S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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水面下の陰謀編

第八十八話 陰謀

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「オルフォード、貴様はこの笛をどこで手に入れた?もう一度話せ」

「くどいですね、あなたも」

牢の中のオルフォードに問い詰めるように問い掛けるジャンなのだが、溜め息を吐きながら嘆息しているオルフォード。

「先日話した通り、それは頂いたのですよ。シトラスと名乗る男に」

「シトラスだって!?」
「しっ、黙って!」

レインが声を上げる瞬間にエレナが即座に制止することでかろうじて声は響くことがなく、僅かに視線を集める程度に留まる。
だが、レインだけでなく、ヨハン達もみなシトラスの名前を聞いた途端にそれぞれピクリと反応を示していた。

思わぬところで思わぬ人物の名が出て来たことで、ジャンとオルフォードのやり取りを、固唾を飲んで見守る。

「そのシトラスという者は何者だ? 正直に話すなら今だぞ? 内容次第では減刑も考えてやろう」

「ありがたい提案ですが残念ながらそれには答えられませんね。いえ、正確には答えることが出来ないという方が正しいですね」

「それはつまり、シトラスのことを貴様は何も知らないということでいいんだな?」

「ええ、その通りです。私がその笛を手に入れたのは偶然ですよ」

そうしてオルフォードが話したのは笛を手に入れた経緯について。

一月前、オルフォードが夜道を歩いているところに突然その男が姿を現したのだという。
警戒心を抱いて会話をしたのだが、黒いローブを着たその男、シトラスと名乗ったその男は、オルフォードにある提案を持ち掛けて来た。

その提案が、自身が作ったというその笛の魔道具の実験をして欲しいということ。

最初は当然そんな素性のわからない怪しい者が持ち込んできたモノなど信用ができないので断ったのだが、シトラスはオルフォードの野心を見抜いて言葉にしていった。

元々秘めたる野心のあったオルフォードは平時からそれを悟られないように取り繕っていたのだが、シトラスはオルフォードの野心を見透かしているかのように全て言葉にしていったのだという。

そうして渡されたのがその笛。
オルフォード自身も悩んだのだが、結果的にそれを受け取った。

その笛の効力を信じてはいなかったのだが、元々繋がりのあった今回の人攫い集団の根城を魔素の充満していた廃坑に変えて、本当に魔素を取り込むことができるのかどうかを内々に確認していたのだという。

仮に魔素を取り込むことができなかったとしても、魔素によって発生した魔物の被害に遭うのは人攫い集団たち。自身に対する実害は一切ないと判断してのこと。

だが、実際に魔素が減少して魔物の発生率を下げることに成功した。
そしてそうなるとその笛の効力が本当のところどうなのかということが気になるのだが、その頃には確信的にそれが魔物を生み出せるというのは何故か断言出来たのだという。

いつ、どの場面で試そうかと考えていたところにヨハン達が現れ踏み込まれた結果が今回の経緯。


「――じゃあやっぱり、魔物が少なかった原因ってその笛にあったんですね」

オルフォードの話を聞き終え、場所を変えて話すのは一階の詰所。

そうして思い出すのは廃鉱調査に乗り出した時の違和感。
鉱山を廃坑にするぐらい魔物が発生していたという割にはその数の少なさ。

話に聞いたことの全てが真実であるのならそれにも納得ができる。

「なんじゃ?わっしの解析を信用しとらんのか?」

「い、いえ、そういうわけじゃないんですけど、信じていいものかどうか」
「ですが、サイクロプスの出現がそれを真実と告げていますわ」

それを真実たらしめるのは、サイクロプスが召喚されたということ。
通常ならありえないサイクロプスの出現が、魔素を取り込んだその笛の魔道具によるものだとすれば納得ができる。

「となると、あとはそれを渡してきたのがシトラスってとこが問題だよなぁ」
「ええ。前にアンデットを召喚したあいつよね。次に会った時はもう逃げないんだから」

同時に思い出すのは一学年時の出来事。
モニカ達が当時を思い出し、悔しさを噛み締めるのは自分達の力不足を実感したこと。
そしてそれはジャンも他人事ではないのは愛娘を傷つけられたことなのだが、それはおくびにも出さずに口を開く。

