S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

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帝都活動編

第二百十四話 シスターとギルド長

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「おかえりなさい!」

孤児院に戻ると笑顔のアイシャに出迎えられた。

「ただいま」
「たーだいまぁ」

「んー?あの人たちは?」

アイシャはそのままヨハンとニーナの後ろ、アリエルやアッシュ達の姿を確認するなり口元に指を一本送り疑問符を浮かべる。

「あー……お客さん?」
「ふーん。あっ、そういえばラウルさん来てたよ」

思い出したかのように建物の方を向いた。

「わかった。ありがとう」
「知らないお姉さんも一緒だった」
「知らないお姉さん?」
「うん。すっごい綺麗なお姉さん!」

キラキラとアイシャは目を輝かせる。

「へぇ。そんなに綺麗なんだ」
「うん!ニーナさんが可愛いお姉ちゃんだとしたらその人は大人のお姉さんって感じだったなぁ」

その眼には憧れの眼差しが浮かんでいた。
ミモザも相当綺麗な人なのだが、そのアイシャがこれほど断ずるほどなのだからよっぽどなのだろう。

「どうかしたのかい?」

アッシュに声を掛けられる。

「あっ、すいません。中にいるみたいなんでちょっと声を掛けて来ますね」
「わかった」

アッシュ達を連れて来たことを伝えに建物の中に入ろうとすると。

「あっ!」

声を発していたので振り返るとアッシュはどこか気恥ずかしそうにしていた。

「どうかしましたか?」
「いや、以前会った方は今日もいるのかい?」
「以前会った方?」

誰のことを言っているのか理解できない。

「あっ!お兄ちゃん。ミモザさんのことじゃないかな?」
「ミモザさん?」
「ほら、最初にアッシュさんがここに来た時、ミモザさん見送ってくれてたじゃない」

確かにそういえばそうだった気がする。

「まぁ、ミモザさんはここのお母さんみたいなものですからもちろんいますよ。今居るかどうかはわかりませんけど、それがどうかしましたか?」
「いや、いるならそれでいいのだよ。ほら、あの時ヨハン達のことを大事なお客さんと言っていたからさ。今日も挨拶ができればと思って…………」

どういうわけか、アッシュの目が泳いでいた。

「わかりました。声を掛けておきますね」
「ああ!すまないね」

ヨハンの返事を受けた途端、パッと笑顔になる。

「おい。そのミモザって人がどうかしたのか?」
「いや、それが……凄く綺麗な人だったのだ」
「へぇ。あの子達がお母さんみたいな人って言ってるもんだから割と歳がいってるもんだとあたいは思ってたさ」

ミモザに会ったことのないモーズとロロ。

「なんだアッシュ。ミモザが気になるのか?」
「え?ギルド長はご存知で?」
「ん?ああ、まぁね。腐れ縁ってところだね」

アリエルは孤児院を見上げながら眉を寄せた。


◇ ◆ ◇


「あっ。ミモザさん」

孤児院の廊下を歩いているミモザを見かけたので声を掛ける。

「あら。おかえりなさい。ラウルが来ているわよ?」
「はい。ギルドで手紙を受け取りました」
「そう。応接間にいるわ」

「あの、ミモザさん」

そのままどこかへ行こうとしたので、先程のアッシュのことがあるので引き留めた。

「どうかした?」
「はい。ミモザさんに挨拶をしたいって、アッシュさんが」
「アッシュって、あの頼りなさそうな先輩?」
「頼りないだなんて、そんなことないですよ。色々と教えてもらいましたし」

首を傾げながらアッシュのことを思い出すミモザに苦笑いしながら答える。

「外にいるの?」
「はい。それに、ラウルさんが連れて来て欲しいってことだったので」
「なら一緒に入って来ればよかったのに」
「いや、一応許可を貰わないことには」
「そんな気を遣わなくていいわよ」

子ども達の生活の場へ勝手に連れて入るわけにはいかなかったのだが、ひらひらと笑顔で手を振るミモザ。

「いいわ。私が呼んで来てあげるから先に行っておいて」
「わかりました。ありがとうございます」

そうしてラウルが待つ応接間に向かった。


◇ ◆ ◇


「すいません、こんなところでお待たせしてしまって」

パタパタと小走りになり、ミモザは孤児院の外で待つアッシュ達の下を訪れる。

「い、いえ!お気遣いなく! それと、ご無沙汰しております!」

大きな声で挨拶をした。
それを横で見ていたモーズとロロは思わず笑ってしまう。
これほど畏まったアッシュの姿などそうそう見れるものではなかった。

「(まぁでも確かにこいつぁ綺麗な人だわな)」

ミモザに視線を送りながら、アッシュの気持ちもわからなくもないなといった程度の感想をモーズが持つ。

「あの、中にご案内しますね」

建物に招き入れるように手を動かした。

「ああ。助かるよミモザ」

ミモザの笑顔の目の前をアリエルが通り過ぎていく。
途端にミモザは笑顔のまま頬をヒクヒクとさせた。

「ど、どうしてアリエルがいるのよっ!」

ガシッとアリエルの肩を掴む。

「どうしたもこうしたもないだろう?」

アリエルは大きく溜め息を吐いた。

「私はギルドマスターだ。冒険者の活動を視察することぐらいあるだろう?」
「ないわよっ!」

ギルド長自身が直に冒険者の活動、それも生活の拠点を視察するなどということは考えられない。

「本当にそうか?」
「当り前じゃない!」

一部の上級冒険者はその限りではないのだが、ヨハンとニーナはここでは無名。

「ラウルが来ているのだろう?」

ミモザに小さく耳打ちする。

「なっ!?」
「なら私が来ても特に不思議はないな?私もあの子達のことで報告したいことがあるしね」
「あ、あなたがあの子達の何を報告するっていうのよ?」
「それは後のお楽しみということで」

ミモザの肩をポンと叩きながら片目を瞑ってみせた。
そうしてそのまま中に入って行く。

「(またラウルに何かちょっかい出す気じゃないでしょうね!)」

憤りを感じながら握り拳でその背を見送った。

「み、ミモザさん。お、俺達も入っていいですか!?」

グイっと前のめりになりアッシュが問い掛ける。

「…………」
「ミモザさん?」

後ろ姿に声を掛けたのだが返事がなかった。
どうしたのかと、再度声を掛ける。

「……ええ」
「うっ!」
「どうぞご自由に」

振り返って笑顔で返事をされたのだがその笑顔の奥にある威圧、それを感じて思わず息を呑んだ。

「入って突き当りを右に曲がったところの最初の部屋ですので」
「……わ、わかりました」

アッシュ達を案内することもなくミモザは先に中に入って行く。
呆気に取られたままミモザの背中を見送ってしまった。

「え?」

そこで両肩にポンと重みを得た。
モーズとロロが苦々しい顔をしながら肩に手を乗せている。

「アレはやめとけって。お前には絶対手に負えないって」
「そうさね。仮に上手くいっても尻に敷かれるのが目に見えてるさね」

共に先程のミモザの笑顔の奥にある、その持ち得る狂気を感じ取っていた。

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