S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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帝都活動編

第二百十二話 勝負の行方

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わけもわからず案内されるまま移動する。
向かう先はギルド長室。
ギルドの最上階、三階にあるギルド長室は王都のギルド、アルバの部屋よりも一回り大きかった。

そこに置かれた長机に腰掛けることになり、中央にアリエルが座る。
向かい合う様にしてヨハン達とゼン達が座った。

「さて、では総評を始めようか」

笑顔のアッシュ達に対して、未だに憎々しげにアッシュ達を睨みつけるゼン達。

「っと、その前に」

アリエルがヨハンとニーナを見る。

「きみたちはこれが何のことか聞いているかい?」
「いえ?」

チラリとアッシュを見ると、アッシュは申し訳なさ気に頬をポリポリと掻いていた。

「そうか。何もしらないか」

アリエルは小さく溜め息を吐く。

「ではまずそこの説明からする」
「はぁ」

一体何の話をするのか、自分達に関係するのかどうかもわからない。
アリエルは卓上に両肘をついて口の前で手を組んだ。

「実はね、この二組にはある提案を出していたんだよ」
「提案……ですか?」

指名依頼とはまた違う話なのだということはわかる。

「で、その提案。それに繋がるのは、今度行われる外交視察の護衛のことなんだけどね」
「外交視察?」
「聞いたことはないかい?」
「はい」

アリエルは小さく微笑んだ。

「外交視察とはね――――」

外交視察とは、要人が主に他国に赴いて直接その目で見て聞いた情報を持ち帰るということなのだが、その中には他国との交流も含まれている。
他国に限らず、辺境で統治されているいくつもの帝国領への視察もその中に含まれていた。

「つまり、その護衛をどちらかにするかを決めていたということですよね?」
「ああ。だがそんなに単純な話ではない」

そして肝心なのが、今回の護衛対象が皇族なのだという。
身辺の護衛は屈強な帝国兵団で固めることになっているのだが、蛇の道は蛇。冒険者にしか扱えない情報もあるだろうからという理由で少数ではあるが冒険者の護衛も雇うことになった。

ある程度経験年数のある冒険者パーティーに絞られて候補に挙げられていたのだが、最終的に残る一枠、それを争っていたのがこの二組。
どちらにするのかはギルド長の判断に委ねられていた。

「(皇族……。ということは、ラウルさんの血縁者ってことだよね?)」

一瞬その皇族がラウルなのかと考えるのだが、恐らくそれはない。
ラウルが帝国に戻るよりも前に選考が持ちかけられていただけでなく、剣聖であるラウルに冒険者の護衛が必要なのだろうかと甚だ疑問である。

「まぁ詳しい話はまたあとで、というわけで。だいたいそんな感じなのだがわかったかい?」
「はい」
「あたしはちんぷんかんぷんだよぉ」

返事はしたものの、隣に座っているニーナは話に全くついて行けていなかった。

「しょうがないなニーナは」
「だって難しい言葉ばかり並べられてもぉ」
「……別に難しくないけどね」

苦笑いする。

「簡単に言うと、要はアッシュさん達かあの人たちのどっちかが偉い人たちの護衛をするってだけだよ」

より噛み砕いて説明した。

「ふぅん」

既にニーナはどうでも良い様子を見せている。

「(なるほどね。この勝負に勝った方が一段上にいけるってわけだ)」

ただでさえ国家からの依頼。それも皇族の護衛ともなれば報酬はお金だけではなかった。
上手く行けば皇族とのパイプ、繋がりが出来る。
それどころか、気に入られて取り入ることができれば何らかの役職に取り立てて貰えるかもしれない。