「それについては王国としても本格的に調査に乗り出すことをローファス王が決断された」

「王様が?」

「うむ。今回は未然に防ぐことができたとはいえ、このようなモノがあるとなれば今後王国の脅威になりかねないと判断されたのだ」

「だよなぁ。あんなサイクロプスみたいのが何体も出てきたらやってらんねぇぜ」

机に項垂れながらレインが遠くを見つめていた。

「それで?どういう調査をする予定ですの?」

「はい、エレナ様。 まずは笛の特性上、魔素が溜まっている場所から重点的に調査をしていく予定になっています」

「あっ、なるほど。魔素が溜まってるってことはその道具が使えるってことになるんですね!」

「その通りだ。だが、途方もない範囲になるので結果がでるのがいつになるのか見当もつかないがな」

広い王国内。
本来、魔素が充満している場所を巡るだけでも魔物の発生や意識障害などの危険が付きまとう。だが、その調査に至ってはそれだけでなく、あるかどうかもわからない魔道具による危険性も考慮しながら行っていくなど途轍もない作業量になる。

「わたくし達を同席させたのはそれを伝えるだけではありませんわよね?」

「はい。エレナ様たちが以前遭遇したシトラスと今回のシトラス、引いては魔道具のこと、どう思われますか?」

問い掛けの内容にそれぞれ共通の見解を抱いた。

「……恐らく、同一人物の仕業かと」

考え込みながら口にするエレナ。顔を見合わせ小さく頷く。

「やはり」

「僕たちは何をすればいいのでしょうか?」

「いや、お前たちはこれまで通り学生生活を送ってくれればいい。今のところ特別何かをしてもらうということはない。だが、もし何か情報があるようならもちろん協力を願うのはエレナ様もいることだし頼む必要もない話だな。それに今回のようにいつ依頼をだすとも限らん」

「わかりました。じゃあ僕たちもわかる範囲で色々と調べておきますね」

「ああ、頼む」

そうしてジャンとメッサーナとはそこで別れ、帰路に着く。
メッサーナからは機会があれば魔道具の研究の手伝いをして欲しいと頼まれるのだが返事は保留にしていたのは、どこかメッサーナの息遣いが荒かったから。微妙に退いてしまった。

そうしてメッサーナからの言葉を受けて思い出し、帰りながら考える。

「(研究、か…………。シトラスはあの時、確かに研究をしているって言っていた)」

そのシトラスが何をどう研究しているのかなど現状知る由もない。わかっているのはアンデットを生み出したことと魔素を使って魔物を生み出したこと。共通しているのは共に魔物を生み出したということ。
そんな魔道具を使って何をしようとしているのか、それがどんな結果を生み出すことになるのか。わからないことだらけである。

「(魔素が魔物を生み出すことに関係があるのかな?)」

「そんなに難しく考えなくとも大丈夫ですわよ」

「えっ?エレナ?」

思考を深く巡らせているところに目の前にエレナの顔が覗き込んできた。

「もし、仮にシトラスが何か企んでいたとしましても王国はそんなに簡単にひっくり返りませんわ」

ニコッと微笑むエレナの顔を見てどこか安心する。

「……そっか、そうだね。ごめんねエレナ」
「いいえ、むしろこちらがお礼を言わせて下さいませ」
「えっ?」

「ヨハンさんのおかげで今回助かりましたので、王女としてお礼を申し上げますわ」
「エ、エレナ!?」

そっと静かに手を握られることに思わずドキドキとしてしまうのだが、その手はすぐに離された。

「あー!ちょっとエレナ何してるのよ!」
「なんでもありませんわよ?」
「うそっ!絶対今何かしていたでしょ?」
「何もしていませんってば」

振り向いてモニカに問い詰められながら前を歩いて行くエレナの後ろ姿を見ながら考える。
先程繋がれた手を、手の平をジッと見る。

「(そっか、エレナは色んなことをあの手の中に抱えているんだね)」

先程得た感触。
女の子らしい柔らかさであり、そして温かであったその小さな手の中に抱えているものが自分とは比較にならない程に大きなものだと感じた。

そう思うと、何かエレナの為にしてあげたい。できることはなんだって手伝ってあげたい。

「――レイン」
「ん?なんだよ?」

「僕たちもできることは精一杯やろうね!」
「お、おう!って、どうしたんだよ突然?」

「ううん。ちょっとそう思っただけ」
「……意味わかんね」

例え手が届かないことがあったとしても、目の前に起きる問題、手が届くことがある限り一つ一つ出来る限りやっていこうと誓った。

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