S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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帝都訪問編

第百八十二話 帝都への道中

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「そっかぁ。アイシャちゃんの村にその変な魔道具が関係しているかもしれないんだね」

ニーナは馬車の荷台ですやすやと寝入っているアイシャを横目に見る。

「うん。とは言っても可能性の話であって断言はできないよ?」
「ふぅん」

アイシャは薄暗くなる頃には疲労からすぐに寝てしまっていた。

「(この件、仮にシトラスだとして、シトラスは一体何をしようとしているのだろう?)」

魔族のシトラスの目的。
帝国中にある村を壊滅させることでなにかが得られるのだろうか。

「(それとも、オルフォードのような別の誰かが?)」

それを考えるのだが、答えはわからない。
答えの見つからない答えを探して夜は更けていく。


翌日、馬車はアイシャを乗せて走っていた。


朝、目を覚ましたアイシャは戸惑いながらニーナにしがみついてラウルを見上げている。

『アイシャも一緒に連れていくんですよね?』
『当たり前だろ。置いていくことなんてできないだろ』

帝都に向かうのに同行させていた。

『だがそうは言うが、連れて行った後のことは考えているのか?』
『あっ……いえ、すいません。全く考えていませんでした』

別に責められているわけではないが、何かを頼むにしても誰かを頼るにしても、どう答えても無責任な気がする。

『すまんな。少し意地が悪かった。実はそれについても考えてある。というか今までそうしてきたのだけどな。アイシャさえよければの話だが、帝都には孤児院があるからそこに連れていこうと思ってる』

ラウルはそのままチラリとアイシャに視線を送った。
孤児院、親のいない子どもが生活するその場所。そこでは養子に入る家庭が見つかるか、大人になるまで過ごすか、それは個々によって異なるのだと。

『(孤児院か。それなら)』

ラウルのその提案も理解できた。
孤児院に孤児を預けるのは無難なところ。皇子でもあるラウルなら十分な口利きができるのだろう。

『あのねアイシャ』

アイシャの目線に合わせるために小さく腰を下げる。

『…………』
『急な話だけど、僕たちと一緒に帝都に来てもらってもいい?』
『……うん』

小さく頷くアイシャ。

『ありがとう』

擦れるように細く呟かれたその声。
アイシャ自身もわかっていた。もう自分には帰る場所がないのだということは。

一日目の道中はアイシャの口数が少ないのは当然。気持ちの整理がついていない。
ニーナがいくらか話し掛けているのだが、アイシャは言葉を返すのに戸惑いが見られる。

最寄りの小さな町で宿を取っているのだが食も細かった。
そして迎えた二日目。

「ねぇ」
「はい」
「そういえばアイシャちゃんっていくつなの?」
「えっと、十歳です。 お姉ちゃんは?」
「あたしは十二歳だよ。あっ、こないだ十三歳になったんだった」
「そうなんだ」
「あと、お姉ちゃんよりもニーナって呼んでもらった方が嬉しいな」
「うん……わかった。ニーナさん」

その頃にはなんとかアイシャは落ち着いて来た様子で、ニーナとはそれなりに話すことができるようになっている。

「ねぇ……ニーナさん」
「なに?」
「今……向かってるのは帝都ですよね?」
「うんそうだよ。アイシャちゃんは帝都に行ったことはあるの?」

アイシャは下を向いて首を左右に振った。

「ううん、ないです。私はいつも村の手伝いをしていたから。ただ、おかあさんに帝都に行きたいって何度もお願いしていたこと、思い出したので」
「そっか。そうだったんだね」

