S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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帰郷編

第 百八話 遠征実習の帰路(前編)

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王都への帰路も順調に進んでおり、のんびりとした時間が続いていた。
あと一日もあれば王都に帰還できる頃に来たところ、馬車全体を街道沿いに休憩のため停車しており、そこで視界に人馬の大群が目に入る。

「ヤンセンさん、あれって――――」

不思議に思い問い掛けるとヤンセンは顎を触りながら目を凝らした。

「んー、ああ。あれは王国騎士団だな。数から見たところ中隊といったところだろうな」
「へぇ。騎士団かぁ」

近付くにつれてその大群の足並みが揃っているのがよくわかり、訓練されている様子が窺える。
ガチャガチャと鎧の音を鳴らしてこちらに向かって進んで来ていた。

「確か騎士団って授業でも習ったよね」
「ええ。王国を守る誉れ高き任に就いている方々ですわね」

一学年時に授業で習ったのは騎士団の大まかな構成と任務などの概要。
騎士団長を長として大隊・中隊・小隊と分隊が枝分かれしていき、各隊には大隊長・中隊長・小隊長が役職も兼ねて配置されている。

大隊に関しては規模の大きさから、中隊複数分をまとめる指揮官の任にあることから平時は隊を率いることがない。

騎士団自体は十二の中隊、それが各二百人規模で構成されており、そのうちのいくらかは王都を離れて遠征にでているのだと。

伴って小隊は中隊の中で数人から数十人と細かく分けられており、日常的な活動は小隊単位になる。その采配に関しては中隊長の権限で自由にできるのだということを思い出しているところでふと疑問が浮かんだ。

「あれ?そういえばスフィアさんって小隊長だったような…………?」

廃坑に援軍で訪れたスフィアが小隊長としての位置にあったことが不思議でならない。学校を卒業して一年目で小隊長になるなどということがあるのか。

ヨハンの疑問に同意するようにレインとモニカもエレナを見るのは、エレナが一番事情に精通していることから。

「あー……それに関しましてはまぁ色々とあるようですわよ。わたくしも詳しく教えてもらえたわけではないのですが、スフィアも色々と苦労しているそうですわね」

「ふーん、そうなんだ」

久しぶりにあったスフィアの様子からはとてもそうは見えなかった。苦労をしているように見えるとしたらスフィアに付き従っていた騎士がスフィアに心酔しているように見えたぐらい。

そんな話をしていたところで、騎士団はもう目の前まで来ており、商人の荷馬車は街道を少しずらして騎士達が通過するのを見送る。

その人馬の内で馬に跨っている人達は重装備の鎧を着込んでいる騎馬兵。
対して、歩いている人達は軽装備の歩兵。

共に鎧の肩や胸、盾や剣の柄にはシグラム王国の紋章が刻まれていた。

「おーい!止まれ止まれッ!」

人馬の大群がもうすぐ通り過ぎようとしたところ、最後尾に位置するところで他の騎士とは違い、一際豪華な銀鎧に身を包んでいた中年の男が立ち止まるように号令を掛ける。

最前列まで伝令が伝わり騎士達はすぐさま歩みを止めた。


その様子を見ていたヨハン達はどうしたのだろうかと思っていたところに、豪華な鎧を着た男がこちらを向く。視線の先はヤンセンを捉えていた。

「おや?そこにいるのはヤンセンではないか?こんなところで何をしている?」

その豪華な鎧の男は馬に乗ったままヤンセンに声を掛ける。

「ああ。今はこの荷馬車の護衛をしているところだ。グズランは遠征か?」

鎧の男、グズランはヤンセンの言葉を受けると、あからさまに嫌そうな顔をしてヤンセンを見下ろした。

「グズラン『様』だろ? 俺は今騎士団第六中隊長だぞ? チッ、まぁいい、同期のよしみだ、今回は大目にみておいてやろう。こっちは遠征訓練で忙しいからな。お前にかまっている時間がもったいないわ」

口角を上げて笑う姿は嫌味が滲み出ている。どう見ても態度も上から目線だった。

「(じゃあこんなところで立ち止まらずさっさと行けよ)」

レインはグズランを初めて見たにも関わらず、一目で嫌味なやつだと判断する。

「フンッ、未だに冒険者か。まぁお前には丁度良いかもな。似合ってる似合ってる。ハッハッハッ」

グズランは周囲を見渡し、商隊を確認すると、そこで近くに居るヨハン達を見て鼻を鳴らした。

「いやいや、すまない。まぁお前も忙しそうだな、ガキのお守りなんかして。どうせそのガキたちは遠征実習で面倒を見ているガキどもだろ?」

ヤンセンが否定も肯定もする間もなくグズランはそのまま言葉を続ける。

「まぁせいぜい頑張れよ。おい行くぞ!」
「ハッ!」

グズランはヤンセンを一通りなじり、全体に号令を掛けて前方へ進軍した。
騎士団が通り過ぎると商人は休憩を終えるための片付けをして荷馬車を街道に乗せる。そして王都への帰還路を再び進みだす。

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