S級冒険者の子どもが進む道

干支猫

文字の大きさ
222 / 724
帝都活動編

第二百二十一話 帝都出発

しおりを挟む
五日後、ヨハンとニーナは帝都から外に出ていた。
前方、北に向かうその街道には、装備を整えた帝国兵何百人もの姿が遠くに見える。

「まさか護衛対象がラウルさんの弟さんだったなんてね」

アリエルが語った皇族の護衛依頼。
外交視察を行うのは、ルーシュ・エルネライ。
つまり、帝位継承権第三位に当たる人物のことだった。

『そうか。ルーシュの護衛に入るのか』
『ああ。だからラウル達とも無関係というわけでもないのだよ』

護衛とはいっても所詮末端。
近辺の護衛は帝国兵団とより上級の冒険者が務める。

『ヨハン、ニーナ。すまなかったな』
『いえ、大丈夫ですよ。というわけで向こうでもよろしくお願いします』
『ああ。むしろ俺達としてはその方が助かるからな』

『まぁその方が都合の良いこともあるか』

メイデント領への道中、目的地は同じになったとはいえアッシュ達が任務を受けたルーシュの護衛団とラウルは別行動をすることになっていた。
ルーシュ・エルネライは公務として赴くことになっているのだが、ラウルは個別に極秘裏にメイデント領に向かうことになっている。

「それにしても、アイシャ、大丈夫かな?」
「まぁあの様子なら大丈夫でしょ」
「そう……だね」

後ろを振り返り帝都の奥、見えはしない孤児院の方角を見た。


◇ ◆ ◇

孤児院を出る前にアイシャに別れの挨拶を済ませている。
玄関でアイシャは俯いてもじもじとしていた

「ほら、頑張って」

ミモザが小さく声を掛けるとアイシャは顔を上げ、そこで口を開く。

「あ、あの? ヨハンさん、ニーナさん。帝都から出て旅に出るんですよね?」
「うん。ごめんね、ずっと一緒に居てあげられなくて」
「ううん、いいの。私はただ助けてもらっただけじゃなく、ここまで連れて来てもらっただけでも十分だし友達もできたし」

顔を上げたアイシャは満面の笑みを浮かべた。

「あー、でも順調に行けばまた一か月後には戻って来るからさ」
「武闘大会のことですよね?」
「うん。まぁ上手く帰って来れればの話だけどね」
「……そうですか」

ラウルには話のついでに武闘大会のことを相談している。
今回の遠征が無事に終われば帝都に戻って大会に出た後にシグラムに戻るという許可をもらっていた。

「また帝都に来た時はアイシャちゃんの美味しいご飯食べさせてね!」
「もちろんですニーナさん! その時はミモザさんより美味しいの作れるようになっていますね!」
「あっ!言ったなー!じゃあ今度ニーナちゃん達が来たときはどっちが美味しいか料理勝負よ!」
「えへへっ」

目尻の涙を拭って、ヨハンとニーナとの別れを惜しみながらもそうして見送られた。


◇ ◆ ◇


「(それにしても、こんなところでシトラスの名前を聞くなんて……)」

考えに耽るのは、アッシュ達との話を終えたその後のこと。
ラウルがメイデント領を目指すその理由が、ヨハンがもたらした魔族シトラスと魔物を召喚する魔道具の情報。

帝国内部に謀反者がいることを想定した上で暗部に情報収集をさせた結果、それがどうにも今回の外交視察に関係しているのだという。


「待たせたな」

後ろからラウルの声が聞こえた。

「えっ!?」

振り返ると、ラウルの隣にいる人物に驚く。

「あれ?このお姉ちゃんも行くの?」
「ええ。それがなにか?」

ラウルの隣にはカレン・エルネライの姿があった。
その姿は白のローブ姿は変わらないのだが、どう見ても旅支度をしている。

「カレンもルーシュに付いていくことになっているのでな」
「ええ。わたしはルーシュの補助をする必要もあるのです。それに、今城に残っていてもアイゼン兄様に邪魔者扱いされるだけですので」