アイシャの頭を優しく撫でるニーナ。

「大丈夫?」
「うん。お姉ちゃんが私のことを想ってくれているのはちゃんとわかってますので。それに、もう村に戻れないことも」

来た道をジッと見つめる。
その眼差しからは寂しさに悲しさといった感情を抱いていることは容易に見て取れた。

「(頭の良い子だね)」

これだけ辛いことがあったにも関わらず自分の境遇を受け入れている。

「大丈夫。きっと帝都は良いところでアイシャはそこで楽しく生きられるよ」
「はい」

アイシャの手を繋ぎながらそう答えた。
ニーナも帝都には行ったことはないのだが、不安を煽らないように配慮しているのはわかる。

「強い子だな」
「はい。あの年でしっかりともう自分の置かれた境遇を理解して前を向いています」
「まだ親に甘えたい歳だろうにな」

晴れ渡る空の下、ガラガラと馬車は帝都に向かって進んでいった。



 ◇ ◆ ◇


そうして五日が過ぎる。

途中数回程度獣型の魔物に襲われることはあったのだがラウルとヨハンが問題なく討伐していた。

『終わりましたよ』
『へぇ、坊ちゃんもなかなかやるみたいっすね』
『どうも』

ヨハンが戦えるというのを確認したロブレンは満足そうにする。

『お兄ちゃんだけずるいぃ』
『しょうがないじゃない』
『ぷぅ』

恨めしそうに見られるのだが、ニーナはアイシャの近くにいるようにラウルからもヨハンからも言われているので動きようがなかった。

こうして進んでいた中、ラウルの説明によればもうあと一日もあれば帝都に着くのだと。時折ニーナとアイシャはメロディストーンの音を聴いて笑っている姿があった。

「あの嬢ちゃん、もう笑ってるんだな」

御者台を降りたロブレンがアイシャの顔を見て安堵の息を吐く。
途中、綺麗な湖があったので馬車を停めて休憩していた。

「無理してなければいいんだけど」

頭の良い子だけに無理しているように見えなくもない。

「あんだけ笑ってんだから大丈夫でしょ」

ロブレンは欠伸をしながらゴロンと横になり片肘を着く。

「ほんと最初横道逸れたからどうしたもんかと思いましたぜ。こっちは依頼人ですよ?」
「わかってる。すまなかったな。だが見過ごすことはできなかったんでな」
「それはわかりますけど、慈善活動をしている余裕もこっちにはないんすよ。これから商人として食ってく自分にとっては女の子を拾っても得にならねぇんですわ。まさか売りさばくわけにはいかないっすから」
「しょうがないな。なら帝都に着けばそれなりの礼はするさ」
「へいへい。期待していますよ旦那。じゃあ俺は軽く寝させてもらいやすんで」

ひらひらと手を振るロブレンはそのまま昼寝を始めた。

「やっぱりラウルさんが皇族だって信じてないみたいですね」
「まぁそういうやつもいるだろうし、俺としてはそっちの方がありがたいからな。その辺りアトムは遠慮知らずだったな」
「……でしょうね」

父は一体どれだけ無遠慮な人間だったのだろうか。

「アイシャ、孤児院に馴染めますかね」
「それはシスターに任せればいいさ。あっちはその道のプロだからな」
「そうですか」

ラウルがここまで言うのだからこれ以上心配しても仕方ない。

「そういえばラウルさん」
「ん?」
「落ち着いたら聞きたいことがあったんです」
「聞きたいこと?」

脳裏を過るのはあの時のラウルの剣。
アイシャが横たわっていた地下への扉が埋まっていた建物をたったの一振りの剣で吹き飛ばしたのだ。ただの剣とはとても思えなかった。

「もしかしてあの時、アイシャを助け出す時のアレは闘気を飛ばしたのですか?」
「あれとは、もしかして……コレのことか?」

ラウルはスッと剣に手を送り、前傾姿勢になるや否やすぐさま剣を抜き放つ。
刹那の瞬間、目の前にあった樹の幹がスパンと音を立てて軽く切り落とされた。
余りの手際に呆気に取られる。

「さすがだな。コレが闘気だとすぐに気付いたのか?」
「はい、まぁ。でもそれはラウルさんが魔法を得意としていないって言っていたので、もしかしたらそうなのかなって程度ですけど」
「だいたい正解だな」

魔法でないなら剣に集中させた闘気を飛ばしていたのだと推測できた。

「ではあの時の剣と今見せた剣の違い、わかるか?」

だいたい正解という辺り、まだ他になにかあるのだと。

「違い……ですか」

いつもラウルは自分自身で考えるように促して来る。答えを簡単に教えてはくれない。

「違い……かぁ」

あの時は建物の残骸を吹き飛ばしていて、今目の前で行われた剣は樹を勢いよく切り倒していた。

どうすれば魔法を用いない方法でそれが行え、かつ闘気を使用してそれができるのか。一体闘気に何をすればそれが可能にさせるのか考える。

鋭利な刃物と化した今の技に比べてあの時は建物を吹き飛ばしていた。

「鋭い刃と風圧の様な。まるで風魔法のようだなぁ」

しかし魔法ではない。
その違い、闘気でそれが可能にさせる方法があるのだとしたら……――。

「――……あっ! もしかして、それって闘気の密度を調整しているんですか?」

剣が特殊な剣、それこそ魔剣や聖剣の類による効果ではないと断言できる。そんな答えを用意しないのはわかっていた。

可能性があるとすればソレしか思いつかない。

闘気を放つということがどういうことなのかはまだよくわからないが、天弦硬を得た今、闘気の密度は調整ができるのだということはよくわかった。

「そうだ。それが答えだな」
「へぇ」
「そしてお前に次に教えるつもりだったのがさっき見せたこの技。剣閃だ」
「……剣閃」

剣閃とは、闘気の密度を維持したままそれを飛ばすというもの。その難しさがどれほどというものなのかは説明されなくともわかる。
恐らく、闘気を飛ばすその瞬間に密度をしっかりと維持していなければ放たれた闘気が霧散するのだと。

実際にすぐさまこっそりと手先に闘気を集中させてみて、それを飛ばす意識を持ってみるのだが、どうにも飛ぶイメージが持てない。魔法なら問題なく放てるのに。

「これを残りの期間で扱えるようになってもらう」
「わかりました」

グッと覚悟を持つのはただ旅をしに来たわけではない。
ラウルから色々と学ぶために旅に同行している。

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