S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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帰郷編

第 百六話 叱責(後編)

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「まず私があなた達へ一番始めに確認したことが抜け落ちていますよ」

呆れた様子で溜め息を吐きながら言葉にしていくシェバンニは俯いて小さく首を振る。

しかし、ヨハン達がお互いに顔を見合わせて無言で確認し合っても、誰も思い当たることがなかった。

「しょうがないなぁ、お姉さんがヒントをあげようかな?」
「お姉さんよりもおばさんでしょうが。いつまで若いつもりでいるのですか」
「えー?いいじゃない。わたしもまだ若いわよ。ねぇモニカちゃん?」

「えっ?いや……そうね――」

ヘレンがプロポーションを自慢するように笑顔でモニカ達に声を掛けるのだがモニカは確かに見た目が若いとは思うものの母親なので苦笑いをすることしか出来ない。

「もうっ、つれないなぁ。 もういいわよ」

明らかに一人だけ緊張感に欠ける口調で話しており、そのまま言葉を続ける。

「えっとね、たぶん先生が言いたかったのって、結果がどうこうとかじゃないのよねぇ」
「ええ。その通りです。結果はあくまでも行動を起こした後に付いて来る結果論でしかありません」

ヘレンの言葉にシェバンニが深く頷いた。

「結果じゃないって……だったら――――」

なんのことなのだろうかとモニカは疑問符を浮かべながら首を傾げる。

「で、付け加えると、先生は最初からあの先輩冒険者達よりあなた達の方が圧倒的に強いってこともわかっていたわけよ」
「そうですね」

「(まぁ、そりゃあそうだろうとは俺も最初からそう思ってたけど?)」

尚も相槌を打つシェバンニは納得の表情を浮かべていた。それが示すのはヘレンの言葉がシェバンニの意図と合致しているということ。
レインは何故シェバンニが納得しているのか全く理解できない。

「今回の件や他に何かが偶然問題が起きたとしてもよ?あなた達がそれに対して動きを取った。そのことについてもたぶん怒ってないと思うのよ」
「いいえ、そこが少し怒っています。ですが、関係はありますけど厳密にはそこが問題というわけではありませんね」

シェバンニがムッとするところでヘレンは苦笑いをするのだが、ヨハンが考えていたのはここの部分に対して。
しかしそれも違うのだという。

「ま、まあそれはいいとして。となると、怒られる原因になりそうなのは?」

一向に考えがまとまらないのだが、エレナが考え込みながら一つずつヘレンの言葉を繰り返し言葉にしていった。

「わたくし達が動いた結果に対して怒られているわけではなくて、ヤンセンさん達よりもわたくし達の方が戦力的には上だと最初から判断されていた…………。動いたことも直接的な原因ではないけど関係はある…………。 なるほど、そうなると確かにわたくし達は先生の言葉に反していましたわね」

エレナが一人で納得して小さく溜め息を吐くのだが全くわからない。

「ちょ、ちょっとエレナ、一人で納得してないで教えてよ!」
「いいえ、これは自分で気付かないといけないことですわ。わたくしからのヒントとしましては…………そうですわね、レインを見ればわかるかもしれませんわよ?」

「お、俺?」

全く身に覚えのないところで突然名指しされ、レインは自分で自分を指差す。
ヨハンとモニカの二人してレインを見て少し考えた。

「――――あっ、そういうことか……」

数秒の時間を空けてヨハンが声を上げるのだが、続けてモニカもハッとなる。

「私もわかったわ。確かにそういうところあったかもしれない――――ううん。違うわ。実際あったわね」
「……僕も、あったと思う」

「お、おい!俺にもわかるように教えてくれって!俺がなんだってんだ!?」

一人だけ理解できないレインは焦りが生じていた。

「えっとね、レインはシトラスやヴァンパイアとは戦っていないよね」
「まぁそりゃあな」

何を当たり前のことを言ってんだと、だからなんだというのだとばかりにレインは腕を組んで首を傾げる。

「でも、僕たちもヘレンさんがいたからこそ事なきを得られたんだ。ヘレンさんがいなければどうなっていたかもわからない」
「ま、まぁ、そりゃあなぁ」

過去に見たシトラスに衝撃を受けた。忘れるはずがない。
ヨハン達と合流して話を聞いたあとに、シトラスに遭遇したのがこっちじゃなくて良かったと思っていたのだが口には出していなかった。情けない話だがこっそりと胸の内に秘めている。