帝位継承権を持たないカレンが持てる役割は限られていた。
実弟であるルーシュとは歳も七つ離れているのだが、継承権のあるルーシュの方が立場としては上。

「(まぁ、おまけみたいなものだけどね)」


◇ ◆ ◇

数日前、帝国城にて。

「ラウル様、密書が届いております」
「ん。わかった」
「では失礼します」

ラウルの私室を訪れた臣下によって手渡されるその封筒。
臣下から封筒を受け取り、クルっと見渡して見ても封筒には何も書かれていなかった。

「俺が帝都にいるかどうかもわからないのにわざわざ送ってくるなんてな。一体誰からだ?」

ラウルは懐から羽ペンを取り出し、羽ペンに魔力を流し込む。
極秘文書の際に用いられるその魔道具は、魔力により閉じられていた。
瞬間、羽ペンと封筒が光ったかと思えば封筒は自動で開かれる。

「どれどれ?」

中から紙を取り出し、目を通すと同時にラウルは驚愕に目を見開いた。

「帝国の宝珠を持って来いだと!?」

手紙の差出人はローファス王であり、内容の詳細は直接伝えるのだが、ヨハンを連れて帰る際に合わせて帝国の赤の宝珠を持ち出して欲しいという内容。

「どういうことだ?あれは門外不出の宝珠、それを持ち出せなどということは俺にもおいそれとできることではないぞ?そんなこと青の宝珠を管理しているシグラムも同じだろうに…………」

しばし思考を巡らせる。

「だが、これは間違いなくローファスからのもの」

字体や密書の構造上、偽造とは思えない。

「このタイミングで意味もなくこんなものが送られてくるとは考え難いか……」

となると何らかの理由でそれが必要になるということなのだが、その理由は直接話すという。

「むぅ……。仕方ないな……――」

どうしようかと悩ませた結果、どちらにせよ持ち出すならば皇帝の許可が必要になるという結論に至った。

そうして皇帝の私室を訪れる。

「――……なるほど。理由はわからないのだな?」
「はい」
「ふぅむ。どうしたものか。あの小僧は楽観的な部分はあるが、一国の王としては十分弁えておるからの」
「はい。如何致しますか?」

ラウルの言葉を受けてマーガス・エルネライ皇帝は僅かに考え込んだ。

「そうだな。どちらにせよそう長くない時を以て皇帝の座は明け渡すことになる。ならば今回の件、その件を解決したのならば次代が誰になろうとも我が名を以て持ち出しを許可しよう。もちろん一筆したためておく」
「ありがとうございます」
「だが、本当にそれでいいのか? 魔族の関与もまだ下調べ段階なのだろう?」
「ええ。ですが、間違いないと思われます」
「勘か?」
「ええ。勘です」

シンバ達暗部の調べによると、メイデント領において不穏な噂が立ち込めているのだと。
どうにも魔道具の出所がその領地だと思えてならない。

「そうか。お前の勘は当たるからな。それとだ。報告にあったオーガを倒したというそのアトムの子の顔だけでもせめて見れたら良かったのだがな」
「さすがにそれは今の皇帝に会わせるのは難しいかと」
「それも仕方ないか……ゴホッ、ゴホッ!」
「皇帝、そろそろお休みになられた方が良いかと」
「あ、あぁ」

ベッドに横になり、マーガス皇帝は天井を見上げる。

「仮にこれが上手くいけば、あと残るはカレンのことだけだな」
「上手くいけば、ですが」
「そこはお前がなんとかするのだろう?」
「最善は尽くします」
「ははは。頼んだぞ」
「かしこまりました」

目を閉じるマーガスに向かってラウルは深々と頭を下げた。


◇ ◆ ◇

「どうかしましたかお兄様?珍しく上の空でしたけど?」

目線を下ろした先には小首を傾げている妹、カレンの姿。

「いや、なんでもない」

視線の先のカレンを見て思案に耽る。

「(カレンの将来を見据えると、やはり今回の件を上手く片付けないことにはな)」

目の前のカレンは疑問符を浮かべながら小首を傾げた。

「そうですか?」
「それよりも、気を引き締めておくことだな。向こうで何が起きるのか想像もつかない」
「もちろんです。あの子達よりわたしの方が役に立つのだということを証明してみせます」
「あまり張り切り過ぎて空回りしないことだな」
「問題ありません」

カレンは帝国兵団に合流しようと前を歩いているヨハンとニーナを見る。

「カレンさん。行きますよ?」
「わかってるわよ! では兄様もお気を付けて」
「ああ」

カレンはラウルに頭を下げて小走りでヨハンとニーナを追いかけた。

「さて。では俺も行くとするか」

ラウルは後ろを振り向き、再び帝都の中に戻っていく。
そうしてヨハン達はカサンド帝国北方にあるメイデント領を目指した。

しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件

エース皇命
ファンタジー
 前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。  しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。  悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。  ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

処理中です...