そう考えると必死になるのも頷けた。

「で、だ。結果は…………まぁ言わなくともわかるよな?」

アリエルがアッシュとゼンを交互に見る。

「納得いかねぇッ!」

語気を強めてゼンが言い放った。

「どうしてB級の俺達がC級のこいつ等に譲らなければならねぇんだよ!大体オーガだってコイツラが倒したかどうかすら怪しいもんじゃねぇかよッ!」

アッシュ達をこれみよがしに見下す様にして指差す。

「そのことだけどね。アッシュ達には今回の依頼達成報酬としてB級に昇格させることにするよ」

「「「えっ!?」」」
「は?」

思わぬ話。
アリエルの言葉を受けた一同がそれぞれの反応、驚きと同時に笑顔になるアッシュ達と対照的に口を開け呆けるゼン。

「加えて、ゼン。きみ達はC級に降格だ」

鋭い目つきでゼン達を射抜いた。

「なッ!?」
「どうして俺らが!?」

それまで黙っていたゼンの仲間も声を荒げる。

「言わなくともわかるだろう?」

穏やかな口調は変わらず、冷たい眼差しをゼンたちに向けた。

「うっ……」

ゼンたちはアリエルの目を真っ直ぐ見ることができずにそれぞれ黙り込む。

「あの……?」

そこでアッシュが恐る恐る手を挙げた。

「ん?なんだい?」

アリエルはすぐさま笑顔に切り替えアッシュに顔を向ける。

「い、いえ……――」

思わぬ笑顔を向けられることで困惑が増した。

「――……その、どうしてゼン達が降格するのでしょうか? 俺達が昇格するのはまだ時間かかると思っていたので、その、率直に嬉しいのは嬉しいのですが…………」

まったく意味がわからない。
ギルド長からの指名依頼を達成したことによる昇格。
それは素直に嬉しかった。

だが、依頼自体を達成したのは間違いないのだが、そのあとに遭遇した脅威を取り払ったのは自分達ではない。微妙に歯痒さが残る。

「(ヨハンくんとニーナがいなければ……)」

そもそもとして、自分達ではオーガを倒し切るということなどということはとてもできなかった。
確実に死に陥っていた。

「あー。実はね。そのことだが、ゼン達にはアッシュ達が私からの指名依頼を受けていたことを先に伝えてあったんだよ」
「えっ?」
「ゼン達はどうやら君達のことを探っていたようだしね」

その素行をアリエルも把握している。
確かにあまり気分の良いものではなかった。

「つまり、ゼン達が達成できなかった依頼をしてもらうことと、邪魔をしないことを約束してもらっていたのだけど、どうやら守ってもらえなかったようなんでねぇ」

ギロリとアリエルはゼン達を見る。
ゼン達は言葉を返すどころか、アリエルの顔も見れずにいた。

「そう、なのですか……」
「だからきみ達は何も気にしなくてもいいから」

微笑みかけられるのは、ゼンたちとは真逆の態度。
とはいえ、今ここで言うことでもないのだが、オーガを討伐したのはニーナであり、素直に喜べるものでもない。

「さて、他に質問はあるかい?」

アリエルが全体に向けて声を掛けるのだが、誰も何も言わない。口を開かない。

少しの静寂が流れるその場で口火を切ったのはゼン。

「チッ!」

ガタンッと椅子を倒すほど勢いよく立ち上がる。

「てめえら!いくぞっ!」

ふてぶてしい顔を見せるや否や、ドカドカとドアの方に向かって歩いて行った。

「お、おい! ゼン!」

仲間の男たちもゼンを追う様にして後に続いていく。

「てめぇら。覚えてやがれッ!」

バタンとドアを勢いよく開けてゼン達は部屋を出て行った。

「はははっ。絵に描いたような負け犬の態度だねぇ」

アリエルが一人で笑うのをアッシュ達は苦笑いすることしかできない。
内心では笑っているのだが、同じレベルで笑ってもいいものなのか。

「おっと。私としたことが、冒険者の区別をつけてはいけなかったね。すまないすまない」

失言だとばかりに口元に手を当てて、アリエルは表情を戻す。

「さて、これで君たちの話はこれで決着だとして、続けて今後の話をしなければいけないのだが、その前に……――」

アリエルはヨハンとニーナを射抜くようにして鋭い目つきで見た。

「――……ここから先は、さっき下で騒いでいたオーガについての話を聞かせて貰おうか」

アリエルが一階に来ていた理由がここにある。
実際的にはアッシュ達とゼン達の話はついでの話。
他の受付員から突拍子もない話をアッシュとゼンがしているという報告を受けていたから半信半疑で降りてきていた。

「あっ……」

アッシュ達も思わず顔を見合わせるなり揃ってヨハン達を見る。

「(えっと……どうしよう)」

話を聞かせろと言われても、どう話をしたらいいものなのか。
現状、ニーナのことは説明のしようがなかった。

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