向かって歩き出す。

「……魔石……ですか?」

薙刀を布でくるんでモニカから遅れてドアに向かっていたエレナはそこで立ち止まり小さく呟いた。
そして考え込みながらゆっくりと鞄に手を入れ、手の平に青く光る大きな魔石を取り出す。

ドルドは振り返り、部屋を出て行こうとするモニカ達を見届けようとするのだが、立ち止まったエレナを見て首を傾げた。

「どうした?何か忘れ物か?」

「そうですわね。今のわたくしにとって貴重な魔石と云えば、この『サイクロプスの魔石』しか手元にありませんものね」

エレナはサイクロプスの魔石をジックリと見つめながら再び鞄にしまい歩を進める。

「お、おい!ちょっと待て!」

そのエレナの手元を目で追っていたドルドは途端に目の色を変え、慌ててエレナを追いかけた。

「えっ!?」

ドルドがエレナに追い付き肩を掴むと、どうして止められたのかわからないエレナは困惑する。
目の前には驚愕の表情を浮かべているドルドがいるのだから。

「お、おい! おいっ! お主よッ! それは、それは! 真にサイクロプスの魔石か!?何故お主がサイクロプスの魔石を持っておる!? ちょ、ちょっともう一度見せてもらえぬか!?」

矢継ぎ早にエレナに言葉を浴びせるドルドはひどく興奮した様子で、エレナが先程少しだけ手に取り出した魔石を見たいと懇願する。

ドルドの取り乱した様子を見たエレナは数瞬考え、理解した。
そこで薄っすらと口角を上げてニヤリと微笑む。

「えっ?わたくしは帰れと言われましたのでもう帰りますわよ?」

と言い、部屋の外へと向かう玄関口へと歩いて行こうとした。


「――えっと、これどういうこと?」
「さぁ?」

モニカの疑問にレインは答えられない。

「お兄ちゃん、あのオジサンなんでエレナさんの肩を掴んで引っ張られているの?」
「……なんでだろうね」

ヨハン達の目の前では背を向け歩いているエレナがいて、ドルドは背後からその両肩を掴んでいるのだが、エレナは立ち止まることなく歩き続けている。

「後生だ!後生だ!少しでいいから!さっき見せた魔石をもう一度見せてくれないか!」

と言ってエレナに懇願していた。

「いいえ。わたくしは帰りますわよ?モニカがあれほどお願いしたのにも関わらずあなたはわたくし達を追い払ったではありませんか。そんなあなたに見せる物はありませんわよ?」

ドルドに向かって冷たく言い放つエレナ。

「そんなことは言わんでおくれ!お願いだ!なんでも言うことを聞くから!」

涙目になりエレナに声を掛け続けるドルド。

「(あっ、これさっきの仕返しね)」
「(うわぁ、黒いエレナさんが出てるよー。怖えぇ)」
「(うーん、こうなるとただの意地悪だね)」

「お師さん、嘆かわしいっス」

「なんでさっきと立場が入れ替わってるの?」

ニーナだけはそのやりとりをわけもわからず見ているのだが、ヨハン達は苦笑いしながら見ていた。

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