「そんな僕たちはどうして動こうと思ったんだったっけ?」
「そりゃあモニカの故郷で不穏なことが起きていて、あの人たちだけに任せておくより俺達が動いた方が早く解決するかもって思ったからで――――」
「そこだよ!」

ヨハンに誘導されながら言葉にしていったところで差しこまれるように言葉を遮られた。

「えっ?……そこって…………あの人たちに任せるより俺達が動いた方が……――あっ……」

そこまで同じようにして口にしてレインもようやく気付く。

「……すいません先生。やっと気づきました。 あの……先生に言われていたのに、俺……慢心してました」

レインが頭を下げながら気付いた言葉をシェバンニ向けると、シェバンニは目つき鋭くレインを見た。レインはシェバンニと目が合うなり怖気づいて目を逸らしたくなるのだが、ここで目を逸らすわけにはいかない。

「僕たちもすいません。自分達の力を過信していたと思います」

レインに続いてシェバンニに謝罪の言葉を口にしながらヨハン達も頭を下げる。
そこでシェバンニは小さく息を吐いた。

顔を上げてシェバンニを見ると、先程までの鋭い眼光は既になく、優しい眼差しを向けられている。

「いえ、わかればいいのですよ。あなた達は確かに強いですが、まだまだ学ぶ立場にあります」

シェバンニが口を開くのだが、言葉を返せない。

慢心があったのかどうなのかといえば間違いなくあった。ヤンセン達には街に起きている原因を解明できない可能性も考慮していた。
そして、ヴァンパイア――この時点ではヴァンパイアかもしれない何者かをヤンセン達が倒せない可能性を考えて自分達が動いていた。改めて追及されると深く考えていない部分もあった。

「今回のことは良い教訓になりましたね」

穏やかな口調で話し続けるのだが誰も言葉を発せない。

「慢心が招く結果が最悪な事態を招くこともあるのだという可能性を考えなさい」

わかっているつもりになっていただけで、実際に経験してから気付くこともあった。

「問題ありませんよ。失敗を繰り返して成長してくれれば。 それに――」

シェバンニはそこで杖を振りかざし自身の周囲にいくつもの魔方陣を展開する。

ポムっと小さな音を立てて姿を現したのはマーリンの姿。
余りにも見事な魔法に目を奪われた。

「私もこの姿になってまで付いて来た甲斐があったというものです」

再び杖をかざして魔方陣を展開して元の姿に戻る。

「何事もなく平穏無事に実習を終えればそれはそれで退屈でしたしね。それに、あなた達が今回の件、苦も無く片付けていればこんな言葉も何の意味ももたないです」

どこか悪戯が成功したかのような意地悪い笑みを浮かべるシェバンニは普段学校では見せない表情だった。


こうして一連の出来事についての振り返りと指導を終えるのだが、モニカはふと疑問が浮かぶ。

「あの?」
「なぁにモニカ?」

「ううん、そういえば私達のこれからの実習ってどうなるのかなって」

いくらかの規律違反をしたのはもちろん、ヤンセン達との関係がどうなるのかも心配であった。

「そこは心配いらないわよ?」
「えっ?」

「ギルドにはわたしがヴァンパイアを倒したって報告しておいたし、ヤンセンさん達にも同じように報告しているわ。だからあなた達は再三の注意を聞かず、勝手に夜中に出歩いたってことを先生から直接注意を受けたっていう程度よ? それに、トマスとヤコブだっけ? 仲間の人は意識を失っていたからあなた達の戦いを見ていないし全く問題ないわ」

「あっ……そう? 良かった……」

いくらか抱いていた不安を払拭されモニカは安堵の息を漏らす。

「(まぁわたしとしてはモニカの成長を見られて十分満足しているんだけどね。それに、ヨハン君かぁ……――――)」

ヘレンは娘の成長を、実戦を通して見届けられたことに満足感を示していた。


それからレナトに滞在する残りの期間はトマスとヤコブが倒れていることもあり、自由時間に割り当てられる。
急な自由時間ということもあり、どうしようかとなったのだが、念のために工芸品を見て回るなどの街の観光をしながらシトラスの影響が街に見られないか確認することにした。

しかし、どこにもそういった気配は見られない。

今後、街にシトラスが何かをするかもしれない可能性についてのことは、ヘレンが随時確認しておくというのでそれ以上の行動を起こす必要もなかった。


そうしてあっという間にレナトに滞在する三日が過ぎる。
それは、モニカが再び故郷を離れるということ。

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